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「これは仕事だ」AV出演強要、契約までの手口「自己責任じゃない」

契約解除後も販売が止められない深刻さ、「好きで出たんでしょ?」の声が被害者を追い詰める

AV出演強要問題について支援団体は「自己責任じゃない」と訴える  ※写真はイメージです Getty Images
AV出演強要問題について支援団体は「自己責任じゃない」と訴える  ※写真はイメージです Getty Images

目次

詐欺や恐喝など、さまざまな手口で女性たちがAV(アダルトビデオ)出演へと引きずりこまれている。一体、現場では何が起きているのか。この問題に向き合い、多くの女性たちを支援してきたNPO法人「ぱっぷす(ポルノ被害と性暴力を考える会)」の理事長 金尻カズナさんと、相談員 後藤稚菜さんに、笑下村塾たかまつなながオンラインサロン「大人の社会科見学」オンラインイベントとして話を聞いた。(取材/たかまつなな 編集協力/塚田智恵美)

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金尻カズナ(かわじり・かずな)
NPO法人「ぱっぷす」理事長。2004年からアダルトビデオを含むポルノ被害の深刻さを社会に訴えるために社会活動を始め、セクシャリティをめぐるさまざまな問題について取り組む。2011年以降は特に「デジタル性暴力」をめぐる相談支援に携わる。
 

 

後藤稚菜(ごとう・わかな)
2017年の#metooムーブメントをきっかけに性暴力・女性への差別根絶を志す。ぱっぷすの発信を通じてポルノや性風俗産業による性的搾取が女性差別の核心的問題であると考え、2019年秋よりぱっぷす相談員に。
 

出演を強いられ、動画はデジタルタトゥーに

「モデルにならないか」とスカウトされて契約書にサイン。いざ撮影のために現場に行ってみたら、AVだった。出演を拒否するも、「契約不履行で違約金がかかる」などと脅され、仕方なく撮影に応じてしまう。以降、次々に撮影を強要される……。

本人の意に反してアダルトビデオへの出演を強いる「AV出演強要」の問題が深刻化している。出演した映像が流通し続け、デジタル性暴力の二次被害に苦しむ女性も。誰にも相談できず、業者によって孤立させられるなど、なかなか被害が見えにくいという事情もある。

そんな中、AV出演や性産業にまつわるトラブル、リベンジポルノなどのデジタル性暴力について相談支援活動を行なっているのが、NPO法人「ぱっぷす」だ。「ぱっぷす」に寄せられる相談件数は年々増加傾向にある。AV出演に関する相談件数も、ここ5年近くは横ばいの状況が続いているという。

「多くの相談者が、自分が出演した映像や画像が拡散されて初めて『自分は人権侵害を受けた』と気づいたといいます。出演を機にデジタル性暴力の被害に遭うと、24時間365日、緊張状態に置かれ、精神的な不調を訴えられる方も多くいらっしゃいます」(金尻さん)

AV出演をめぐっては「本人が望んで出演したのではないか」「出演前に契約書を交わしているなら、強要とは言えないのでは?」と疑問を抱く人もいるだろう。ところが、後藤さんが受けてきた相談の実態は、「本人が望んで出演」とは決して言えないものばかりだという。

「自ら望んでAV業界に入っていくのではなく、言葉巧みに丸め込まれていくケースがこんなにも多いのかと驚きました」(後藤さん)

「散々費用をかけてきた」「これは仕事だ」

実際にぱっぷすに寄せられた相談の事例について、いくつか紹介しよう。

まずは学生のAさんのケース。Aさんは、ネットで見つけた手や足などのパーツモデルのアルバイトに応募した。事務所に行くと、パーツモデルではなく、カメラマン志望者の練習台として、撮影に応じるモデルの仕事だと説明を受ける。

Aさんは「撮った写真はどこにも公開されない」と説得され、ひとまずモデル登録用の撮影に応じることに。その後もたびたび「断ることもできるから」と撮影のための面接を受けることを促される。面接のための美容院や服の費用は、事務所持ちだったという。

数日後、Aさんが連れて行かれたのが、アダルトビデオメーカーだった。Aさんは「当初の話と違う」と訴えるが、これまで費用をかけてきたことなどを持ち出され、だんだんと断りづらくなる。

ついにAV出演を打診されたAさんは、それでも必死で断る理由を述べた。しかし事務所の社長が、言葉巧みに理由をひとつずつ剥いでいく。「親や大学に知られたくない」と言うと「1本出ただけで有名になれると思ってるの?」と返される、というように。最後は「もう日程もスタッフも組んだ。これは仕事だ」と追い込まれ、撮影に応じるしかなくなったという。

「多くの相談者に共通するのが、途中までは必死で撮影に抵抗するものの、ある時点を境にスッと諦め、言われるがままに応じてしまうということ。その瞬間を『あらゆる感覚をシャットアウトされて、宙に浮いた状態になった』と表現した方もいました」(金尻さん)

NPO法人「ぱっぷす」の金尻カズナさんと後藤稚菜さん
NPO法人「ぱっぷす」の金尻カズナさんと後藤稚菜さん

撮影が始まったらAVだった

Fさんの場合は、街でスカウトされたことが始まりだった。コスプレモデルと言われてロケバスに乗ったら、契約書に署名を求められた。「契約書があるということは、ちゃんとした会社なのかな」と思ったFさんは、その場で署名をする。

しかし撮影が始まると、どんどん性的なことを求められるように。密室、男性と1対1の空間で、要求に応じずにはいられなかった。

「契約書に署名したという事実をもって、女性側にすべての性的同意を放棄させるような現場もあるのです。中には、『妊娠、性感染症に関して一切の賠償や責任を負わないものとする』といった一方的な内容が書かれている契約書もあります」(金尻さん)

そして、一度出演してしまったら、映像は本人の意思にかかわらず流通し続けることになる。

「『私、AVに強制的に出演させられました』と聞かされたら、その人の名前を検索しますよね。すると、見られたくない映像をより多くの人に見られてしまう。だから、被害の声をなかなか上げられないのです」(後藤さん)

AVはファンタジー? 現場で行為を受けるのは生身の人間

金尻さんは「被害を訴えたら、出演したビデオが販売停止になり、きちんと事業者側が処罰されるような仕組みをつくる必要がある」と語る。

中には、出演強要の被害を申告し、販売を停止するようお願いしたところ、わざわざホームページのトップ画面に、該当の映像を掲載した悪質な業者もいるという。

「意に反するAV出演は許されず、契約は即時解除できるという判例は出ています。問題は、撮影された映像が販売されることについて規制がないことです。既に世に出てしまった映像についても、何か法的なアプローチが必要だと考えています」(金尻さん)

また、ぱっぷすに寄せられる相談には、撮影中の本番行為によって、妊娠や性感染症などのトラブルに巻き込まれた事例も多い。「また、ぱっぷすに寄せられる相談には、撮影中の本番行為等によって、妊娠させられたり、性感染症にり患させられた事例も多い。」 金尻さんは「本番行為のリスクを自己責任として良いのか。まずは本番行為を規制の対象にすることが第一歩では」とも考えている。

「『AVはファンタジー』とよく語られます。でも、AVの中で行われていることは、実際に生身の女性がされている行為だときちんと認識しなければいけない」(後藤さん)

「好きで出たんでしょ?」の声が被害者を追い詰める

なかなか被害が見えにくいAV出演強要の問題。私たちはどのように向き合えばいいのか。

「昨今『性的同意』の重要性については、広く認知されてきました。でも、嫌なことは嫌と言える対等な関係がなければ、そもそも性的同意は成り立たないはず。そういう身近なところから、AV業界で起きている問題を考えてみてほしいです」(後藤さん)

「AV被害は一見すると、出演した人の問題に見えるかもしれない。『好きで出たんでしょ?』って。でも消費者は、その裏に隠れている事業者にもっと注目しなければならないと思います。どのように制作されているか、その過程に問題はなかったのか、知ろうという姿勢を持ってほしい」(金尻さん)

もちろんAVの制作現場すべてが、追い込むように出演させているわけではないだろう。しかし「出たいから出ているのでは?」と疑うだけでは、悪質な業者、契約を解除してもネット上で広まり続ける映像、デジタル性暴力といった社会が抱える問題を、出演した当人の意志だけの問題にしかねない。

昨今SDGsの考え方が広がるとともに、生産するプロセスも含めて適切かどうか、消費者自身が知り、商品を選ぶことの重要性が語られ始めた。AV制作の現場で起きている問題を、出演した人の問題と矮小化しないために。今、消費者の見る目も問われている。

「AV出演にまつわる被害やトラブルをなくすために、私たちはどうすればいいのか、「ぱっぷす」は、AV撮影において以下の人権侵害性があることを知って、考えてほしいという。

「AV出演被害やトラブルに巻き込まれた時には、相談することができます。匿名も可です。ぱっぷすのホームページはこちらです:paps.jp(https://www.paps.jp/
※この記事は、2021年9月2日に笑下村塾のたかまつなながオンラインで行ったイベント「社会科見学vol25 AV出演を強いられ、心に消えない傷を負う女性たちからのSOS@ZOOM」をもとに作成しました。
 

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