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お金と仕事

ドラッグ、紛争、イスラム国…戦場記者が「それでも撮りたいもの」

ジャーナリストの須賀川拓(すかがわ・ひろし)さん=朽木誠一郎撮影
ジャーナリストの須賀川拓(すかがわ・ひろし)さん=朽木誠一郎撮影 出典: 朝日新聞社

目次

ジャーナリストの須賀川拓(すかがわ・ひろし)さんは、TBSテレビ中東支局長として、イスラエルとパレスチナの衝突現場からの動画配信や、タリバン報道官へのインタビューを行い、危険とされる地域で起きていることに人々の注目を集めてきました。今回、過激派組織「イスラム国」をテーマにしたドキュメンタリー映画を監督した須賀川さんに、リスク管理が必要な現場で「それでも撮りたいもの」について話を聞きました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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徹夜、自分でCG制作までする理由

――「TBS中東支局長」として世界を渡り歩いていたイメージが強いですが、現在はどんな生活をしていますか?

そうですね。最近の現場は能登半島地震の取材でした。普段は午前中に打ち合わせ、午後に取材、夜はnews 23の専属ジャーナリストとして、取材をしたり時には生出演で解説したりして放送に関わっています。

そういうことをしつつ、他のメディアに出演したり、次に行く現場を探しながらビザなどの申請書類を作成したりする、といった感じです。

あとはやっぱり、今回の映画(3月15日から開催されるTBSドキュメンタリー映画祭で上映される『BORDER 戦場記者 × イスラム国』)があったので、その編集ですね。

――忙しいですね。

僕、多動なんで、一回ちょっと落ち着いちゃうと、すぐなんかやりたくなってしまうんですよね。

あとは、何かに集中すると、他のことを忘れてしまうことも多いので……。新人の頃、先輩に昼飯に牛丼を買ってきてほしいと頼まれて、外に出て自分だけ牛丼を食べて、手ぶらで帰って先輩に呆れられたこともあります(笑)。

――意外な一面です。自分で編集もしているんですか?

はい。映画に限らず、僕は全部、自分で編集するので。基本的に報道の人たちの多くは、いわゆる“編集マン”と一緒にやるんですけど。

僕は編集が好きなので、CGでタイトルとかも自分で作っていて。だからちょっと、そこの負荷が高いかもしれないです。ここ数か月は特に忙しかったので、週2か、週3は徹夜して、ようやく少し落ち着きました。

――キツくはない?

ですね。徹夜するときって大体、編集なんですけど、編集は大丈夫なんですよ。なんかいつまででも行けちゃうんです。まあ終わった後にドッと疲れるんですけど。

自分が伝えたいことがあるので、結果的に他人に任せられないっていうところはありますね。

あとは、テレビの作り方で、本来は原稿を書いて、構成を作って、その構成をもとに例えば編集の人が映像をつないでいくわけなんですけど。僕、実はそれができないんですよ。

――「できない」とは?

僕の作り方として、映像重視なので、撮った映像から入るんですよね。映像と現場のレポートをつないで、うんうん言いながら構成していくんです。だから、編集が終わって初めて構成が完成するという。なので、構成を渡して編集をほかの人に依頼する、という通常のことができないんです。

何も紙に書かないんですよ。そのまんま画から始めるんです。なので、指示しようもないし、感覚で映像を選んで「これはそこ」「あれはここ」と組み立てていくので、設計図がないんです。

僕は決められたことができなくて。その場で何が起きるかって、マジでわからないじゃないですか。逆に、決められちゃうとそれを撮ろうとしてしまう。だから僕はノープランで行く方が好きですし、逆にプランを固めちゃうと、もっと面白いものを撮ることができなくなっちゃうような気がします。

だからめちゃくちゃ時間かかるんですよ。ただ、本来、テレビでよく言われるのは「絵が優先でナレーションなんて要らない」という理想論で。効率が悪いんですけど、できるだけそうありたいとは思っているので、この作り方をしています。

「危なくないの?」と聞かれるが…

――取材で危険な地域にも入っていますよね。どのようにリスク管理していますか?

いやー、どうなんですかね。当然、僕が取材で入るような現場は、渋谷のスクランブル交差点を歩いてるかよりかは、危険だとは思うんですけれども。実は僕は、「怖い」「危ない」って思うときは取材しちゃダメだってことにしていて。

ある程度、自分の中で線引きをしているんですけど、「怖い」「危ない」って思う時って、本当は危なくないかもしれないんですよ。

どういうことかって言うと、「実際に危険が迫っている」と「『怖い』『危ない』と思う」って別なんですよね。

わかりやすい例では、動物園に行ったときに、檻の向こうにライオンがいたら、大人は「怖い」「危ない」とは思わないじゃないですか。檻があって安全だと思っているから。

でも、子どもは怖いんですよね。だってライオンがいるから。そこで何が起きるかって言うと、判断を誤るんですよ。怖がって後ずさりしてつまずき、頭に大けがをするかもしれない。「怖い」「危ない」って思うときって、つまり情報がないときなんですよ。

で、そういうときって、子どもと同じで、やっぱり危ないんですよね。無理する可能性があるので、そういう現場はやっぱり回避しなきゃいけないと。

だから、逆に準備ができていて、ある程度は想定できてると、実はそんなに怖くも危なくもない。

――大事なことは何になりますか?

必要なのは、やっぱり情報。知識と経験、あと準備ですね、自分の中のシュミレーションというか。

僕は妄想癖がすごいんですよ。常にめちゃくちゃ妄想しちゃう。「こうなったらどうなるかな」「じゃあ、こうなったらどうなるかな」って。

――「妄想」も、悪い方に妄想していくのであれば、リスク管理ですよね。

まあ、そうです。まず、取材の撮れ高に関しては、もうマックス妄想してるんですよね。これも撮れるかもしんない、こうやったらあれも撮れるかもしんない。

一方で、「あ、でもこれ危ないな」「こんなこと起きたらどうしよう」というのもダブルで妄想しているので、そうすると頭の中でシュミレーションができる。

よく「大丈夫だったの?」って聞かれるのが、アフガニスタンで薬物中毒者たちが集まっている橋の下のレポートなんですけど。

まず、あそこで使われてたのは基本的にヘロインなど、アッパー系じゃなくてダウナー系の薬物なんですよ。みんな、あんまり意識がないし、栄養状態も極めて悪い。で、たまにタリバンの摘発が入って、ひどい目に遭わされるわけです。

そこを取材しようとする僕らは、海外のメディア。海外のメディアって、タリバンは守るんですよね。何かあったら国際社会の目が向きやすいから。

タリバンが許可して、あの国で取材できている以上、タリバンとしては、我々を守る義務があると、少なくとも彼らは思ってるんです。我々は別に守ってほしいと思ってないですけど。

だから、あのあたりはタリバンが定期的にパトロールしてる。こういう情報があると、「この人たちは手を出してこないだろうな」っていう想定ができるんですよ。

それでも伝えたいのは「人の営み」

――そうやって撮られた映像を、私たちは目にしているんですね。

でも、取材に入りたかったけど、結局、入らなかったところもあって。例えばあそこ(アフガニスタンで薬物中毒者たちが集まっている橋の下)に夜に行きたかったんですよ。

ライトなんてないから、単純に見えないっていうのもあるし、そうすると、どこに注射器が落ちているか、ガラスの破片が落ちているかもわからない。

「危ない」「怖い」と思って、ガサッと物音がしたとき、ひっくり返って手をついたところに……ということもあり得ます。「怖いな」という感覚が事前にあったので、取材は止めようと。

―― 一方で、紛争地域でミサイル迎撃の瞬間をレポートすることもあります。線引きの基準のようなものはありますか?

僕の中で家族なんですよね。自分の身に何かあり得るというときに「それは家族よりも優先されるものなのか」は自分の中でいつも考えていて、絶対に揺るがない優先順位なので。

――想像以上にロジカルに考えられていることがわかりました。

ロジカルじゃないですよ。ロジカルに聞こえてるだけで。

家族も口には出さないですけど、心配はしてくれてると思います。妻からは「優先順位を間違っちゃダメだよ」とは、よく言われますよね。「どういうことかわかってるよね」って。

――「渋谷のスクランブル交差点」よりは危険だとして、それでも撮りたいものは何ですか?

人の営みですかね。

永遠のテーマなんですけれども、自分よりも不遇な人を見て、「自分はまだ幸せなんだ」って感じることが良いことなのか、悪いことなのかという。

そう感じたことで、誰かに何かを渡す、返すこともできますし、最初のきっかけって「自分はありがたい環境にいる」と気づくことだと僕は思っています。

だから、「生まれながらにして、ものすごく不遇な環境に置かれている人たちが、こんだけたくさんいるんだよ」ということは伝えたい。

この前、news 23でカスタマーハラスメントを取り上げました。傷ついている人がいるのは事実だし、日本では大切な問題なんですが、コンビニのレジに人が並んでるだけでクレームが来るっていう話で。いや、安心してベッドボトルの水が飲めるだけでいかに幸せかって、僕なんかは思いますけど。

国によってはペットボトルの水も安全じゃないですからね。そういうことに気づいた先に「じゃあ自分にできることってなんだろう」と発展してほしいなっていつも思ってるんですよ。

――ニュースやドキュメンタリーの役割だと感じます。

今回の映画(『BORDER 戦場記者 × イスラム国』)もそうですが、僕が担当していた中東やアフリカは、我々が対象としている視聴者、つまり日本の人たちにとってみると、何を撮っても非日常ですよね。何かしらは感じてもらえるのではないかと思っています。

ある事象を見て、それをどう解釈するかは人それぞれだと思うんです。僕はいつも押しつけたいとは思ってないんですけれども、少なくとも僕がこう思ってるっていうのは、伝わるようにはしてるんです。

そのきっかけを、自分の取材で、どこかから持ってくることができたら、それはやっぱり何よりもね、うれしいですし。もう本望ですっていう感じですね。
 
▼『BORDER 戦場記者 × イスラム国』

世界を震撼させたイスラム国、その過激思想は“生きていた”。「お前の首を切り落としてやる」。シリア奥深くの砂漠にある難⺠キャンプで子どもたちが記者に放った言葉は、 ただの脅しではなく、血の滴るナイフを突きつけられているかのようにリアルだった。壊滅したはずの過激派組織「イスラム国」。しかし他者との共生を拒みながらも、世界に広がった極めて過激な思想に、いまだ共鳴する人たちがいる。いったい、なぜ。忘れられた地で、記者が「境界 BORDER」を歩いた。監督はTBSの須賀川拓さん。

https://www.youtube.com/watch?v=RztnoTvheVs

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