連載
#3 #コミュ力社会がしんどい
店員の声かけに「あっばっ!」コミュ障漫画家が抱いた将来への不安
「些細な会話」を続けることの大切さ
ゆめのさんにとって、お店のスタッフとの関わり方は、悩みの種の一つです。最近街中に増えつつある、セルフレジを見かけたら、対面型レジよりも優先的に使っています。
そうしたシステムがない場合でも、スタッフとの接触頻度が低いお店を選んだり、買い物に通販サイトを利用したりしてきました。
ある日、洋菓子屋を訪れたゆめのさん。スイーツがおいしいという評判を知り、足を運んだのです。「いちごのパウンドケーキください」。レジの担当スタッフに、商品を注文したときのことでした。
「このケーキ、新作なんですよ~!」
「いちごお好きですか? 新鮮ないちごを使った自信作ですよ~!」
「あっばっ!」。思わぬ反応に、ゆめのさんは妙な声を上げてしまいます。あまりのフレンドリーさに驚きつつ、急いでパウンドケーキを買い、店を後にしました。
帰宅後、ケーキの味に舌鼓を打ちつつ、ゆめのさんは先ほどの出来事を思い出します。
あっばっ、あっばっ……。頭の中で巡る、自分の声にうんざりするうち、段々と不安感が高まってきました。
「まずい! このままいくと、将来もっと酷いコミュ障になってしまう」
実はゆめのさんには、接客業のアルバイトに就いていた時期があります。お客さんや同僚はもちろん、納品業者などとも毎日話し、自然にやり取りできていました。
ところが今は、進んで誰かと言葉を交わす機会が、ほとんどありません。その分、小さなすれ違いを、必要以上に重く捉えるように。結果的に、他人との交流が一層おっくうになってしまうのです。
コミュニケーションを面倒くさがらず、些細(ささい)な会話を積み重ねることも、大切なのでは……。ゆめのさんは、自分の振る舞いを反省します。そして、こうも思うのでした。
「あの店にまた行ったら 『おいしかったです』って言おう」
「漫画家になりたいと思ったのも、人と関わらないで暮らしたかったかもしれません」。ゆめのさんは、そう語ります。
一方で日々、コミュニケーションが不得意になっている感覚を抱き、焦ってしまう場面もたびたびあるそうです。今回描いた体験談は、このことを象徴する内容でした。洋菓子店での一件については、次のように振り返ります。
「言葉が出てこず、ちょっとしたことなのに、うまく対応できませんでした。『ああ、もっといい具合の返答をしたかった』。気にし過ぎだと分かっているけれど、悶々と考えてしまいました」
その後、脳裏によみがえった、元アルバイト先での思い出。店に出入りする業者のおじさんと談笑したことが、意外と楽しかった。記憶をたどる中で、「話さずに済む」状況に対して、疑念を持つようになりました。
「セルフレジの登場などで、世の中はどんどん便利になっています。でも、その代わりに、何げない会話が減っている。その結果、コミュニケーションに慣れられず、私のように思い悩む人は多いのではないでしょうか」
だからこそ、過度なストレスにならない範囲で、色々な人と交わることが必要なのかもしれない――。ゆめのさんは、そのように考えています。
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