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「人生には、飲食店がいる。」意を決した広告に届いた〝長文の感想〟

「人生には、飲食店がいる。」と題した飲食店への応援メッセージを企画したサントリーの細田咲彩さん=同社提供
「人生には、飲食店がいる。」と題した飲食店への応援メッセージを企画したサントリーの細田咲彩さん=同社提供

目次

新型コロナウイルス「第5波」による緊急事態宣言が解除されて1カ月が経った昨年11月、サントリーは「人生には、飲食店がいる。」と題した飲食店への応援メッセージを発信しました。「飲みに行きましょう」と大手を振って伝えることが難しいなかで紡がれた言葉たち。込めた思いや、「第6波」が本格化してからの対応などを、宣伝部クリエイティブグループの細田咲彩(さあや)さんに聞きました。

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取材に応じたサントリーの細田咲彩さん
取材に応じたサントリーの細田咲彩さん

落ち込み続く居酒屋のために

応援メッセージがつづられたポスターやステッカーは約5万店の飲食・酒販店に配布されたほか、新聞広告や屋外広告(約1250面)でも展開されました。

「人生には、飲食店がいる。」のメインコピーとともに、グラス片手に乾杯するシーンなどのイラストや「飲まなくたって会えるけど、そういうことじゃないんだよ」「言えなかったことをついぽろっとこぼしちゃうようなうかつな場所が、人生にはいるんじゃないかなあ」といった言葉が添えられています。

「人生には、飲食店がいる。」のポスターの一つ
「人生には、飲食店がいる。」のポスターの一つ 出典:サントリーの特設サイト

日本フードサービス協会のまとめによると、2021年の「居酒屋/パブ」市場の売り上げは前年と比べて42.2%減りました。コロナ前だった2019年と比較すると、72.8%の落ち込みです。ファミリーレストランやファストフードなどを含めた外食産業全体は前年比1.4%減(19年比16.8%減)なだけに、深刻さが際立っています。

細田さんも、営業担当の同期から飲食店の状況を聞いたり、行きつけだった店が閉まったりする経験をしたといいます。「サントリーは創業以来、飲食店とともに人のつながりをつくってきました。飲食文化を守る大事なパートナーがコロナによって苦境に立たされているなか、『何かできることはないか』とチームで議論するところから始まりました」

駅やバス停などにも掲示されたポスター=サントリー提供
駅やバス停などにも掲示されたポスター=サントリー提供

場所としての価値を再発見

ブレストでは、ポイントキャンペーンのような直接的な支援案も出たそうですが、「新型コロナの終息が見えず、積極的に『飲みに行こう』というような発信はしづらい難しさがありました」と細田さん。そんななかで浮かんできたのが、酒を通じて人と人とのつながりが生まれていた飲食店の「場所」としての価値でした。

「仕事終わりはもちろんそうですし、何かの打ち上げや歓送迎会、女性だったら女子会とか。お店でお酒片手に、ああだこうだと語り合った時間というのが多くの大人にはあったと思うんです」

「しかし、コロナが広まって飲みに行くことが減るなかで、そうした体験の良さを『忘れかけているんじゃないか』という声がチーム内で出てきました。そこから、温かみのある時間やお店の魅力というのを一度言語化して、皆さんに感じてもらうことが、私たちにできることなのではないかと考えました」

企画の経緯を話す細田さん
企画の経緯を話す細田さん

「どう伝えるか」も熟考

どういった表現で伝えるかについても、検討を重ねたと細田さんは振り返ります。「コロナ禍のいまは、様々な立場の方がいて、色んな意見があります。会社に寄せられる意見やSNSなどを通じてお客様の生の声に耳を傾けたほか、私たちも一生活者として『このコピーを見たらどう思うか』ということを考えました」

飲みに行くことをいたずらにあおるメッセージでなく、飲食店が人々の人生に寄り添い、コミュニケーションの後押しをしてきた存在であること。その場所はこれからも必要であること。二つの意味を語尾の「いる」に込めて、メインコピーの「人生には、飲食店がいる。」は決まりました。

昨年末には、俳優の吉高由里子さんが出演したテレビCMも公開されました。吉高さんのナレーションに合わせて登場するのは、『続 男はつらいよ』や『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』など時代を超えて愛される映画の飲食店シーンです。

「しょうもない話で、涙が出るほど笑えたりする」「あんなに賑やかなのに、みんなの声が聞こえる」といった語りとともに、酒を酌み交わす場面も出てきます。「飲食店との関係性は昔からあるので、コロナ前後だけを切り取るのではなく、幅広い時代のシーンをつなぎました」。映像はYouTubeでも公開され、280万回以上再生されています。

届いた長文の感謝

キャンペーンの開始後、会社には「勇気づけられた」「このタイミングでのメッセージはありがたい」などといった声が飲食店や酒販店を中心に届いたそうです。特に細田さんが印象に残っているのは、飲食店を営んでいた家族からあった長文の感想でした。

「『我々の気持ちを代弁してくれるようなメッセージで救われました。心がすごく動きました』と熱い思いをつづってくださっていて。私たちの思いが伝わったのが、とてもうれしかったです」

企画の反響を語る細田さん
企画の反響を語る細田さん

企画後に第6波、でも……

テレビCMは今年に入ってからも流すことを検討していましたが、オミクロン株による「第6波」の急拡大により難しい状況となりました。ただ、企画自体は継続しており、特設サイトでの紹介や店舗でのポスターの掲示なども続いています。

「今回発信しているメッセージは、これからも大事にしていきたいです。コロナの状況次第ではありますが、感染が落ち着いたらテレビCMも再開したいなと思っています」と話す細田さん。常に意識しているのは、「自分たちにできることはないか」という視点です。

「コロナ禍になって、生活様式や価値観はどんどん変わっています。『人とのつながり』という根本は大切にしつつ、色々なところにアンテナを張りながら、いまの世の中に合わせた新しいメッセージを探していきたいです」

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