連載
#44 「きょうも回してる?」
元デザイナーが勝負かける「椅子」ガチャ クッションを一つずつ塗装
会社は「ガチャガチャに魂を吹き込む」をコンセプトに掲げるトイズキャビンです。代表の山西秀晃さんが5年前、一人でガチャガチャ業界で勝負するために起業し、今や4人のスタッフを抱えるようになりました。
中小零細企業のガチャガチャメーカーにとって、人の雇用はリスクを抱えることになります。しかし、山西さんは「ガチャガチャ業界はマス市場です。かつメーカーの数も多い。そのなかで戦っていくためには、私が想起しないアイディアを持っている人が必要です」と語り、会社に新しい風を運んでいます。
4人のスタッフのなかには、前職がデザイナーの人もいます。2年前に入社した、金高尚輝さんです。
今回は、金高さんが初めて企画担当した「1/24デザイナーズチェアコレクション(以下、デザイナーズチェア)」を紹介します。このデザイナーズチェアは、雑誌や家具店などで一度は見たことがあるリプロダクトのチェアをガチャガチャに落とし込みました。
企画のきっかけは、「デザイナーズ〇〇」でした。世の中に関連商品が数多くあるなか、金高さんはデザイナーズチェアに着目したそうです。「家具は他のメーカーでもたくさん発売しており、そのなかでトイズキャビンの特徴を活かして勝負ができるのではないか」と考え、商品化を進めました。
商品はマシュマロチェア 、ボールチェア、LC2を2パターンずつ用意した6種類となっており、それぞれのこだわりが見て取れます。
マシュマロチェアは組み立てたときに、全長が75㎜となるボリューム感です。
「見ていただくとわかりますが、クッションのパーツ一つひとつを独立させて塗装しています。実物へのリスペクトを込めて、ディテールにこだわりました。横から見ても本物の作りと同じように再現しました」(金高さん)
ボールチェアは一見、簡単な球体のチェアに見えますが、実物のように丸みを帯びた形状にすることに苦労したと言います。
「丸みを再現するには、パーツに分けて組み立てる必要があったのですが、試作をすると再現がなかなか難しいとわかりました。ただ、形状が変わってしまうことは商品へのリスペクトが無くなってしまいます。生産工場の担当者と何度も綿密なやりとりを行い、パーツを分けても実物と同じような丸みの形状になんとか仕上げることができました」と金高さん。塗装の具合や形を納得いくまで調整し、なんとか量産の段階までこぎつけたそうです。
完成品ができあがったとき、金高さんは「ここまで忠実に再現したなら、絶対に売れる」と手応えを得たそうです。実際、金高さんの飽くなきこだわりが、商品を仕入れるベンダー(ガチャガチャの販売機を運営する会社)の説得材料にもつながっていきました。
商品は1回300円です。ここに二つの戦略があります。一つ目は、ユーザー目線です。金高さんは「ベンダーさんや購入して頂けるお客様の目線で考えると、安ければ安い方がいい」と語り、500円の商品にしたくなかったと言います。
もう一つの理由は他社との差別化です。「他のメーカーさんの家具商品は500円が多いです。だからこそ、トイズキャビンは300円で勝負に挑みました」と金高さん。デザイナーズチェアを「家具系商品に対するキラー商品」と位置づけており、意気込みの強さをうかがわせます。
デザイナーズチェアについて、代表の山西さんは「金高の企画は私にない発想でした。そしてベンダーさんを説得する材料も十分に揃っていました。トイズキャビンとしては、初めての家具商品です。ビジネスの観点とクオリティの高さで驚かせるお客様の反応、そして商品に対する値段の価値観のバランスがマッチした商品です」と話し、期待している様子が伝わってきます。
「ライバルが多いなか、よそがやらないような絶対的な差別化を打ち出すしかありません。結果的に売れなかったとしても、スタッフには新しいことを挑戦してもらいたい。トイズキャビンの色を打ち出した商品で今後も展開していきます」と最後に語ってくれた山西さん。このデザイナーズチェアも、多くのミニチュア商品に戦いを挑んだトイズキャビン流の商品でした。
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1/24デザイナーズチェアコレクションは、12月下旬に発売予定です。マシュマロチェア COLORFUL、マシュマロチェア WHITE×BLACK、ボールチェア RED、ボールチェア BLACK、LC2 BLACK、LC2 WHITEの全6種類。1回300円。
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