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『THE W』紅しょうが優勝の裏にあったもの 数年前との〝変化〟

紅しょうがの稲田美紀(右)と熊元プロレス=2020年12月2日、大阪市中央区
紅しょうがの稲田美紀(右)と熊元プロレス=2020年12月2日、大阪市中央区 出典: 朝日新聞社

目次

今月9日、『女芸人No.1決定戦 THE W2023』(日本テレビ系)の決勝が開催され、「紅しょうが」が第7代目女王となった。南海キャンディーズ・山里亮太が代打MCを担当。音声トラブルによる国民投票の中止――。そんなハプニングもあったなか、勝ち残った上位3組の魅力を中心に大会を振り返る。(ライター・鈴木旭)
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「7-0」が珍しくない大会

『THE W』は、A、B、Cの各ブロックに4組ずつ分かれ、ネタごとに暫定1位を決める「勝ち残りノックアウト方式」を採用している。

まずは1stステージの第1試合で1組目、2組目がネタを披露。勝ったほうが3組目と対戦し、さらに勝利したほうが4組目と争う。最後まで勝ち残った1組が最終決戦に進出。最終的に各ブロックの勝者3組のネタバトルによって優勝者が決定する。

具体的には、審査員6名と国民投票(視聴者のdボタン投票で得票数が多いほうに1票が入る)による1票、計7票のうちより多く獲得できれば勝者となる。シンプルでわかりやすいが、例え僅差であっても「7-0」に偏ることが珍しくないシビアなシステムだ。

審査員は、昨年と変わらずアンガールズ・田中卓志、笑い飯・哲夫、友近、麒麟・川島明、ドランクドラゴン・塚地武雅、マヂカルラブリー・野田クリスタルが担当。敗者に配慮しつつも、しっかりと優劣のポイントに触れるコメントに好感が持てた。

ファイナリストは、あぁ~しらき、エルフ、スパイク、ハイツ友の会、はるかぜに告ぐ、紅しょうが、変ホ長調、ぼる塾、梵天、まいあんつ、やす子、ゆりやんレトリィバァの12組。初出場6組(4人体制で初出場のぼる塾を除く)に加え、5度目のファイナリスト、初代王者まで幅広いメンバーが出揃った。

熾烈な戦いの中、各ブロックを制し勝ち上がったのは、スパイク、エルフ、紅しょうがの3組。彼女たちを中心に今大会を振り返ってみたい。
 

良質なコントを披露したスパイク

惜しくも3位となったのがスパイクだ。4年連続(2020年は新型コロナウィルス感染で欠場)で決勝進出。今年は磨き上げたコントで初の最終決戦に勝ち上がった。

1本目は、「ストレスを発散しようとスポーツジムにやってきた女性(小川暖奈)が、サンドバッグをリアルな上司に見立て一向にパンチを打ち込まない」というもの。

冒頭からトレーナー(松浦志穂)の話に異常に早く反応する女性。グローブをはめてサンドバッグに向かうも「ファンデの色合ってない~」といった言葉を浴びせ、時にプッと唾を吐きかける。しまいには手にはめたグローブを脱ぎ捨て「お前がな、謝るまでな、わたしココ、動かねぇよ!」と座り込むなどマイペースな言動はエスカレートしていく。

埒が明かなくなったトレーナーが上司役を演じて「これから心入れ替えるわ」と慰めようとするのだが、女性の妄想と不満はおさまらず。最終的にジムへの入会を希望し、タオルでサンドバッグを叩き始めるというネタだった。

一貫したキャラクターが結果的に笑いになっており、後々になって「そもそも難のある女性だった」と納得させられる構成が見事だ。

2本目は「掃除をしないと思われる友人(松浦)の部屋に遊びにきた女性(小川)」のやりとりを描いたコントで、小川が事あるごとに「だって、靴下が真っ黒なんだも~ん!」と繰り返すフレーズによって笑いを増幅させていく。

果たしてガサツなのは、靴下の裏が真っ黒な松浦なのか、それともズカズカと物を言う小川なのか。このチグハグで笑いを誘いつつ、終盤で小川が松浦に真っ白な靴下を渡すハートフルなシーンも差し込まれた良質なコントだった。

残念ながら最終決戦で票は入らなかったが、2本ともに完成度の高いネタだったのは間違いない。また来年、決勝でリベンジを果たしてくれることだろう。
 

ポテンシャルを感じさせたエルフ

今大会で大健闘を見せたのが準優勝のエルフだ。2年連続で決勝進出とはいえ、昨年は1stステージで敗退。今年はバラエティーだけでなく、ネタの面白さでも結果を残した。

とくに印象に残ったのは1本目のコントだ。久々に実家に帰ってきたギャルの荒川は、部屋にこもりがちで無愛想な態度をとる妹(はる)が気になって仕方ない。堪らず様子を見ようと部屋を覗くと、ノートPCの前で生配信を行う生き生きとした妹の姿が。

胸を熱くした荒川が部屋に入り、その勢いのままカメラの前で自己紹介。視聴者から「似てない」とのコメントを受け一気にメイクを落とすと、金髪の長髪を結わえて黒髪のウィッグ付き帽子を被る。どうやら荒川は人気インフルエンサーらしい。妹のテンションが上がるさなか、父親から「2階から応援してます」との投稿があり、姉妹揃って笑みを浮かべラストを迎えるハートフルなネタだった。

続く2本目は、荒川がホストクラブを訪れ、延々とホストを戸惑わせる漫才コント。こちらも荒川のキャラにフィーチャーしたエルフらしいネタだったが、1本目のようにはるの持ち味が出ていればさらに爆発しただろう。

キャラの強い荒川にスポットを当てるのは必然だろうが、少々意外性に欠けてしまう部分もある。1本目が新鮮だったのは、“一見普通に見えるが、実はつかみどころのないはる”というキャラクターが生かされていたからではないか。

これは、数年前の紅しょうがにも感じたことだ。かつての紅しょうがは、インパクトの強い熊元プロレスのみをプッシュし、パワーで押し切るイメージが強かった。それが昨年から相方である稲田美紀の持ち味を全面に出し始め、見違えるほど面白くなったのを覚えている。

エルフの1本目には、それと似た可能性を感じた。「ギャル」という彼女たちの持ち味を生かしつつ、今後どんなネタが作られていくのか非常に楽しみだ。
 

悲願の優勝を果たした紅しょうが

5度目の挑戦でついに悲願の優勝を果たした紅しょうが。今年は2本ともにコントで勝負。コントが評価されやすい大会の傾向を意識し、着実に頂点をつかむべく準備してきたであろうことがうかがえる。

彼女たちが1本目に披露したのは、「相撲部屋の前で出待ちする2人の女性ファンが、姿を現した力士たちを巡っていがみ合う」というもの。熊元プロレスが「本日も取り組みご苦労様でした!」と深々と頭を下げたかと思えば、稲田がアイドルファンのごとくうちわを振って「格好いい~!」と黄色い声を上げる。

熊元がそれをたしなめるも、相変わらず稲田は横綱が出てくるのを見て「格好いい~」とテンションを上げる。思わず稲田が「貫禄すごくなかったですか、横綱!」と話し掛けると、熊元は「幕下以上、興味ないんで」と一蹴。ミーハーとコアの温度差が如実に現れた滑稽ながら秀逸なシーンだ。

唯一同じファンの力士・ユメノヤマがやってくると、熊元は「取り組みお願いします!」と仕切りの構え(力士が腰を落とし、土俵に手をつくポーズ)を見せる。それを制し、今度は稲田が帽子をとって「(自身のマゲを切る仕草で)こうして~!」と直談判。ユメノヤマが去ると、2人の小競り合いはエスカレート。最後は、稲田が大柄な熊元を押し倒す意外性で笑わせた。

続く2本目は、駅のホームでの珍事を切り取ったものだ。スカートがめくれパンツが露わになった稲田に気付き熊元が爆笑。しかし、今度は逆に稲田から「パンツにスカート入ってますよ」と指摘された熊元が恥ずかしさゆえか逆にワンピースの裾をパンツにしまい込む。これをきっかけに一気に形成が逆転し、最後は駅員に連行されるネタだった。

熊元が携帯片手に直近の合コン話を始め、「さんざんやったで。向こう3/4リストバンドつけててんけど」と出会った男性陣をせせら笑うシーンから始まるため、ラストにしっぺ返しを食らう場面が引き立っている。

喜劇の王道とも言えるわかりやすい設定と展開だが、何よりも2人のキャラクター性がフィットしていた。今大会の2本とも単なる力業ではない、コンビ一丸となっての圧倒的なエネルギーを感じた。
 

トラブルで大会の本気度を痛感

そのほか、ぼる塾は念願だったカルテットの漫才を生き生きと披露していたし、ゆりやんレトリィバァとあぁ~しらきの2人は、とことん我が道を進むパフォーマンスで審査員を戸惑わせた。

初出場組も肝が据わっていた。大会トップバッターのまいあんつは堂々とギャグを繰り出し会場を盛り上げ、バラエティーに引っ張りだこのやす子は自衛隊の要素を散りばめた「回文」ネタで笑わせた。

デビュー間もないはるかぜに告ぐ、梵天は、芸歴を感じさせない風格があったし、逆にM-1グランプリ決勝進出の経験を持つ変ホ長調はアマチュアながらプロとそん色ない味わい深さを感じた。

ハイツ友の会はあくまでもマイペースな姿勢に好感を持った。唯一無二の世界観を持っているだけに来年に期待している。

今年は長らくMCを務めてきたフットボールアワー・後藤輝基が体調不良により欠席。南海キャンディーズ・山里亮太が急遽代打を務め、不安を感じさせないスムーズな司会ぶりを見せた。相方が女性芸人のしずちゃんだったこと、『DayDay.』(日本テレビ系)をはじめとする生放送番組に慣れていたことも功を奏したのだろう。

また最終決戦では、スパイクのネタの冒頭で音声トラブルがあり国民投票が中止になった。この事態に番組側が「審査員の得票数が同数になった場合、観客投票で勝者を決定する」と迅速な対応を見せ、むしろ大会の本気度を痛感することになった。

いまだ女性だけの大会『THE W』には、ネガティブな声も散見される。しかし、3時のヒロインにしろ、ぼる塾にしろ、この大会によって知名度を上げた芸人がいるのは間違いない。役割を終えれば、自然と大会はなくなるはずだ。個人的には、開催するメリットがなくならない限り大会が継続することを望む。
 

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