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トム・ブラウン、時代にフィットしない…キワモノ枠が求められる理由

「今、本当にないもの」という存在感

トム・ブラウンの布川ひろき(左)、みちお=2019年12月4日、東京都港区
トム・ブラウンの布川ひろき(左)、みちお=2019年12月4日、東京都港区 出典: 朝日新聞

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2019年から様々なバラエティーに露出し、独自のポジションを築いたトム・ブラウンの布川ひろきとみちお。「M-1グランプリ2018」決勝で“ツッコミ不在”の漫才を披露し注目を浴びた2人だが、特有の面白さは高校時代から変わっていない。クリエーティブな若手芸人が続々と増える中、彼らが必要とされるのは“今本当にないもの”だからではないか。(ライター・鈴木旭)

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「M-1グランプリ」決勝で賛否両論

「M-1グランプリ2018」で一躍時の人となったトム・ブラウン。アニメ『サザエさん』(フジテレビ系)のキャラクター・中島くんを5人合体させ「ナカジマックス」を作りたい、という独特なネタで見る者に強烈なインパクトを与えた。

審査員たちの評価も分かれた。立川志らくは2人を高く評価し、「私はあなた達を追っかけ続けます」と絶賛。一方で、上沼恵美子は「大熱演。感動しました」と健闘をたたえながらも、「私は歳だからついていけない」と審査員の中ではもっとも低い配点をつけた。

まさに評価が真っ二つに分かれる賛否両論のコンビだ。そして、それはM-1決勝に出場してから現在に至るまで変わっていない。時流に乗るわけでも、SNSで別の一面を披露して話題を集めるわけでもなく、“トム・ブラウン”という異物として求められ続けているのである。


よく似た感性を持った先輩・後輩

ともに北海道出身。高校時代、柔道部の先輩・後輩として出会った。

1年上の布川は、「誰にも気付かれずにパンイチで部室から職員室まで歩く」という特殊な遊びをしており、これが発展して後輩のみちおと「動きが止まると気配が消えて見えなくなる」という趣向のゲームで面白がっていたという。当時から、よく似た感性を持っていたようだ。(2020年9月2日に公開されたYouTubeチャンネル『動画、はじめてみました【テレビ朝日公式】』の「【しょうもなくて笑う!?】トム・ブラウン結成前のキケンな遊び≪太田伯山★未公開トーク≫」より)

後輩のみちおが高校を卒業するにあたり、布川がお笑いの道に誘うも断られ、それぞれ別の道を歩む。布川は別の知り合いとコンビを結成し、札幌よしもとの芸人として活動を開始。みちおはプロスノーボーダーを目指すため専門学校に進学した。

その後、布川はピン芸人となり、ローカル番組に出演。みちおはインストラクターの資格を取得したものの、友人のエグい骨折にショックを受けたこと、地元のお笑い番組に布川が出ていたのを見て「簡単に行けるんじゃないかな」と感じたことで芸人への転身を決意した。(2019年1月16日に掲載された「中西正男のなにわ芸能かわら版」の『「M-1」ファイナリストの「トム・ブラウン」、所持金は「300円」』より)

「面白い、面白くないじゃなくて、わからん」

2008年、お笑いオーディションで再会したのをきっかけにコンビを結成。東京で勝負したいと感じていた布川がみちおを誘った。

翌年に上京し、2010年に現在の事務所に所属。当初はボケとツッコミが逆だった。しかし、みちおのツッコミフレーズがあまりに少なかったため、布川がツッコミを担当するようになって現在の形に落ち着いた。

ポツポツとテレビ出演するものの、鳴かず飛ばずの日々。ターニングポイントは2016年、事務所の先輩であるハマカーンの紹介で『アッコにおまかせ!』(TBS系)に出演したことだ。番組でネタを披露したところ、司会の和田アキ子から「面白い、面白くないじゃなくて、わからん」と言われてしまい、持ちネタを根本から考え直すようになった。(「日経エンタテインメント! 2019年 8 月号」(日経BP社)より)

「何者か数人が合体する」というネタは、この頃に萌芽している。しかし、同年のM-1予選で2回戦敗退。自信があっただけに、初めて「もう辞めようかな」という気持ちが過ぎった。ただ、後悔だけはしたくない。2人は負けずに同じスタイルのネタに磨きをかけた。

すると、縁もゆかりもない長崎の単独ライブで爆発的にウケた。観客は6人しかいなかったが、50人はいるだろう笑い声が会場に響き渡ったのだ。(前述の「中西正男のなにわ芸能かわら版」より)

たしかな手応えを感じ、翌年以降もライブで披露し続けた。これが2018年のM-1決勝へとつながったのである。


ナチュラルにキワモノ枠を担えるコンビ

M-1効果もあり、2019年からはバラエティーで活躍。『有吉の壁』(日本テレビ系)、『金曜★ロンドンハーツ』(現:ロンドンハーツ・テレビ朝日系)、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)といった人気番組に続々と出演するようになった。

ただ、そのほかの芸人コンビと違うのは、あくまでも“異物”として番組に迎え入れられることだ。そもそもネタの最後で布川が「やった~!」と勢いよく相方の頭を叩いたり、みちおが番組出演時のツカミで「○○を殺します」と言い放ったりする芸風はどこか狂気じみたものがある。

さらには、みちおの怪力を生かして素手で果物をしぼったり、布川が北海道の風俗に詳しい芸人として知られていたりと、どちらもフレッシュなイメージからは程遠い。また、私がタイムマシーン3号の2人から直接聞いたところによると、『有吉の壁』の一般人の壁でトム・ブラウンとコラボの出し物を話し合うにあたり、「え、どういうオチ?」と首を傾げるような提案が少なくなかったという。

そもそも布川には、オードリー・若林正恭から「布川は変なツッコミするよね。性格も普通の人とは違う。髪形変えるだけで全然違うかもよ」と言われてロン毛にしたところ、いつも以上にネタがウケたという原体験がある。(2019年3月28日に掲載された夕刊フジ「zakzak」の「【ぴいぷる】なんでも“合体”ダメ~!? トム・ブラウン布川、ロン毛はオードリー若林からのアドバイス」より)

つまり、奇妙な芸風こそ彼らの真骨頂なのだ。年を追うごとにコンプライアンスが重視される時代、ここまでナチュラルにキワモノ枠を担えるコンビも少ないだろう。

“今本当にないもの”という存在感

トム・ブラウンのほか、アクの強い芸風で思い浮かぶのがインポッシブルと5GAPだ。共通するのは、毎度同じようなことをやっていても替えが利かない存在だということだろう。

2019年から起きた「第七世代」ブームともほとんど縁がなかった3組だ。トム・ブラウンと5GAPにおいてはYouTubeチャンネルも開設していない。時代にフィットしているとは言い難いが、だからこそ“今本当にないもの”として自然と存在感が増しているように感じる。

その中でも、トム・ブラウンは頭一つ抜けた存在だ。みちおは、目の奥が笑っていないように見えたり、番組の出演時間が遅くなったことで布川に大外刈を決めたりする行動から、一部でサイコパスとも呼ばれている。布川は、男性器の大きさが芸能界一とも言われており、衣装によっては股間の前に手を添え目立たないようにネタを披露している。そんなコンビがほかにいるだろうか。

2019年4月に放送された『トム・ブラウンのオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)では、30代中盤にして「どっちのほうがケンカが強いか」を言い争っていた。いまだに2人の関係性は、柔道部の先輩・後輩のまま変わっていないのだろう。

クリエーティブなネタを作る若手芸人が増える中で、彼らのハプニング性と固定概念に縛られない滑稽さは、むしろ今の時代に必要とされているのかもしれない。

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