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モルディブの水上コテージ、うんちはどうしてる? 現地で調べてみた

コテージの底をのぞくと……

モルディブ「プルマン・モルディブ・マームター・リゾート」の水上コテージ群=2022年1月撮影
モルディブ「プルマン・モルディブ・マームター・リゾート」の水上コテージ群=2022年1月撮影

目次

インド洋に浮かぶ、リゾート地として有名な島国モルディブ。水上コテージでの滞在がイメージされますが、国土の99%が海であるなか、排泄物の処理はどのようにされているのでしょうか? 現地を訪れたライターの我妻弘崇さんがモルディブのトイレ事情を調べました。

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青い空、美しい海が広がるモルディブ=2022年1月撮影
青い空、美しい海が広がるモルディブ=2022年1月撮影

異国でうまれた好奇心

『うんちの行方』(新潮社)という新書がある。

下水を嗅ぎ、汚水処理場に潜り、“5分でうんちが飲料水になる”最新技術に触れるなど、うんちにまつわる疑問を徹底取材した、いたって真剣にうんちの行方を追った良書である。

その著者である神舘和典さんと西川清史さんに企画背景を伺った際、

「例えば、モルディブなどの高級リゾートでは海に浮かぶコテージがありますが、うんちの処理はどうなっているんだろうか、とか、地下深い地下鉄の駅の下水はどうなっているのか。水は高きから低きへと流れるわけで、あの深さでどう処理されているのか――、改めて考えるとよく分からないまま生きているなと思ったんですね」

と教えていただいた。「言われてみれば!」。そんなふうに膝を打ってしまうことって、実は日常の中に数多く潜んでいる。たしかに、モルディブの水上コテージのトイレはどうなっているんだろうか? 

その一年後、なんとモルディブへ行く機会に恵まれた。訪問先は、モルディブの首都・マーレから国内線で南へ約50分の距離にあるガーフアリア環礁に浮かぶクードゥー島。そこからさらにボートで15分ほどあるのが、島全体がリゾートとなっているマームター島だ。

誰もが何となく見たことがあるだろう“あの水上コテージ”もばっちり完備する「プルマン・モルディブ・マームター・リゾート」(以下、「プルマン」)で、のんびりと過ごしていると、あの疑問が鎌首をもたげてきた。

「水上コテージのトイレって、どういう仕組みになってんだろう?」

異国を訪れると好奇心が育ちやすくなる。誰に頼まれたわけでもないが、気になってしまったからには仕方がない。モルディブリゾートのトイレ事情は、一体どうなっているのか――調べてみた。

「プルマン・モルディブ・マームター・リゾート」の水上コテージ群=2022年1月撮影
「プルマン・モルディブ・マームター・リゾート」の水上コテージ群=2022年1月撮影

150あるリゾート島

そもそもの話。人口約55万人の小島嶼国であるモルディブは、陸地が国土全体の1%しかない。島(なんらかの植生がある)の数は1200ほど点在し、うち、住民が暮らす島は200近くあり、リゾートとして機能している島は150ほど。

当然、前者と後者では下水事情が異なるわけだが、リゾートとして機能している島は、“1アイランド1リゾート”と呼ばれ、基本的に一つの島に一つのリゾートが存在している。つまり、一つの島で生活(滞在)が完成されるように設計されている。

「プルマン」は、19ヘクタール(東京ドーム約4個分)というモルディブリゾートの中では比較的広大な敷地面積を誇る。が、当然、周りは海に囲まれている。どこまでも続く透明な海を見ていると、「さすがにうんちを、そのまま海に流すとかはありえないよなぁ」などと疑問が浮かぶ。

モルディブまで来て、なぜこんなことを考えているのか――自分を疑うが、飲料水やゴミ処理についても、疑問は深まるばかりなのだ。モルディブは、環境面を考える上でも実に興味深い国だったりする。

一つの島に一つのリゾートが存在するよう設計されている=2022年1月撮影
一つの島に一つのリゾートが存在するよう設計されている=2022年1月撮影

うんちの行方は

一体、下水処理はどうなっているのか。そして、なんでそこまで気になるのか。それは、『うんちの行方』著者の一人である西川清史さんが、こんなことを話してくれたからでもある。

「うんちの取材を通じて感じたことは、水の話だということ。うんちって、本の中でも説明していますが、7~8割が水で2~3割が腸内細菌や食物繊維や食べかすです」

「ギュッと絞ると、ほとんどが水分。茶褐色になって下水処理場に行き着き、微生物によって浄化されて海や川に放流する――。やがて蒸発し、それが雨になって降り注ぎ、ダムに貯まることで水道水になり、また人間の体の中を通って、うんちになって流れていく」

水はぐるぐるぐるぐると回っている。

「地球上にある水分のほとんどは海水で、わずか2.5%だけが淡水です。その2.5%の半分ほどは南極の氷、残りが地下水です。人間が使える淡水というのは、 地球上の水を1L だとした場合、たった大さじ一杯ほど……、その大さじ一杯の水がぐるぐると循環し、僕たちは生活をしている」

「地球が46億年前に誕生してから、使える水の量は増えもしていなければ、減りもしていない 。ずっと永遠に回っていて、僕たちの体の中を流れている水は、アンモナイトの中を流れていた水と変わらないはずなんです」

モルディブの水上コテージに備え付けられたトイレ=2022年1月撮影
モルディブの水上コテージに備え付けられたトイレ=2022年1月撮影

コテージの底をのぞくと……

下水も、立派な水の問題なのである。国土の99%が海であるモルディブにいると、どうしたって気になってしまう。ところが、この島にはマンホールらしきものは見当たらないし、側溝もない。

シャワーの排水溝は、見慣れた位置である床に配置されており、使用すると水は下に流れていくことが確認できた。では、水上コテージ(ヴィラ)の外観はどうなっているんだろう。

水上コテージの床裏に張りめぐらされた配管
水上コテージの床裏に張りめぐらされた配管

よく見ると、配管が網の目のように張りめぐらされているではないか。この配管が桟橋まで続き、本島(といっても小島だが)まで続く。ということは、本島で何らかの処理が行われているということか?

「リゾート施設内に下水処理プラント(STP)があります。内容物を分別して処分するために、さまざまな段階で適切な下水処理を行っています」

そう説明するのは、「プルマン」を展開するアコーホテルズグループ、セールス副部長のロリーン・サヒリセスさん。出張でアルゼンチンにいるらしく、オンラインで取材に対応してくれた。

一般的にモルディブのリゾートでは、配管から流れた水は、固形物を小さく切り刻むカッターポンプを通り、下水処理プラントに流れつく。次に、複数のエアレーターポンプによって外から空気を取り込み、汚れた水を循環させ、においを取り除くという。

攪拌された水混合物は、砂を含む乾燥床に配管を通って送られ、細かな固形物は乾燥床にとどまり(その後肥料として再利用)、水は砂を伝って別のタンクに排出。もう一度タンク内のフィルターで除去すれば(処理水を純化するために2つ目のフィルターを設置することもある)、においや色のつかない水になるそうだ。そして、ガーデニングに撒く水などに再利用されるという。

水上コテージのトイレは、リゾート施設内の浄水槽で下水処理を完結させていた……! まさか自家発電よろしく、自家下水処理で解決させていたなんて。モルディブリゾートでも、水はぐるぐるぐるぐると回っていたのである。

「プルマン」の水上コテージ=2022年1月撮影
「プルマン」の水上コテージ=2022年1月撮影

限られた資源を有効に

謎のフン詰まりは解消した。だが、聞けば聞くほど目からウロコである。環境保全へのアプローチがバラエティー豊かなのだ。

「アコーグループは、『プラネット21』と題し、さまざまな環境への取り組みを行っています。環境に優しいトイレタリー(シャワージェル、石鹸、シャンプー)の提供や、水とエネルギーの消費量を測定・分析、エリア周辺の植樹、オーガニック自家菜園など、環境保全を掲げています。こういった取り組みは、モルディブのリゾートでも変わりません」(サヒリセスさん、以下同)

むしろ限られた資源しかないモルディブだからこそ徹底しており、「敷地内の淡水化プラントを介して塩水をろ過し、飲料水やシャワーなどにしている」と教えてくれる。海からダイレクトに水を引くのではなく、井戸に引き入れ、段階的に処理を行っているそうだ。

もちろん、リゾートによって処理の方法・手順は異なり、たとえば地下水を浄化して飲料水に使用しているところもある。また、ゴミに関しては島から船で運ばれ、リサイクル品以外はティラフシ島というゴミの島に廃棄されるのが一般的だそうだ。余談だが、受刑者専用の島もあるそうで、陸地面積1%を有効活用するため、いろいろと考えられている。

環境への配慮が行き届く。「プルマン」内は驚くほど緑が多い=2022年1月撮影
環境への配慮が行き届く。「プルマン」内は驚くほど緑が多い=2022年1月撮影

昨今は、部屋に常設する水をガラスボトルのみにするなど環境に配慮したホテルが増えているが、リサイクルできるものはリサイクルする――その意識が、モルディブのリゾートには通底している。

こうした環境対策は、モルディブ政府からの要請という側面もある。先述したように、モルディブの陸地面積は全体の1%に過ぎず、無人島を含むすべての島を合わせても東京23区の半分ほどしかない。さらには、その8割が海抜1メートル未満であることから、気候変動の影響をもっとも受ける可能性の高い国の一つとされる。

温暖化が進んだ場合 、国連の「気候変動に関する政府間パネル」の報告書によると、2050年頃までに30センチほど海面は上昇すると言われている。モルディブにとって、環境問題は死活問題。GDPの3分の1を観光産業が支えているだけに、観光と環境を両立させることが不可欠となる。

「開発をする際は伐採ではなく、樹木を根元から抜いて、他の場所へ植樹しなければいけません」と サヒリセスさんが説明するように、リゾート開発の際にモルディブ政府から環境面に関するリクエストも少なくないという。

「『プルマン』では、バイオロジストを雇用することで島の生態系や固有種の保護を努めています。エクスカーション(アクティビティ)の一環として、スタッフのバイオロジストが島内を歩きながら無料で生態系について案内するネイチャーウォークも行っています。私たちの取り組みを介して、より環境に対する理解が深まればうれしいです」

物資やゴミを運ぶ貨物船が往来する=2022年1月撮影
物資やゴミを運ぶ貨物船が往来する=2022年1月撮影

ローカルアイランドも環境最前線

環境を考える。ということは、環境を学べる機会にもなる。そうした取り組みを、各リゾートがエクスカーションという形で提供している点もモルディブならでは。

一方、人口密度の高い首都・マーレをはじめ、ローカルアイランドでは事情が異なることも事実だ。2020年時点で、マーレ島には人口の約3分の1にあたる14万人ほどが生活。世界屈指の人口密度を誇り、生活環境の悪化や家賃の高騰が社会問題化している。

同じ国とは思えないほど、リゾートとは違う別世界が広がっている。だが、日立製作所がITを使った水道管理システムを事業化したことで、海水淡水化装置によって造られた安全な水を提供したり、昨今では、中国資本のもと開発援助も盛んに展開されていたりする。ローカルアイランドならではの環境に配慮した街づくりが、急ピッチで進められている。ローカルアイランドもまた、環境最前線なのだ。

モルディブは、リゾートとローカル、両面において環境を考える契機に満ちている。「モルディブのリゾートのトイレの水はどうなっているのか?」。そんな一滴にも満たない小さな疑問が、ときに大きな問題を考える、大河へと流れつくこともある。モルディブが美しいのには、理由があったのだ。

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