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お金と仕事

「アスリート100人募集!」に元Jリーガーの社長が踏み切った理由

「夢中になっている人と働く」影響に期待

バリュエンスホールディングス社長の嵜本晋輔さん。以前、J1ガンバ大阪でMFとしてプレーしていた
バリュエンスホールディングス社長の嵜本晋輔さん。以前、J1ガンバ大阪でMFとしてプレーしていた

目次

エントランスを入り、目に飛び込んできたのはアート作品と電子掲示板。買い取り事業を中心に国内外にビジネスを展開するバリュエンスホールディングスの入り口には、東京、上海、香港、シンガポールなどの支社の時刻が表示されています。同社は、今年「アスリート100人採用」を打ち出し、これまで13人のアスリートが入社しました。その狙いについて、社長であり、元Jリーガーの経歴を持つ嵜本晋輔さん(39)に話を聞きました。(構成・小野ヒデコ)

 

嵜本晋輔(さきもと・しんすけ)
バリュエンスホールディングス社長。1982年、大阪府出身。関西大学第一高校卒業後、2001年に関西大学に進学すると同時に日本プロサッカーリーグ1部(J1)のガンバ大阪と契約。03年に戦力外通告を受けた後、04年に佐川急便大阪SCに入団。同年に現役引退を表明。05年に2人の兄と会社を設立し、11年12月に単独でバリュエンスの前身となるSOU(ソウ)を起業。18年3月、元Jリーガーの実業家としては初となる上場(東証マザーズ)を果たす。20年3月、社名を変更し現職。
 
バリュエンスホールディングスのオフィスにて、嵜本さんとグラフィックアーティスト「VERDY」の作品
バリュエンスホールディングスのオフィスにて、嵜本さんとグラフィックアーティスト「VERDY」の作品

競技に専念できる環境作り

私は高校卒業後にJリーグチームのガンバ大阪に入団するも、3年後に戦力外通告を受けました。その経験もあり、アスリートのセカンドキャリアをはじめ、競技と仕事を両立するデュアルキャリアに以前から関心がありました。

そこで、アスリートがキャリアについてどう考えているかを知るために、2年ほど前からプロ、アマを問わず、現役選手にヒアリングをしてきました。これまで20人以上に意見を聞いた中で見えてきたことは、デュアルキャリアに興味があるアスリートは多いものの、そのニーズに寄り添う企業が少ない現実でした。具体的には、時間の融通が利く仕事環境がほとんどないことです。

さらに、2020年の春から新型コロナウイルスの感染拡大があり、中には現役生活を続けたくとも、所属団体の経営状況の都合や、自身の経済的な理由などで、好きな競技を手放さなくてはならない人も出てきていると思います。

私のように戦力外通告を受けたり、怪我や病気が原因で現役生活を絶たないといけなくなったりするアスリートは多いです。そういう方々に、競技以外の働く場を提供し、コロナ禍でも経済面や将来の不安を抱かずに競技に専念できる環境を整えたいと思い、アスリート採用の強化を加速しました。

Jリーグチームのガンバ大阪でプレーをしていた嵜本さん=©ガンバ大阪
Jリーグチームのガンバ大阪でプレーをしていた嵜本さん=©ガンバ大阪

「10競技×10人」募集の意図

「10競技×10人 100人募集します!」と打ち出している意図は、社内の多種多様性を強めたかったからです。そしてもう一点、“裏テーマ”として「競技によって働き方に違いが出てくるのか」を分析したいとの思いもあります。

例えば、サッカーはクリエイティブ性が求められる競技です。一瞬一瞬に選手個々の判断が求められます。さらに細分化をすると、同じサッカーでもポジションごとに特性が異なります。

私のポジションは、全体を俯瞰する力が必要なMFでした。その他、点を取りに行くFWや、守りを重視するDFなど、立場によって求められるスキルは変わります。もし、競技や種目による特性の「傾向」がつかめれば、さらに個人に合った職種の紹介や、仕事の進め方を提案できるのではと考えています。

これまで、22種目、100人弱の方がアスリート採用に興味をもち、面談まで至りました。男女比率は、男性が85%、女性が15%と男性比率が多いのが現状です。

私たちは、みずから学び、この会社で成長したいと思っている方を求めているので、「選手としての自分をどれくらい支援してくれるか」のスタンスの方とは、残念ながらアンマッチとなっています。

面談においてお互いが納得した場合、一般的な転職活動と同じように面接に進んでもらいます。2021年7月時点では約50人が面接に進み、そのうち13人の入社が決まりました。競技の割合でいうと、サッカー経験者が8割を占める結果となっています。

何かを始めるのに、年齢はあまり関係ないと話す嵜本さん。「若い方がパフォーマンスを発揮できるという意見を聞くことがありますが、それは一論だと思います」
何かを始めるのに、年齢はあまり関係ないと話す嵜本さん。「若い方がパフォーマンスを発揮できるという意見を聞くことがありますが、それは一論だと思います」

視点の時間軸を中長期に広げる

アスリート採用で入社した後は、個々の練習や試合時間に応じて、働く時間を決めます。店舗営業と競技を両立するアスリート社員のケースですが、通常の練習は平日夜で、試合は週末のため、勤務時間は平日10時から17時、休日は土日としています。

店舗営業の勤務形態はシフト体制です。「残業なし、土日休み」は理想的な働き方のはずですが、他の社員からの不満や妬みの声はなく、むしろ「17時にきちんとあがって」とアスリート社員に声をかけているそうです。アスリートのように、何か一つのものに夢中になっている人と一緒に働くことが、既存の社員に良い影響を与えるのではと思っています。

創業時を振り返ると、零細企業だった時代はアスリート採用ができるほど手が回っていませんでした。でも、「いつかしたい」という思いを胸の中に秘めていました。

予算や業績目標の達成など、つい目の前の利益に走りがちになりますが、時間軸の視点を、3年、5年、10年後と広げて考えると、アスリートが社員になることでもたらされる影響は大きいと考えています。

今はアスリートに限られていますが、今後は全社員がさらに成長できるよう「複業」を申請できる環境を整えていきたいと思っています。

現役時代の嵜本さん。ポジションはMFだった=©ガンバ大阪
現役時代の嵜本さん。ポジションはMFだった=©ガンバ大阪

「他責」ではなく「自責」の考え方

私は、ガンバ大阪に在籍していた現役時代を“他責の3年間”と呼んでいます。当時は人のせいばかりにして生きていて、振り返ってみると「そりゃクビになるな」と納得しています。その経験から、他責のスタンスでいると、自身の成長をみずからが奪うことにつながると学びました。そして引退後、「自責」の考え方へと意識的に変更したところ、人生が好転しました。

物事の捉え方や考え方の概念を知ったら、人は何倍も成長すると思っています。その学びを、社員をはじめ、思い悩む現役そして元アスリートにも知ってもらいたいと思い、全社員に向けて話す時間を月2回作ったり、こうして積極的に取材に応じたりしています。

自分を変えることは並大抵のことではありません。でも、変えたいと思ったら、行動する以外にないと思います。

私はいつも「僕みたいな人間でもここまでできた」と思っています。これは謙遜ではなく本心です。小学生の時から勉強は大っ嫌いで、成績もよくありませんでした。でもサッカーだけは大好きでした。

なぜ、そこまでサッカーにハマったかというと、他にも水泳や体操をしていたことが影響していると感じています。「比較対象」があったからこそ、サッカーの楽しさを知ることができました。

その経験から、「選択肢があること」は重要だと気づきました。アスリート採用も、アスリートにとって選択肢の一つになったらと思っています。

アスリートからキャリア相談を受けることがある嵜本さんは「意見は言いますが、『選ぶのは皆さん次第です』と伝えています」
アスリートからキャリア相談を受けることがある嵜本さんは「意見は言いますが、『選ぶのは皆さん次第です』と伝えています」

「試着」の心構えを大切に

現役そして元アスリートが「自分にはこれ(競技)しかない」と発言しているのをよく耳にしますが、その「これ」がとんでもなくすごいものだと思うんです。既に、引退後のキャリアを築くよりも難しいことを成し遂げているかもしれません。

自分に「ないモノ」ではなく、「あるモノ」に目を向けていったら、人生は変わると思います。「できない」と思い込んでいる人の多くは、まだ何もチャレンジしていないだけ。

洋服に例えると、着たことのない「豹柄」を似合わないと思っているのと同じ。着てみたら、案外似合うかもれません。その「試着」の心構えを大切にしてほしいですね。

また、今はSNSの時代です。発信した内容を批判されることもあると思います。その場合、「一意見として受け止めました」と思うだけで良いと思います。批判した人は、私の人生を保証してくれるわけではありません。受け取った情報を客観的に見る視点、俯瞰して捉える習慣を身につけてほしいですね。

自分と向き合い、自分自身で選択肢を広げていってください。
行動こそが、真実です。
自分のマインド次第で、人生は変わると思います。

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