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地元

マニアックな海産物ガチャ、こだわりすぎて人気 ホヤにトシロ?

研究者も根を上げる〝異常な再現度〟の秘密

海産物フィギュアの「ガチャ」。「イカの口」には「生」と「煮た後」のバリエーションがある
海産物フィギュアの「ガチャ」。「イカの口」には「生」と「煮た後」のバリエーションがある

目次

1日の乗降者240人余り。岩手県大槌町の三陸鉄道大槌駅が、ちょっとした賑わいを見せている。2月下旬に設置された、海産物フィギュアの「ガチャ」の自販機が人気なのだ。1個1000円する。それでも好調な理由は、「イカの口(生)」「イカの口(煮た後)」など、あまりにもマニアックな設定。企画したのは4年前までは「事務員」だったというフィギュア職人。強いこだわりの理由を聞いた。

「カッコいい年のとり方」を考えたら、見えにくいモノが見えてきた(PR)

「1日がんばっても30個が限界」

カプセルの中に入っているのは、20種類。「秘密」の2種類以外は、主に地元特産の海洋生物と加工品のフィギュアだ。
サケやウニくらいなら珍しくないが、地元で珍味として愛されているトシロ(アワビの肝)、ナマコ、シュウリ貝(ムール貝)のむき身、イカの口は生と煮た後の2種類……。

人気のホヤは、これだけでも数百円はするらしい金色の手縫いの座布団に乗っている「ホヤ鎮座」が「当たり」だ。それぞれ、ストラップとしても使える。1週間で75個売れた。大槌では空前のヒットだ。

金の座布団に鎮座する「ホヤ」
金の座布団に鎮座する「ホヤ」

かなりグロテスク。しかし、町民は「ホヤ可愛い」「トシロが欲しい」と、愛着を持って狙う。駅を利用する観光客は、驚いて笑う。

「まさに、それを狙っていた」と話すのは、このフィギュアを手作りした山崎誠喜さん。少年のように澄んだ目をしている59歳。大槌町で精密機械の試作モデル作りを本業とする「ササキプラスチック」の社員で、自らを「造形師」と名乗る。

地元で珍味として愛されているトシロ(アワビの肝)も。アワビの産地だから食べられる
地元で珍味として愛されているトシロ(アワビの肝)も。アワビの産地だから食べられる

山崎さんは、このフィギュアを全てデザインした。型を取った後、1つずつ色を塗って仕上げる。中にはサケの頭のように8色塗り重ねるフィギュアもあり、「1日がんばっても30個が限界」と言う。量産されたガチャ景品とは違うのだ。

デザイン段階でもこだわりまくる。大槌町には東京大学の大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センターがあり、海洋生物の研究のメッカでもある。山崎さんは、試作しては同センターに持ち込み、研究者に見せてお墨付きをもらう。大槌で初めて確認された「オオヨツハモガニ」の爪などは、発見者が「もういい」と音をあげるまで本物そっくりに作った。

山崎さんは、その道何十年の職人ではない。4年前までは、隣の山田町で事務員をしていた。

ほやの赤ちゃんはデフォルメではなく、実際もこんな姿をしている。発見者が「もういい」と音をあげた「オオヨツハモガニ」の爪(右)
ほやの赤ちゃんはデフォルメではなく、実際もこんな姿をしている。発見者が「もういい」と音をあげた「オオヨツハモガニ」の爪(右)

地域の復興に「ものづくりやってみたい人」

「ササキプラスチック」は佐々木弘樹社長(57)が一人で31年前に創業、その技術力から「『できません』はございません」をキャッチフレーズに、バブル崩壊やリーマンショックを超えて、少しずつ事業を拡大していった。

受注先は町外の企業ばかりで、地元との付き合いは薄かったが、2011年3月の東日本大震災で町が壊滅的に被災したのを契機に、佐々木さんは地域の復興に貢献できるグッズを作りたいと思い立った。

ハローワークに「ものづくりをやってみたい人」と募集をかけると、若者に交じり、隣の山田町から50歳代半ばの男性が面接を受けに来た。それが山崎さんだった。

様々なご当地グッズと手がけるササキプラスチックの佐々木弘樹社長(左)と山崎さん(右)ら社員
様々なご当地グッズと手がけるササキプラスチックの佐々木弘樹社長(左)と山崎さん(右)ら社員

釣った魚のミニチュアを手作りするのが好きだった山崎さんが持って来た、彫刻刀で彫った魚のブローチを見て、佐々木さんは驚いた。プロ並みの出来栄えだった。そして、ものづくりを楽しそうに語る様子に、子どもの頃の自分や、この仕事を始めた原点を思い出した。山崎さんは採用された。

山崎さんの家は震災当時、漁港にあった。津波で母と妻の両親を亡くしている。しかし、同じ集落で16人が犠牲になり「もっとつらい思いをしているから」と人前では決してそれを語らない。

しかし、樹脂でパテを固めては、勘を頼りに掘っていく作業がうまくできあがると「素人同然の自分に、母たちが力を貸してくれているのでは」。手が滑って彫り間違えたことでいいデザインになると「世話好きの義母が教えてくれたのかな」と、心の中で手を合わせる。

そうやって丹精込めて作りあげた我が子のようなフィギュアだから、作品への愛がカプセルの中にこもっているのだ。

設置初日から次々とハンドルを回す町民が
設置初日から次々とハンドルを回す町民が

売れすぎると製造追いつかない

山崎さんは、最近、記録的不漁が続くサケには特に関心を寄せる。お歳暮の定番だった特産品「南部鼻曲がり新巻きサケ」がほとんど作れなくなった代わりにと、昨年末、体長15㎝、実物の6分の1の大きさのフィギュアも製作した。桐箱に入って1本1万5000円。これもがんばって1週間に数本しか作れないが、ショッピングセンターの催事場で飾ると「贈答用に」と用意した2本が売れ、注文も受けた。

「ガチャ」は今後、隣の釜石市のスーパーなどにも置く予定だが、売れすぎると製造が追いつかない心配もある。ただ、そうなって嬉しい悲鳴をあげる山崎さんも、見てみたい気がする。

新発売の新巻きサケのフィギュア=岩手県大槌町吉里々々の「ササキプラスチック」、東野真和撮影
新発売の新巻きサケのフィギュア=岩手県大槌町吉里々々の「ササキプラスチック」、東野真和撮影 出典:朝日新聞デジタル
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