連載
#4 罪と人間
住宅街にある「矯正図書館」の正体は…古文書からリアル足かせまで
「矯正図書館」――。なんだかギョッとする名前ですが、実在する図書館です。刑務所にもゆかりがあり、江戸時代の手錠なども展示……と聞いて、〝強面〟の印象を抱きつつ取材を進めると、ポジティブなギャップがありました。
「矯正図書館」(東京都中野区)は、JR中野駅から歩いて15分ほどの場所にあります。
「国内唯一の刑事政策・矯正の専門図書館」(ホームページ)です。
開館は、1967(昭和42年)。現在の建物は、2002年(平成14年)に建てられました。
まわりは閑静な住宅街のため、かつて、すぐ隣に刑務所があったことは気がつきにくいかもしれません。
「豊多摩監獄」が竣工したのは、いまより100年以上前の1915年(大正4年)。名前を変えた中野刑務所が1983年(昭和58年)に廃庁するまで、この地に刑務所として存在しました。なお跡地には、いまも門が残っています。
なぜ、そこに「矯正図書館」が誕生したのか。
それは、図書館の運営母体である矯正協会が、刑務所や少年院などの矯正行政と深く関わってきたからです。
協会は、1888年(明治21年)に大日本監獄協会として創立されました。民間の立場で矯正行政に関わろうと、当時の官僚や国会議員の有志が費用を工面したそうです。一時期は、刑務所などで働く刑務官の養成もしていました。
そんな協会は、歴史資料や関連書籍も収集。当初から図書館の必要性が言われ、やがて関係者向けに整備されました。
協会がゆかりの深い刑務所の隣に移転したのは、1962年(昭和37年)。その5年後に、一般の人の利用を想定した図書館が開かれました。
「矯正図書館」は、矯正協会の建物の3階にあります。蔵書は約4万冊、雑誌は約7万8千冊あります。刑事政策や刑事法、犯罪心理学の書籍、矯正に関する雑誌など、専門図書館らしい深い〝品ぞろえ〟です。
「刑務所や少年院の職員の方の利用がメインですが、研究者や学生の方もお見えになります」。そう話すのは司書の平松智子さんです。「ドラマや映画を制作するための時代考証にも使われています。例えば、『昔の面会風景はどんな様子だったか』などを確かめにいらっしゃいます」
刑務所にもゆかりの深い図書館だけあって、江戸期の手錠や足かせなどの物品も展示しています。
江戸期のものなど古文書は約1000点、物品は約200点ほど保管しているそうです。
図書館の蔵書は、職員が関連書籍を調べて買い足しているのだそう。「『刑務所』『少年院』などと検索してリサーチしています。図書館名の『矯正』だけでは見つけられません。アナログな作業なんです」と平松さんは話します。
最近の蔵書の傾向を聞くと、こんな答えが返ってきました。
「『依存症』や『発達障害』とか、そういった関連の書籍も集めています。再犯を防ぐためには、罰だけではなく、多様なアプローチがあると思うのです」
刑務所や少年院の内外で、罪を犯してしまった人の疾患や環境にも目を向け、医療や福祉の視点でアプローチする試みが活発になっています。図書館の収集本は、そうした現実を反映していると言えそうです。
「再犯を防ぐためには多様なアプローチがある」という平松さんのお話を裏付けるような現実があります。
2021年版の犯罪白書によると、刑務所を出た人が2年以内に再入所する割合は、16%(19年)を切りました。20%を超えていた時期もあったので、前進です。
ただ、出所者の中には、依存症や別の精神疾患、知的な障害などがある人もいます。疾患や障害があっても罪を犯さない人が多数ですが、盗みの衝動を抑えられない窃盗症のようなケースもあります。医療や福祉的なアプローチが必要とされているのが現状です。
〝強面〟の印象の矯正図書館からは、「矯正」という言葉に、単なる罰にとどまらず、ままならない現実を生きる生身の人間に対するまなざしがみてとれました。
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矯正図書館の開館日は、月・火・木曜日の10:00~16:00で、ホームページ(https://www.jca-library.jp/index.html)にある予約ページから登録が必要です。問い合わせは、03-3319-0654 へ。
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