ネットの話題
これ飲んでた!ゼンリン「全国給食牛乳地図」ガチ調査で分かったこと
懐かしさだけじゃない地元企業の強さ
小学生の頃、給食で牛乳を飲んだことがある、という人は多いのではないでしょうか。全国各地の銘柄の分布状況をまとめたマップが、ツイッター上で話題です。幼い頃に見た製品を懐かしむ声が集まった一方、乳業メーカーの苦境と、企業努力の軌跡が見え隠れする調査結果も。マップが誕生した経緯について、制作元企業を取材しました。(withnews編集部・神戸郁人)
注目を集めたのは、住宅地図販売大手・ゼンリン(北九州市戸畑区)が手がけた「みんなの声で作った小学校の給食牛乳マップ」です。2022年11月~12月にかけて、同社公式アカウント(@ZENRIN_official)が複数の画像をツイートしました。
同マップは、ネット上で行ったアンケート調査の結果を基に作成したものです。47都道府県を対象に、小学校で提供されていた牛乳の銘柄を質問。回答で言及があった約150社の製品について、地域ごとの飲まれ方などを整理しています。
全国版と関東(北部・南部)など10個の地方版があり、後者により詳しい情報を掲載しました。たとえば北海道なら、札幌市周辺で雪印メグミルク、よつ葉乳業といった大企業と、地元のサツラク農協などの製品が競合している、という具合です。
さらに関連ツイートで、道東の別海町に拠点を置くメーカー・べつかい乳業興社が、昔ながらの三角錐型パックを国内で唯一製造していることを始め、牛乳関連の豆知識も伝えています。
「めちゃくちゃ思い出深い」「牛乳自体は苦手だったけれど、パッケージイラストが可愛かったことを、今でも記憶している」。画像を見た人々からは、かつて親しんだ銘柄を懐かしむ感想が相次いで上がりました。
今回のマップは、どのような理由で生まれたのでしょうか。ゼンリンのツイッター担当者に話を聞きました。
ゼンリンでは週1回、自社の強みを生かした、SNSや自社メディア経由での情報発信施策について議論しています。担当者によると、2022年9月頃の会議で、牛乳にまつわるアイデアが提案されました。
「弊社では地図と特定の題材を掛け合わせる企画を行ってきました。以前ツイッター上で、小学校の修学旅行先を、ユーザーにハッシュタグ付きでつぶやいてもらったことがあります。都道府県別の傾向をまとめると、大いに盛り上がりました」
「これに続く取り組みとして、給食で出された牛乳の種類を聞こう、という話が出たんです。小学生時代に飲んだ銘柄を同僚たちに尋ねてみたところ、かなり地域差があった。弊社アカウントのフォロワーさんにも楽しんでもらえると思いました」
そして10月21日、ハッシュタグ「#小学校の給食の牛乳といえば」を添えて、情報を募集する趣旨のツイートを投稿。併せて居住地や年代など、個人の属性を調べるアンケートへの記入も依頼すると、全国から6千件超の回答が寄せられました。
驚くべきは情報の細かさです。過去に飲んだ牛乳の概要を、市区町村レベルで答えた人も少なくありません。全国版マップを公開した12月21日時点で、国内基礎自治体の73%をカバーできたといい、「熱量に感謝するしかない」と話します。
調査結果からは、各地の〝お国柄〟と、牛乳の流通状況との関わりも垣間見えました。
一例を挙げてみましょう。佐賀市に関する回答中、九州地方限定で販売されている製品「グリコJA牛乳さが生まれ」を飲んでいた、という記述が大半を占めました。
同製品は江崎グリコ(大阪市西淀川区)の関連会社が作っています。江崎グリコ創業者・江崎利一氏は、現在の佐賀市出身。かつて同市内に牛乳の製造工場が立地していたこともあり、思い出す人が多いのではないかと、担当者は推測しました。
また鳥取県の「白バラ牛乳」(大山乳業農協)など、地元企業の銘柄が広く飲まれている自治体もあったといいます。新鮮な牛乳を運ぶ上で、細やかな配送ルートの確保は欠かせません。地域の事業者は、その点で強みを持つと言えそうです。
乳業メーカー各社は、児童らを自社工場に招き、見学の機会を設けるなどしています。こうした、したたかなブランディング戦略の成果にも心を動かされたと、担当者は振り返りました。
「メーカーの中には、社業の転換や廃業を余儀なくされ、既に給食事業から撤退したところもあります。しかし、かつて目にした牛乳パッケージのデザインやイラストを、今なお覚えている人々も少なくありません。これは本当にすごいことです」
ちなみに担当者は、マップの制作にあたり、各事業者に電話で製品画像の提供を依頼しました。外観を正確に伝えることが目的で、80社ほどに応じてもらえたといいます。
農林水産省の統計資料「令和3年牛乳乳製品統計」によると、生乳の「牛乳等向け」年間処理量は、2001~2021年の20年間に約100万トン減少しました。そのような状況下、今回の取り組みは、生産現場の人々に好意的に受け止められています。
乳業関係者からは「帰省などに伴う買い控えで、牛乳が余りがちな年末に、楽しい企画を打ってくれてありがたい」との声も届いたそうです。一連の反応を受けて、担当者は次のように話しました。
「ゆかりがある地域に、どんな銘柄の牛乳があるのか確かめる上で、マップを活用して欲しい。様々なメーカーの努力が周知されれば、生産状況への世間的な関心も、より高まるように思います」
「そしてご家族やご友人、職場の同僚の方などとの会話のきっかけになったら、うれしいですね」
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