連載
#3 #これからの育休
保育園の迎え・急な呼び出し……育休後の分担、「重い役割」こそ大事
男性の育休は、女性に比べて取得率が低く、期間が短いのが現状です。また、せっかく育休を取得しても、復帰後の働き方は長時間労働のままというケースも散見されます。
「これからの育休」はどこへ向かえばよいのか。「さあ、育休後からはじめよう」の共著などがある育休後コンサルタントの山口理栄さんに聞きました。
男性の育児休業の取得率は約13%で、7割以上の人は期間が2週間未満。一方、女性は約8割の人が育休を取り、期間も10カ月以上の人が約7割です。
男女の差が大きい現状をどう受け止めるのか。厳しい指摘があるかと思いましたが、山口さんの回答は意外なほど穏当でした。
「男性の育休は、取りたい人が取れるようにするフェーズです。日数が少ないことについても、いまの時点ではとやかくいう必要はあまりないと思います」
山口さんは、1984年に電機メーカーに入社。2人の子どもを出産し、育休から復職した後に管理職になりました。その後、2010年に育休後コンサルタントとして独立しました。
10年余り育休の動向をウォッチし、「育休後カフェ」を開き当事者の話にも耳を傾けてきたのが山口さんです。
そんな山口さんは「この10年で育休を取り巻く現状は大きく変化しました」と話します。
10年前、男性の育休取得率は1%台で低迷。ところが近年は上昇傾向にあり、直近の調査では10%を超えました。この上昇ペースを維持し、育休取得者自体を増やすことが先決だというのが山口さんの指摘です。
もちろん、「職場の雰囲気」や育休後のキャリア形成など、育休取得のハードルをなくすため企業側に働きかけることは重要とします。一方で、取得を希望する男性たちが、育休に対するネガティブな見方が広まることで二の足を踏み、「取りたい人が取れない」状況が続くことに危機感も抱いています。
この10年間、女性の育休をめぐる状況にも大きな変化があったと、山口さんは話します。
「10年前、女性によく聞かれたのは、『育休から復帰してキャリアをめざしていいのですか?』ということでした。今は、復帰後にどう管理職になってもらうか、という視点で研修をやっています」
女性の育休の取得率は8割程度で変わりません。ただ、「育休=キャリアの断絶」ではなく、育休後のキャリア維持やステップアップに関心が集まってきたことに、変化を感じているそうです。
そんな山口さんは「育休を目的にすること」に警鐘を鳴らします。「育休を目的にすると、育休明けにステレオタイプ的な役割に戻ってしまいます」
「男は仕事」「女は家庭」のような考え方は根強く残っています。「男性は、育休後に(長時間労働が当たり前の)元の働き方に戻ってしまいます」と山口さん。女性もまだまだ「育児中心」になりがちだと話します。短時間勤務の働き方が固定されたり、キャリアを諦めたりといったことにつながってしまうというのです。
そうしたことを防ぐために、「育休後」を見据え夫婦で両立を考えていくことが必要と説きます。
では、どうすればよいのか。
山口さんは「重い役割」の分担が必要と話します。例えば、保育園の送り迎えで言えば、「迎え」はその後の家事や育児時間が長くなりがちで負担が大きいと指摘します。
急な発熱などによる保育園の「呼び出し」への対応も、仕事の調整が難しく「重い役割」だとします。
「『荷が重い』『ちょっと不公平』と、夫婦で話し合うことが大事です」
上司によっては、男性が育休から復帰すると「またバリバリ働いて」と求めてしまいがちです。こうした状況だと両立が困難になるため、山口さんは、勤め先への状況説明も有効とします。
「朝は、保育園の送りに行っています。夕方は、妻が迎えに行っている間、夕食を作っています」といった具合です。「父親が家庭で重要な役割を果たしていることが見えていない管理職もいます。ただ、研修を通じて気づいたことは、世代背景が違うだけということです」。山口さんは、説明することで理解を得られる可能性も十分あるとします。
コロナ禍で在宅勤務が浸透してきたことも追い風と話します。「例えば、短時間勤務の人も、通勤時間分も働けるので、通常の勤務に戻れるかもしれません。在宅勤務の回数に制限がある場合、『仕事に使える時間が増えて成果も出る』と制限を緩めてもらうことも考えられます」
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