連載
#60 夜廻り猫
「俺がこいつの足かせだ」杖をつく生活に愛犬は…夜廻り猫が描く散歩
杖をつきながらのろのろと歩みを進める男性。そのそばには、1匹の犬が寄り添っていて――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「散歩」を描きました。
コツ……コツ……コツ……犬を連れた男性が、杖をつきながら一歩ずつゆっくりと歩みを進めていきます。
「むっ、涙の匂い」
夜の街を回っていた猫の遠藤平蔵は、男性に声をかけます。「そこなおまいさん、いかがなさった?泣いておられるな 心で」
男性は「リハビリ中でさ こんなのろのろ歩きしかできなくなったら、一歩ごとにこいつが振り返って見るんだよ」と打ち明けます。
「前みたいにさっさと歩かせてやりたい 俺がこいつの足枷(かせ)だ」
そこで遠藤は、犬に向かって「お散歩はいかがですか?」と問いかけます。すると、ひとこと「フガッ」と鳴きます。
遠藤が男性に「通訳します 『とーてもたのしい』そうです」と伝えると、犬はしっぽを振って飼い主を見上げるのでした。
猫や犬が登場するマンガを描き続けている深谷さんは、2018年に永眠した黒猫のマリや、ツイッターにもしばしば登場する「すばる」など、過去に何度か猫を飼っています。
家族のような存在のコンパニオンアニマル(伴侶動物)。飼うたびに「動物は家族を好きになってくれるんだなぁ」と感動するといいます。
「『食べ物をくれる相手だからなつく』というだけではないんです。『家族が病気になると自分もフードを食べなくなる』……そんな愛情を持ってくれるんです」と話します。
「人間はそういう動物に救われ、支えられます。私はそんな犬や猫を尊敬しています」
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞、単行本7巻(講談社)が2020年12月23日に発売された。
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