連載
#79 「きょうも回してる?」
ガチャ企業がアップサイクル 〝灯台下暗し〟素材で「少し上の価格」
予想できないデザイン
10年以上前から「アップサイクル」を手がけるガチャメーカーがあります。そのメーカーが最近になって気づいた、「灯台もと暗し」の素材とは。ガチャガチャ評論家のおまつさんが聞きました。
アップサイクルという言葉を知っていますか。 皆さんが知っているリサイクルは、回収したものを一度資源に戻してから再生して製品を作ります。アップサイクルは原料や材料に戻すのではなく、元の製品の素材をそのまま生かします。再利用するという点ではリサイクルとアップサイクルも同じですが、アップサイクルは素材を生かし、別の用途に作り変えて付加価値を与えることが特徴と言えます。
このアップサイクルに力を入れているメーカーが、リアルミニチュアで定評のあるケンエレファントです。
ケンエレファントが運営するアップサイクルブランド「NEWSED(以下、ニューズド)」は、多種多様な産業で、生産時に出る端材や回収した部材から付加価値をつけてアップサイクルに取り組んでいます。今では社会全体が当たり前のように、サステナブルの観点から取り組みをしていますが、ニューズドは、SDGsという言葉が2015年に誕生する前の2010年からアップサイクルの活動をしていました。
中島潤也さんと武井慎之介さんがニューズドのブランドを担当しています。とくに中島さんはブランド立ち上げ当時から担当しており、アップサイクルを理解してもらう難しさについてこう言います。
「立ち上げ当時は、アップサイクルという言葉が広がっていなく、『何それ? リサイクルでしょ』という言葉が多かったです。素材は良いが、新品のものではない。新品の素材に戻し、綺麗にすることにはお金がかかります。そこの理解と価値観を理解してもうらのが大変でした」
お客さんが購入するきっかけについて尋ねると「もちろん環境に良いからという理由もありますが、廃材を使っているだけだと、お客さんは買いません。商品の色合いや可愛らしさなどがないといけません。そして商品の説明を見たときに廃材を使っていることがわかってもらえればいいと考えています」(中島さん)
「環境に良いから」や「サステナブルだから」という視点だけでお客さんは商品を購入するわけではないのではないかと私は考えます。
それに対して中島さんは、ニューズドの見せ方の工夫を挙げます。
「木には木の良さがあり、金属には金属の良さがあるように、廃材には廃材の良さがあります。廃材の背景、つまり廃材のストーリーを活かしたものづくりをしています」
そんなニューズドが今回、目を付けた端材が、ガチャガチャのカプセル。その素材を生かしたイヤーアクセサリー「mom ear ware(以下、マム)」を紹介します。
マムは、ケンエレファントが運営する売り場「ケンエレスタンド」から自社商品が入っているカプセルを回収したあと、廃棄カプセルを細かく粉砕し、透明なアクリル板に封入したアクリル板「CAN DAYS (キャンデイズ)」を使用したイヤーアクセサリー。
キャンデイズは協力会社の職人の手で一枚一枚制作しており、このキャンデイズに付加価値を高めるために、建材アクセサリーブランドのKiNaKoさんがコラボしています。木上さんはキャンデイズに封入した廃棄カプセルよりインスピレーションを受け、イヤーカフがピース(ピアスとイヤリング)を包み込むようにデザインされたそうです。
マムの特徴はカプセルとアクリルが混じりあい、化学融合して生まれた予想できないデザイン。手に取ると、この色合いは神秘的な美しさがあると感じました。マムのプロダクトが持つ色合いや風合いは世界で一つだけの商品になっています。
マムのきっかけについて、「今までは他社様の素材から商品ができる流れでしたが、灯台下暗しで、自社でもゴミ(カプセル)が出ているなということに気づきました」(中島さん)。
マムを商品化するにあたり、お客さんが手に取ってもらえるためには可愛さを重要視しました。そのため赤、黄、青、緑の4色で1回目の生産をスタートしました。様々な色味ができるのも、ケンエレファントのカプセルは企画によってカプセルの色が多種多様だからです。
マムについて「ニューズドがケンエレファントのブランドであることを多くの人に知ってもらえる、いいきっかけになればいいですね。マムはカプセルが回収できる限り作れるので、追加生産するとき黒や白、金とか色を替えていきたいですね」(中島さん)。
マムの価格は5千円台です。この価格について尋ねると、中島さんは「マムはアクリルから開発し加工しているため、5千円という僕らとしても少し上の価格帯に挑戦しました。僕たちの商品の購入層は30〜60代まで幅広く、マムはいつもアクセサリーを買ってくださってる層の方よりも違う層に響くのではないか」と言います。
武井さんは今後について「キャンデイズはいろいろな展開ができる素材ですので、広めていきたいです」と教えてくれました。
マムは廃棄される運命だったカプセルのストーリーに新たな命を吹き込んだ商品であると思いました。
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