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マンガ

『ちはやふる』作者が痛感した、デジタル時代の「マンガの可能性」

〝描いて終わり〟はもったいない

バーチャル背景に使えるようにと「ちはやふる基金」で公開されているイラスト
バーチャル背景に使えるようにと「ちはやふる基金」で公開されているイラスト 出典: ©末次由紀/講談社

目次

競技かるたをめぐる高校生たちの青春を描いたマンガ『ちはやふる』。ストーリーは名人・クイーン戦という最終決戦の局面を迎えています。そんななか、コロナ禍で作画をフルデジタルに移行したという作者の末次由紀さん。SNSなどのチャンネルが増えたことで読者とのつながり方も変わったといいます。かるたの大会運営を支援する「ちはやふる基金」の成立や、変化しているマンガの表現について、話を聞きました。

ちはやふる:競技かるたに情熱をかける高校生たちの青春を描いたマンガ作品。2007年から「BE・LOVE」で連載開始。主人公の綾瀬千早は高校で「競技かるた」部をつくり、高校選手権大会に出場。個人戦ではクイーンを目指す物語。既刊46巻、47巻は8月発売。「このマンガがすごい!2010」(宝島社)オンナ編第1位、2011年第35回講談社漫画賞少女部門を受賞。アニメ化された『ちはやふる』は50ヵ国以上で配信され、「競技かるた」を世界に伝える
末次由紀:漫画家。福岡県生まれ。1992年「太陽のロマンス」で第14回なかよし新人まんが賞佳作を受賞、この作品が「なかよし増刊」(講談社)に掲載されデビュー。2007年から「BE・LOVE」(講談社)で「ちはやふる」の連載を開始

Twitter Japanとwithnewsでは音声チャットSpacesリリース記念として、漫画『ちはやふる』の作者・末次由紀さんをお招きし、公開インタビューを開催しました。作品の今後やマンガの持つ力・魅力をうかがい、ハッシュタグ「#末次先生へ質問」に寄せられた読者からの質問にもお答えいただきました。

「スポーツ」に向いているマンガ

――アニメや映画化など、他メディアで展開されたマンガ『ちはやふる』。海外でも放送され、かるたブームが世界へ広がりました。その一方で、末次さんは「マンガならではの表現」はどんなところにあると思いますか?

いろいろな表現ができるマンガですが、得意分野ってあると思うんです。アニメや映画のように音楽は流れませんが、勝手に時間が流れていくような「時間の制約」はありません。これはマンガならではの特性だと思っています。

だから、スポーツを描くのにマンガ以上に向いている表現はないと思っています。サッカーでもバスケでも、ボールだけ見せて「時を止める」みたいなことをやっても許されます。
「スポーツ」に向いているマンガという表現方法
「スポーツ」に向いているマンガという表現方法 出典: ©末次由紀/講談社
――確かに、ほかのスポーツマンガでも、試合終了前の3秒を何ページもかけて描く……といった表現を取り入れていますね。

まさに時間の自由度が高くて、「この1秒を10ページで描く」ようなこともできてしまいます。
時間を操ろうという手段をとらせてくれる、そういう見せ方を許してもらえているのは、漫画ならではなんじゃないかな。

「速さ」を見せるのは難しいんですが、挑みがいのあるシーンでもあります。それを「止めた」表現で描く。
競技かるたって、実際に試合を見ていても分からないところがあります。かるたの端の一点を狙って取った瞬間なんて「今の、もう一度、コマ送りで……」と思っちゃいます(笑)。

マンガではそこを止めて見せられるので、『ちはやふる』にとても向いているなと思って描いています。
末次さんがかるたフェスに寄せたイラスト
末次さんがかるたフェスに寄せたイラスト 出典:©末次由紀/講談社
――回想シーンがあったり、読者に感情移入してほしいところを描いたり……といったこともできますね。

心の声を一緒にかぶせられるというところも利点ですね。

そのキャラクターの心理だけでなく、ほかの人の心理、または歌人の心理も……いろんなことを描きたいときに工夫次第で入れ込むことができます。そんな構成をパズルみたいにやれるのが楽しいジャンルの芸術だと思いますね。

「湿っている」デジタルのマンガ

――マンガはデジタル化によって変化してきていると感じます。末次さんも、コロナ禍でアシスタントさんが来られず、手描きのアナログからフルデジタルに移行したんですよね。

1年ぐらい前は紙に描いていたのに、がらっと変わりました。まさか私がシャーペンを握らなくなる日がくるとは……。

――表現で変わったことはありましたか?

「人間を描く」というところは変わりません。でも、印刷に出ると黒がきれいすぎて、ずっと濡れているように見えるので、違うなと思います。

アナログの印刷後は、ちょっとかすれて見えるんですね。それが普通だったので慣れていましたが、デジタルはそれよりも黒が濃く見えます。それが「湿っているな」と感じる。

しょうがないんですけど、線が変わったなという感じがしてしまいますね。読んでいる皆さんに違和感があると申し訳ないなと思っています。

フルカラーが当たり前のタテ読み

――マンガを読むデバイスも、紙からタブレット、スマホと変化しています。スマホでは「ウェブトゥーン」と呼ばれるタテ読みマンガも増えてきています。末次さんは挑戦したいと思いますか?

挑戦してみたいんですけど、描き方が分からなくって。スマホのウェブトゥーンは、カラーが基本という世界ですよね。詳しい人に聞いてみたら、白黒だと「何でこのマンガは途中なの?」って言われちゃうんだそうです。

私たちが「アニメはフルカラーが当たり前」と感じるように、ウェブトゥーンも白黒だと「これから色が塗られるんだよね」という感じなんだそうですね。白黒のマンガを読まない時代もくるかもしれません。
ちはやふる小倉山杯のキービジュアル。バーチャル背景などに活用してほしいと無料で配布されています
ちはやふる小倉山杯のキービジュアル。バーチャル背景などに活用してほしいと無料で配布されています 出典:©末次由紀/講談社
――紙のマンガは「コマの順番が分からない」という声もありますよね。

そうですね。読み方が難しいとも言われます。今後は「見開き」のマンガが当たり前ともいえなくなってくる。新しいチャンネルを目指すなら、「タテ読み」にも挑戦してみたいですね。

――とはいえ『ちはやふる』はもちろん、『鬼滅の刃』の大ヒットなど、紙のマンガもまだまだ読まれていると思います。マンガの未来を末次さんはどう感じていますか?

ウェブトゥーンを含め、新しいチャンネルがもうできてしまっているので、そっちにもたくさんチャレンジする人がいるべきだろうと思います。

見開きはコマ割りが難しくて、テクニカルなんですよね。上から下に流れるタテ読みの方が要素が減って楽なので、こちらで新しい才能ががんがん花咲くようになると思いますね。

タテはタテで、新しい表現ですよね。タテだからこそできる表現が出てくると思います。

――コマとコマの間のスペースをとって、時間が経っていることを表現することもあるそうですね。

コマの間隔で間をとることもできますね。それこそ、タテに長い表現って紙だと物理的にできません。「深くもぐる表現」なんて向いていると思います。
でも、「昇る表現」はどうしようと思いますね。「タテ読みで昇らせてみたいな」とか思いますね。

漫画家と読者の新しいチャンネル

――漫画家の皆さんが音声SNSのclubhouseや、ツイッターのスペースに集まって雑談するなど、作家が新しいSNSを使ってマンガ以外で表現することも増えてきました。作家とファンの関係は変化すると思いますか?

SNSをやろうと思うと、個人でいくらでもファンとの接点が持てます。インスタグラムやクラブハウス、noteやVoicyもそうですね。それぞれ得意な角度で接点が持てる選択肢が広がり、チャンネルが増えたというのは感じますね。
「ちはやふる基金」の1年を末次さんが振り返ったnoteに描かれたイラスト
「ちはやふる基金」の1年を末次さんが振り返ったnoteに描かれたイラスト 出典:©末次由紀/講談社
――末次さんはツイッターなどのSNSのほか、noteでのマガジンも更新しています。ファンとのチャンネル増やそうと末次さんが考えたきっかけはありましたか。

競技かるたの文化を次世代にも引き継いでいきたいと、大会運営を支援する「ちはやふる基金」を始めました。

漫画を描くだけじゃなくて、違う部分の努力をしていこうと覚悟を決めたんです。『ちはやふる』の連載が終わっても、私が何をしているのかを伝えやすい場を持ちたいなと思いました。

私に唯一才能があるとすれば、「これと決めたことを飽きずにやり続ける」ところなんです。ルーティン化すると、しつこくずっとやる。そんな仕組みを作ろうと思いました。

「ファンと接点を増やす」というのも決めてしまえば頑張れます。見ている人との約束事を作った方が、自分には合っているなと思ったらからです。

増える大会参加者、運営の苦境

――基金をつくるにあたって、末次さんにはどんな危機感があったのでしょうか。

振り返ってみると、私が最初にかるたの高校選手権大会を取材したときは、個人戦の参加者が400名ぐらいだったんですよ。

それでも「たくさんの方が集まって試合するんだなぁ」と思っていたんですが、連載を10年以上やらせていただく中で、参加者はだんだんと増えていって、コロナが流行する前年には2500人にまでになりました。
ありがたいことでもありますが、運営が大変になっているという状況を知ったんです。
マンガを読んで競技かるたを始めた方もいると聞いて、「これは責任があるな」と感じました。

せっかくかるたを始めたみんなが幸せに続けられるように、大会運営に取り組むボランティアの方も励まされるような仕組みを作りたいなと思いました。

「描いて終わり」ではもったいない

――次世代に「競技かるた」の文化を引き継ぐことも大切ですね。

「若い世代に関心を向けてほしい」というのは、伝統文化の大きな悩み事でもあります。

そういう点で、競技かるたのマンガを描いて、高校選手権にたくさんの人が来てくれたというのは、若い人の注目を集めるという点では少し成功した感じがするんです。

「マンガを読んで競技かるたのことが分かるようになった」という声もいただき、マンガの力で、ひとつチャンネルを世の中につくることができました。せっかく作った大切な接点を大事にしたいと思います。

もし新しい漫画を描き始めたら、私はそっちに集中してしまう。「描いて終わり」としてしまうのはもったいないし、そこには責任があるんじゃないかとも思いました。

そんな世界を守っていきたいという思いも生まれたので、基金をつくってそれを続けていこうと思って頑張っています。

スピンオフを発表する場にも

――ちはやふる基金のグッズも人気で、この基金への反響は文化を引き継ぐ「マンガの持つ力」が現れたと感じました。先日は「ちはやふる基金」と、マンガ『宇宙兄弟』の、難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療方法をみつける研究を支援する「せりか基金」とのコラボイベントも開かれていましたよね。

マンガ『宇宙兄弟』も大好きですし、「せりか基金」は先輩基金と言いましょうか、モデルにさせていただきました。

マンガの持っている力や、キャラクターが持っている世界観や伝え方が、難しい部分を切り開くのを手助けしてくれていると思います。リアルとマンガで、相乗効果があると思っています。
――ツイッターには、「千早やその友人たちのアナザーストーリーを読みたい」というコメントも寄せられていました。たとえば、周防久志名人と、北央学園のエースだった須藤暁人さんの未来の物語なんてどうでしょうか?

周防さんと須藤さん、いいですね。私の中でも、キャラクターが一人の人間として存在していて、どんな大人になっていくのか考えています。

『ちはやふる』が終わってもそれを描けたらいいですね。

スピンオフを描いたら「ちはやふる基金」で発表していくので、皆さんにもキャラクターがずっと生きていると思っていてくれたらいいなと思います。
【インタビュー前編はこちら】『ちはやふる』作者が明かす、冒頭シーンの意味「私、1枚取るし」
※後編はあす23日配信の予定です
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