2024年1月、暗闇ボクシングとしてマスコミなどに紹介されてきたb-monsterがサービスの事業譲渡を発表した。現運営にバトンタッチした後は、サービスの整理や新しい制度の導入なども続いている。どのような狙いがあるのか、現運営を取材した。(朝日新聞withHealth)
象徴的だったのは、事業譲渡の前に退職を発表していた人気インストラクターが、約1カ月半後に“電撃復帰”したこと。ファンらに見守られた復帰時のレッスンで、そのインストラクターは運営の体制変更を復帰の理由の一つとして挙げた。
クラブのような暗闇の中で、音楽に合わせてボクシング・エクササイズをする、特化型フィットネスジムの「b-monster(ビーモンスター)」。その事業譲渡が発表されたのは、1月19日のことだ。
海外で流行する暗闇ボクシングを、2016年に日本へ持ち込みスタートしたb-monsterは、24年1月時点で海外を含め11店舗を展開。勢いがあるベンチャー企業として、特に2010年代後半はマスコミにも多く取り上げられた。
知名度は高く、フィットネスに興味があれば、ブランド名を耳にしたことがあるだろう。そのb-monster(前運営:b-monster株式会社)が、全国120店舗を超えるパーソナルトレーニングジム「BEYOND Life Style GYM」およびフィットネスウェアブランド「CRONOS」を運営する株式会社ワールドフィットに、2月1日付で事業譲渡された。
体制変更された2月以降、b-monsterは「NEO Program」として「祭」「アニメ」といった実験的なジャンルのプログラムを取り入れ、「Happy or Not」という、利用者がプログラムの満足度をフィードバックする新しいシステムも導入。
一方で、3月にはポイント還元サービスや、一部のアメニティグッズの提供の終了も発表した。こうした施策の狙いについて、新体制を担うワールドフィット社代表取締役の高城大樹(たかしろ・だいき)氏、取締役の東邦彦(ひがし・くにひこ)氏、b-monster事業責任者の竹内峻己(たけうち・しゅんき)氏に話を聞いた。
新しく導入された「NEO Program」は、現運営が注力しているもので、「今までのプログラムと根本的に違う」と東氏は説明する。
「従来のプログラムは“b-monsterとしてこうしたい”という発想に基づいたものが多かったのですが、NEO Programではその軸を“パフォーマー(b-monsterにおけるインストラクターの呼び方)として”に移しました。
あらためてパフォーマーたちに『今後どんなことをしていきたいか』をヒアリングをすると、熱量を持って『こういうことがしたい』と話してくれて。それが『祭』であったり『アニメ』だったり、これまでにないジャンルでした」
プログラム中に流れる音楽は基本的に洋楽。セットリストはパフォーマーが組むが、世界観が異なるものを取り入れるのは難しかった。あらかじめプログラム自体の新しいテイストを打ち出しておけば、既存のプログラムに慣れた利用者にも受け入れられやすいのではないか、という狙いだ。
「強いのはパフォーマーがやりたいことが実現できる組織。トップがそれを抑圧してしまうとその逆になります。ヒアリングをして驚いたのは、多くのパフォーマーが自発性を強く持っていたこと。パフォーマーが楽しく働いている姿を見せるという面でも、肝入りの施策でした」
他方、自発性を重んじることで、ブランドとしての統一感が薄れることはないのか。これについて、東氏は「ブランドはスタッフの根っこに染みついているもの」「少し表現の幅を広げたくらいで崩れるものではない」とした。同時に、ここで重要になるのが利用者がフィードバックする「Happy or Not」の新制度だという。
プログラム終了後、利用者がフロントで「Happy」かそうでないかの定性的なフィードバックをする。「パフォーマーがやりたいことの先には、必ずお客様の満足がなければいけない」「逆に言えば、それさえ達成できているのであれば、上手くいっているチャレンジだということ」(東氏)。
事業譲渡が決まるまで、インストラクターの退職が相次いでいたb-monster。しかし、人員配置だけでなく、コスト面の見直しも必要で、東氏は「一部やむを得ずサービス終了せざるを得ない状況もあった」と振り返る。3月にはポイントサービスの「b-monster coin」のサービス終了や、アメニティの白手袋プレゼントの終了も発表された。
現在は、冒頭の人気インストラクターの例のような“出戻り”もみられ、「スタッフが団結している」と東氏。 「いわゆる選択と集中」で「当面の課題は落ち着いてきた」と明かす。
「パフォーマーたちに伝えているのは、とにかくお客様に熱狂していただこうということ。今、やる気が溢れている状態なので、とても良い形で再スタートを迎えられていると感じます」(東氏)
b-monsterとしては9年目。引き継いだワールドフィット社は2017年に創業、8年目で全国にパーソナルトレーニングジム「BEYOND」を120店舗以上出店している。今後、どのような方針でb-monsterを運営していくのか。高城氏は「“暗闇系”とひと括りにされるのではなく、“b-monster”というカテゴリを作っていきたい」と語る。
しかし、同社が得意とするパーソナルジムの運営と、b-monsterのようなスタジオ型ジムの運営は、同じフィットネス業界とはいえまったく異なるもの。今回、事業譲渡を進めることにした理由を高城氏に尋ねた。
「総合フィットネスカンパニーである弊社には、パーソナルトレーニングジム事業、サプリメント事業、フィットネスウエア事業、そして近くオープン予定のマシンピラティス事業があります。
一方で、お客様にとってみると、もちろん合う合わないがある。例えば筋トレが嫌いというお客様に、有酸素運動、それもエンターテイメントの要素があるb-monsterという選択肢を提示できることは大きなメリットだと感じました」
パーソナルジムを展開してきた同社には「運動が苦手な方から避けられがちな『筋トレ』というパラダイムからなかなか離れられない」という危機感もあったという。「まだまだ少ない日本のフィットネス人口を増やすことを考えたとき、BEYONDだけでは根本的なアプローチができないと思っていた」(高城氏)ためだ。
ポートフォリオにb-monsterが加わること「さまざまなフィットネスを楽しんでもらえるワールドフィット社」を実現するのが狙いだが、「b-monster自体も『ビーモンはキツイ』というパラダイムの中にある」とも感じていた。そこで、前述の「NEO Program」のように、エンタメ要素が強いものを実験的に展開している。
「エンターテイメントの要素で間口を広くしつつ、運動効率が良いというのは、フィットネスとして稀有なサービスです。また、それが高い知名度を誇るというのも、事業として魅力的でした。
初心者の方に向けた展開だけでなく、すでにサービスに愛着のある中級者、上級者の方のことも、大事にしたい。『Happy or Not』の導入にはそうした想いもあります。コアコンピタンスは守りながら、変化を加えていきたいですね」
同社でb-monster事業の責任者になった竹内氏は「“暗闇系”というジャンル自体が少し落ち着いてきてしまったイメージがあるのでは」と指摘する。一方で、「現場のパフォーマーと話すと、一時の流行りというよりは、もっと奥深いものだと感じます」とも話す。
「プログラムの選曲や動作のメニュー、キューイング(声かけ)など、パフォーマーたちにより一から手間暇かけて作られているものが、まだまだ世間に知られていない。ですので、もっと多くの方にb-monsterの楽しさを知っていただくことが第一の目標です」(竹内氏)