連載
#5 #令和の専業主婦
「駐在妻」からパートに復帰 幼稚園で感じた「私は侮られている」
「なぜいまも固執しているんだろう」
「周囲が抱いている専業主婦のイメージは豊かな頃のもの」。そう語るのは、4年間の「駐在妻」を経験した30代の女性です。社員の家族の人生をも変えうる「海外赴任」という制度に、会社がどこまで責任を持てているのかという不信感、「侮られている」と感じた専業主婦という存在――。女性が再度働き始めるまでの話を聞きました。
ゆかさん(仮名)は7年前、夫の海外転勤を機に専業主婦になりました。
リーマンショックの影響もあり、企業の採用控えが目立った時期に就活をしたゆかさん。「受験勉強をがんばったわりには就活に失敗し、100%好きにはなれない仕事をしていた」といいます。
結婚に際して夫の給与明細を見たりするうちに「私の仕事はなくてもいいかな」と感じ、退職。夫のアメリカへの赴任についていくことにしました。
ゆかさんは当時、専業主婦になることに抵抗はありませんでした。海外赴任に帯同すると決めたときも、「私が家と子どものことをやるから、あなたは外でお金を稼いできてね」と躊躇なく役割分担ができました。
納得できていたはずの気持ちが変わったのは、渡米から4年目に帰国の辞令が出たときのことでした。
ゆかさんの夫は当初、5~6年間の任期で渡米。そのため、帰国まで猶予があると考え、赴任から4年目、現地で第2子を妊娠していました。
しかし、約束の任期より早くに辞令が出てしまい、辞令通りにいけば帰国予定はちょうど第2子の臨月。そのことについて夫の会社から「こんな時期に…」と嫌みを言われたことで、「夫とその家族を大切にしてくれていない」と感じ、仕事を辞めたことに対する後悔の念が押し寄せてきたといいます。
さらに、現地で知り合った「駐在妻」同士で情報交換をする中で、夫の会社は、引っ越し費用や子どもの教育費に支出する補助金も、最低限のものしか用意されていないことを知りました。
夫が仕事に邁進できるようキャリアを捨て、家族をサポートする道を選んだゆかさんや家族のことを、会社はどう思っているのか。不信感が募りました。
「私がキャリアを手放したわりには夫の会社は夫とその家族を大事にしてくれていないと感じました。自分が専業主婦になって家族同居をしなければいけないほど、夫の仕事の方が大切なのだろうか…と当時はよくモヤモヤしました」
帰国後も、「専業主婦=暇」というレッテルに苦しみました。そこには、「駐在妻」だった当時、夫の会社に不信感を感じたときと同様、「侮られている」という感覚があったといいます。
幼稚園のPTAで仕事を頼まれるときも「専業主婦は無償の労働力として見られている気がした」し、「専業主婦は暇だから、育児や家事にもワーママより手間暇をかけて当然と思われいてるように感じた」。
しかし実際は、「家事と子どもの世話をこなしていると、自分のためだけに使える時間は細切れ、もしくはまったくない」とゆかさん。リフレッシュの方法も「スマホを見るとか短時間でできるもの」。そして、それを繰り返しているうちに1日が終わっている感覚です。
決定打となったのは、コロナ禍での子どもの登園について、「専業主婦なら登園自粛させて自分で子どもをみたらいい」と知り合いに言われたことでした。
その言葉に「仕事をしていないんだから」「ひまだから」という意図を感じ、「軽視されていると感じた」。
ゆかさんは「これ以上は侮られたくない」と、仕事に復帰することを決意し、いまはパートタイムで働いています。
「『専業主婦』という存在と、それに伴う『豊かそう』というイメージは、ここ数十年の間にできあがったもの。伝統的なものではない価値観に、なぜいまも固執しているんだろう」とゆかさんは疑問を投げかけます。
それなのに、かつてのイメージをアップデートできていない人たちは、「専業主婦は裕福だ」という偶像を元に接してくるし、ゆかさんのように「存在が軽視されている」と感じる人もいます。
ゆかさんはそんな状況を「『安定している人には何を言ってもいい』と、サンドバッグ係にされている気がする」と話します。
以前お話を聞いた、4人の子育てをしながら大学院で研究をしている主婦の方も、「専業主婦という偶像が叩かれていた気がする」と話してくれていました。
本来、専業主婦になることに抵抗がなく、家事育児も好きだったゆかさんは、「これ以上侮られるのがいや」で、パートタイム勤務を始めました。
もし、専業主婦が担う役割の重要性が認識され、それが社会の常識となっていれば、ゆかさんは不本意な形でパートの仕事に復帰することはなかったのではないか。そんなことを感じた取材でした。
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