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「僕はもうボロボロに...」 愛されたパン屋のくまくん、引退宣言
くまくんと印象的なふれあいをするお客さんも。
《僕は、ボロボロになってしまったので、もうすぐ引退します》。あるパン屋さんの店頭で、椅子に座った大きなぬいぐるみの「くまくん」が、今月、引退することになりました。幾度となく補修されながら、8年間、働き続けたくまくん。SNSでも話題になった引退発表は「その後」を心配する声もお店に寄せられました。お客さんやスタッフにとって、どんな存在だったのでしょうか。お店を訪ねました。
横浜市の京急金沢八景前にある「ベーカリーハウスアオキ」。パンだけでなく食料品全般を扱っていた先代の時代を含めると、60年を超える歴史があります。
「お客さんに喜んでほしい」と常時200種類のパンを用意するお店には、取材中もひっきりなしにお客さんが訪れていました。
そのお店の店頭には、お客さんはもとよりスタッフにも愛される、ぬいぐるみの「くまくん」がいます。
8年前に引退した初代くまくんに続き、今月引退するくまくんは2代目です。
「ほつれているところを見ると、愛されていることが分かりますでしょ?」。そう話すのは、夫の青木達雄さんとお店を切り盛りする青木礼子さんです。
くまくんは午前7時半から午後9時まで、天気のいい日は毎日外の椅子に座ってお客さんを出迎え、雨の日は店内でお店の様子を見守ります。営業時間が長いのは、駅前にあるお店だから。「出勤や通学の時間から帰宅の時間まで、明るいお店があると安心していただけるかなと思って」と礼子さん。
くまくんは出勤中、写真撮影に応じる時もあれば、子どもたちになでられたり握手を求められたりする時も。
礼子さんが印象に残っているのは、毎日くまくんに会いに来てくれるという男性との交流だといいます。たくさんのくまのぬいぐるみを身につけて訪れ、くまくんのよきおしゃべり相手になってくれているそう。
「その方がいらっしゃってくれる時は、くまくんとその方だけの時間。スタッフも私も2人の空間を大切にしたくて、そっとしています」
そんなくまくんは、お裁縫が得意なスタッフさんが何度補修しても、破れたところから綿が出てきてしまうこともあり、5月末にはSNSで引退を発信。
さらに、急な引退ではお客さんも戸惑うのではと、くまくんにこんなボードを持たせることにしました。
《僕は、ボロボロになってしまったので、もうすぐ引退します。新しいくまくんもかわいがってね。今までありがとう。 くまくんより》
ボードは、お店の2階でカフェを営む長女によるもの。子どもも読めるようにとふりがなをつけました。
「愛してくれた方々の中にはお子さんもたくさんいます。ちゃんとお別れしてほしいなと思っています」
ボードを掲げてからは、直接店頭に来たり、電話をかけたりして「引き取らせてほしい」と申し出てる人もいたそうです。
礼子さんは自分自身とくまくんとの「お別れ」も意識するようになりました。
引退発表後には、くまくんをモチーフとしたパンの販売を始めましたが、「正直なところ、私がちゃんとお別れしたくてやっているところもあります」と話します。
朝の開店時に真っ先にお店に立ってもらい、帰る時にはバックヤードにしまい「おやすみ」となでて帰路に着く。
そんなくまくんには「魂が入っている気がする」と礼子さんは話します。
くまくんが最後に店頭に立つのは、定休日前の今月15日。17日からは3代目くまくんに代替わりします。「3代目は、感謝の思いを伝えてくれるようなくまくんになる予定です」
くまくんを愛した多くの人が気になる2代目くまくんの「その後」は……。
「私の自宅でゆっくり過ごしてもらおうと思います」
◇
取材を終えて、記者がくまくんの写真を撮影していると、帰りがけのお客さんが「うちにも孫が大切にしていたくまがいてね……」と経験を語り始めました。懐かしそうに思い出を語ったのち、「よく働いたね、ご苦労様」とくまくんに声をかけて立ち去っていきました。
礼子さんは「こんなに愛されていたのかと驚きます。みなさんが私たちの思いを想像以上に感じ取ってくださったんだなと感謝しています」。
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