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不登校の息子「焦らせたくない」と専業主婦に 世帯収入3割減の不安
「フリースクールの費用、住んでいる地域で負担に差」
学校に行き渋る子どもに向き合おうと、正社員の職を諦めた女性。世帯収入は3割減――。子どもを焦らせたくないと感じるものの、収入減の不安や、仕事のやりがいとのはざまで揺れています。不登校の児童・生徒が増えている今、親たちの経済的負担をどうサポートすればいいのでしょうか。
関東地方で小学3年生の長男と5歳の子どもを育てる30代の女性は、長男が1年生の夏、システムエンジニアとして働いていた正社員の職を手放し、専業主婦になりました。
長男は、文部科学省の「不登校」の定義である「病気や経済的理由以外で年間30日以上の欠席がある児童生徒」ですが、なかでも学校に行ったり行かなかったりする「五月雨登校」状態でした。
長男の「行き渋り」が始まったのは、保育園の年中の頃。ちょうど、女性は第2子の育休中で、長男の行き渋りにも対応できていました。
集団行動が得意でない長男は、就学してからもなかなか環境に慣れることができませんでした。学校には休み休み登校する日々で、登校する日は長男の不安感を取り除くため教室での授業も女性が付き添っていました。その間、第2子は自治体に相談の上、保育園に預けていました。
「成長とともに少しずつ慣れるかな」という思いから、社内で取れる育休期間の最長である3年間、育休をとりながら長男のサポートを続けました。
しかし、長男が小学1年の夏、「この状態で復帰するのは無理だな」と職場復帰を諦めました。
「期限までに仕事を終わらせることや、(仕事上の関係で成り立つ)大人の世界で生きる時間にやりがいを感じていた」という女性ですが、「長男が私から離れられない状態だった」といい、子育てを一手に引き受けていました。多忙な夫の協力も得られず、退職時には「働きたい気持ちを捨てた」といいます。
勤務先の会社ではテレワークが可能だったとはいえ、登校を渋る気持ちに時間をかけて向き合ったりして、長男の気持ちを尊重した行動をしようとすると、固定された就労時間で働くことが困難でした。
「長男の状況をみる中で、働きたいという思いは叶わないなと思い、それ以降は仕事について考えないようにしました。考えると悲しくなるので」
専業主婦となってから、今年で2年目。
昨年度の欠席日数は、文科省が「不登校」と定義する30日以上。ただ、登校時間は安定しないものの、登校した日には学校側の協力もあって、女性がいなくても過ごせるようになり、通える頻度もあがっています。登校できた日は一人で下校し、女性の買い物の間などに留守番をすることもできるようになってきました。
このタイミングで、女性は再び働きたい気持ちを強めています。
専業主婦の期間、世帯収入は約3割減少。
住居費や生活費を見直しながら生活できていますが、長男は昼食を自宅で食べることが多く食費とエアコンなどの光熱費の出費もかさんでいると言います。
また、小学校中学年になって、学びの遅れが以前より気になり始め、学校外でも社会経験を積ませたいとの思いがあるそうです。「今後はフリースクール併用や、学習サポートなどの教育費にお金をかけたい」と話します。
「子どもたちに将来の選択の自由を作るために、いまから貯蓄を積み立てないといけません」
女性は、まずは在宅で、フレックスタイムで働ける仕事を探しているといいます。登校前のやりとりに時間がかかるなど、長男の登校時間がまばらなこともあり、決まったタイムスケジュールで動けないことが想定されるためです。
「子どもを焦らすことで、『行ってもいいかな』という気持ちを阻害するのは避けたい」と女性は話します。そのため、在宅勤務での働きやすさを優先させたいと考えています。
女性が再び働くことで、自分自身に「ごほうび」として使えるお金や外出時の出費にもゆとりが出ることも期待しています。
子どもが不登校になっても安心して生活するために必要なサポートは――。
女性は、「フリースクールなど、子どもも気軽に立ち寄れる場所を地域に増やすことで選択肢の幅を広げてほしい」と話します。
現状では、女性や子どもが通いたいと思えるフリースクールが、自宅から少し遠くて通いにくかったり、対象年齢が限られていたりするためです。
文科省の調査によると、2022年度に学校を30日以上欠席した小・中学校における不登校の児童生徒数は前年度から5万4108人(22.1%)増の29万9048人に上ります。
そのような状況下で、不登校の子を持つ親が就労や経済負担にについて悩むケースが多くあるという調査結果があります。
NPO法人「登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク」が昨年10月に行った、不登校家庭へのアンケート調査では、子どもが不登校になってから働き方に何らかの変化があったと答えた人は有効回答数640件のうち、76.4%に上りました。
内訳は、「早退・遅刻が多くなった」(25.6%)、「休みがちになった」(18.3%)、「退職した」(13.3%)、「休職・転職した」(12.7%)「雇用形態が正規から非正規になった」(7.5%)でした。
調査をとりまとめた、NPOのメンバー・朝倉景樹さんは、不登校の親の働き方が変わる背景について、「共働きの家庭が多い中、子どもが小学校低学年の時は特に、一人で家においておけないという事情がある」と話します。
その環境を変えるため、朝倉さんは二つのポイントを挙げます。
調査の中で、不登校の子どもが主に過ごしている場所が「自宅」との回答が91.3%にのぼったことを受け、「子どもに無理が無ければ、家を基盤に図書館など、安心できるところにいられるのが理想です」と話します。
親の就労先にも理解を求めます。「雇用主は、リモートワークやフレックス勤務など、働き方を柔軟にしてほしい。その人(労働者)にとって必要なことが生じたときに応えられる職場や社会である必要があります」
調査では働き方の変化に伴う収入の変化についても質問しました。63.9%が「収入に変化はない」と答えた一方で、「収入が減った」と答えたのは31%、「収入がほぼゼロになった」との回答も2.6%ありました。
一方、指摘されるのが、不登校になったあとの出費の増加です。
調査で「不登校によって増加した支出」(複数回答可)を質問したところ、昼食も自宅でとることになることを踏まえ「食費」と答えたのは68.1%、フリースクール等の会費は39.8%、通院やカウンセリング費用が35.5%にのぼりました。
朝倉さんは、中でもフリースクールの費用負担について懸念を示します。2015年に文科省が行った調査を引用し、「フリースクールの会費の月平均は3万3千円で、低額ではありません」。東京都内に限れば、月額平均が約4万5千円にのぼるという都の調査もあります(2022年度)。
低所得世帯を対象にした費用負担の軽減策は、多くの自治体で採用されている一方で、所得制限を設けずに費用の一部負担をしている自治体は、滋賀県の複数自治体、神奈川県鎌倉市、茨城県つくば市など、一部にとどまるといいます。
「フリースクールに子どもが通う場合、住んでいる自治体によって親の負担にかなりの格差が出ます」と朝倉さん。
調査したNPOでは4日、調査結果をもとに、不登校の子がいる世帯に対する経済的支援を国としても取り組むよう、文科省に要望書を提出しました。
※この記事はwithnewsとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。
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