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ライフジャケット、みんなが着ていなくても…子どもを守るための準備
水辺の事故を防ぐ、「当たり前」の行動になってほしい
子どもたちが水辺やプールで遊ぶ機会の多い夏休み。安全対策として注目されているのが、「ライフジャケット」の着用です。保護者は必要性を感じて子どもに勧める一方、着用にはハードルもあるといいます。どうすればライフジャケットが「当たり前」になるのでしょうか? ライフジャケットの普及に取り組む男性と、ライフジャケットの貸し出しに積極的な香川県教育委員会に話を聞きました。
「水辺で遊ぶときにライフジャケットを持っていっても、みんなが着けていないから着けたがらないという子もいるそうです。小学校高学年など、大きくなってから着けさせようとしても難しく、保護者から相談を受けます」
SNS(@LifejacketSanta)などでライフジャケットの着用を呼びかける高松市の自営業、森重裕二さん(47)は、そう話します。
水の事故が起こる度、その必要性が注目されるライフジャケット。森重さんは自身を「ライジャケサンタ」と名乗り、ライフジャケットの普及に取り組んできました。
「ライジャケサンタ」の名前には、クリスマスでなくてもサンタのように子どもたちにライフジャケットをプレゼントしたい、周りの大人が子どもにプレゼントしてほしいという願いが込められています。
長年保護者と接してきた森重さんは、「保護者の危機感は間違いなく高まっているものの、子どもたちには『当たり前に着けるもの』という意識は浸透していない」と感じているそうです。
その理由の一つに、幼い頃からの環境があると指摘します。森重さんの3人の子どもやその友だちは、物心ついた頃から水辺で遊ぶときにライフジャケットを着用しているため、「当たり前」の行動でした。しかし、周囲の大人や子どもが着けていなければ、自分だけ着けることに抵抗がある子どもがいることも事実です。
森重さんの住む香川県では、2020年から全国に先駆けて学校や子ども関連の団体へライフジャケットの無料貸し出しを始めました。2021年には県教委も貸し出しを始め、県内の自治体にも広がっているそうです。
家庭にライフジャケットがなくても、学校で経験することで子どもたちの意識は大きく変わります。
「全国で同様の取り組みが増えてほしい」。森重さんはそう考え、今春、全国の自治体でライフジャケットを貸し出す仕組みづくりのため、クラウドファンディングで資金を集めました。
開始から約1カ月で当初目標の125万円を達成。最終的には300万円近い資金を集めました。秋田、埼玉、静岡、長野、大分、群馬、三重の7県にそれぞれ30~60着のライフジャケットを寄贈し、レンタルが始まったほか、ライフジャケット普及啓発の絵本を31道府県に贈ったそうです。
森重さんは、「事故が起こってからでは遅いんです。クラウドファンディングを通して、ライフジャケットへの意識がさらに前進したと思っています」と話します。
「学校現場から、授業で使いたいというリクエストが殺到しています」。そう話すのは、香川県教育委員会保健体育課の担当者です。
2年前の夏、企業からライフジャケット50着の寄付を受けたことをきっかけに、無料で貸し出す「ライフジャケットレンタルステーション」を開設しました。学校や保育園、地域の子ども会などが貸し出しの対象です。県外の教育委員会からも制度についての問い合わせがあるといいます。
レンタルできるライフジャケットは昨年度240着(大人の分を含む)でしたが、今年度は340着に増えたそうです。昨年度の貸し出し実績は合計1005着。今年度はすでに1300着以上を貸し出しているといいます。
主なレンタル先は、ほとんどが小学校。「5、6年生の水泳の授業で『安全確保』を学ぶため」で、1人1着貸し出します。ほかにも、海でのゴミ拾いや川に水生生物の調査に行く際に活用しているそうです。
授業で初めてライフジャケットを着用する子どもは多く、「見たことはあるけど着けたことはない」「着けたことはあるけど着けて水の中に入ったことはない」という子もいるといいます。
担当者は「大きな事故が起こる前にできることを積極的にやりたい。学校では先生方がライフジャケットの必要性を話すので、小学生にも伝わっています」と話します。
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