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「さぁ、行っといで」南相馬市〝巣立ち〟応援ポスターに集まった共感
「若者の囲い込み」あえて封印した理由
春は出会いと別れの季節。学校を卒業し、進学・就職する人々も多いことでしょう。福島県南相馬市が企画した、地元を離れる18歳にエールを送る取り組みに、SNS上で共感の声が集まっています。新生活のため、慣れ親しんだ故郷を後にする若者に対して、あえて背中を押す理由とは? 背景事情を取材しました。(withnews編集部・神戸郁人)
注目を浴びているのは、南相馬市が制作したポスターです。
「自分の人生なんだ。好きなようにやりな。」「自分の『好き』に向かって進め。」……。明るい将来を見据えるような惹句(じゃっく)と共に、海辺や駅のホームを背景として、笑みを浮かべる人々の写真が掲載されています。
更に「スタートラインに立つ君へ――」の表題が見える1枚には、こんな言葉があしらわれているのです。
2月下旬、関連画像がツイッター上で拡散されると、「久々に広告で泣いた」「私も18歳の頃、こんな風に言ってもらいたかった」などの好意的なコメントが連なりました。
今回の取り組みには、どういった思いが込められているのでしょうか? 南相馬市こども未来部こども家庭課の、三瓶(さんぺい)夏美副主査に話を聞きました。
三瓶さんによると、ポスターは同市が2022年度に開始した「巣立ち応援18歳祝い金支給事業」を周知するためのもの。同年度に18歳になり、一定の条件を満たしている市民を対象に、現金5万円を支給する内容です。
南相馬市では、長らく少子化が課題となってきました。2010年に579人だった年間出生数は、2021年に284人とほぼ半減。市内に住む20~30代の人口も、減少が深刻化しており、全国平均と比べて落ち込みが目立ちます。
「特に東日本大震災発生以降、子育て中の世帯の多くが市外に引っ越してしまいました。もはや一刻の猶予もないと考え、これまでの対応策に加えて、何らかの支援を始めなければならないと考えていたんです」(三瓶さん)
同市は2021年度、市内の保育園・幼稚園などを利用する親御さんにアンケート調査を実施しました。出産や育児関連で必要なサポートについて尋ねたところ、我が子が高校を卒業するまでの手当金支給を望む声が寄せられたといいます。
そこで誕生したのが、祝い金事業です。5万円という給付額は、入学式や入社式で着用するスーツ一式の購入費を念頭に算出されました。実際には通勤・通学費や新居の家賃など、自由に使って欲しいと、三瓶さんは話します。
話題を呼んだポスターにも、若者たちを支えたいという気持ちが編み込まれています。
全8種のデザインには、地域の高校生が通うラーメン店や図書館などの関係者が、笑顔を見せる写真が配されています。市の担当者が取材した、被写体となった人々の言葉から、幸せな未来を想起させるコメントを抜き出し、コピーとしました。
例えば、原町あずま保育園(南相馬市原町区)の園児と保育士が写ったものなら、「大変なことを乗り越えて大きくなった、だからこの先も大丈夫。」。震災発生当時、幼稚園・保育園の年長組だった、現在の18歳世代に向けたメッセージです。
「撮影場所の施設やお店は、市のイベントに出席した高校生に、よく行くところを聞き取った上で選定しました。また全てのデザインに『さぁ、行っといで。』という一文を入れています。市内外で新たな道に進む若者へのエールです」
行政による若年層への経済支援は、一般に地元への定着を図って行われます。一方で南相馬市の取り組みは、市外に移る人々も対象です。本来の趣旨と矛盾するとも思われますが、どうしてそのような仕立てになったのでしょうか?
「本当に子育て支援になるのか、との声もあるでしょう。でも祝い金支給により、いつか南相馬を思い出してくれるかもしれない。子供を授かるなどしたときに、帰郷することも視野に入れてもらうきっかけになれば、と考えています」
ポスターは公共施設や銀行、郵便局など、南相馬市内の約130箇所に掲示されています。三瓶さんいわく、地元の大人たちから「子供をしっかり応援しないといけないね」といった声が上がっているそうです。
ちなみに祝い金支給を通知する書類には、白い色紙を同封しています。親御さんや友人、お世話になった人々に門出への思いを書き込んでもらえる仕様です。故郷の記憶を忘れずに頑張って欲しい、という気持ちから生まれたアイデアといいます。
市としては今後、新生活を送る若者たちに、祝い金の使い道を尋ねたい意向とのことです。息長く関わっていくため、ニーズを正確に把握することにつなげる狙いがあります。
そしてポスターの意匠などが、ツイッター上で幅広く支持を集めた点を受けて、三瓶さんは次のように話しました。
「今年度からスタートしたばかりの事業であり、まだ種まきの段階です。地域の皆さんに応援して頂いているということが、しっかり伝わるような形で、これからもプロジェクトを進めていきたいと思っています」
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