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“じゃない方芸人”アイデンティティ・見浦が語った「意思のなさ」
相方・田島もあきれる〝無責任〟ぶり
昨年8月、『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系)に出演し、コンビ間の不満を言い合う企画で注目を浴びたアイデンティティの田島直弥さん(37)と見浦彰彦さん(36)。「どんなに注意しても忘れてしまう」「自分の意思を持っていない」といった見浦さんのキャラは、学生時代から変わっていなかった。野沢雅子さんのものまね“じゃない方芸人”である見浦さんの仰天エピソードについて聞いた。(ライター・鈴木旭)
アイデンティティ
――昨年8月に放送された『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系)で、見浦さんの“開き直りキャラ”が露呈しましたよね。番組の収録日以降、お二人の関係に変化はありましたか?
田島:説教から心配に変わってますね。「相方にこうなってほしい」ってよりも、「本当に大丈夫かな」って。コンビ2人とも結婚してますけど、僕には子どもがいないんです。でも、見浦は嫁さんと子どもがいる。そんな状況で何にも考えてないのはね。もし仕事がなくなっても、オレは責任とれないよって感じです。
見浦:たぶん、「本当にもうダメなんだ」って事態に直面しないとわかんないんでしょうね……。実感が湧かないというか。
田島:相方がこんな感じなので、コンビの不安を何とかするのは自分だけですよね。コイツはくっついてくるだけだから(笑)。
――番組ではそんな見浦さんが面白いという感じになってましたけど、その後に業界内からの反響はなかったんですか?
田島:ここ最近の『痛快!明石家電視台』(MBS・2021年6月7日に放送)ぐらいじゃないですかね。何組かの芸人が夫婦で呼ばれた中で、見浦夫妻も出演したんです。ただ、そのほかの芸人さんはピンで出てるのに、見浦だけは僕も出ることになって(笑)。なぜか野沢さんの格好でソファ席に座って2人を見守るっていう。
見浦:そうなんだよね(笑)。一応、テーマとしては「芸人の奥さんが抱えてる不満」みたいな感じで出ました。
田島:見浦の奥さんの不満って、僕とガッツリ同じなんです。要は、見浦が考えてなさ過ぎて、何を言ってものれんに腕押し状態でディスカッションできないっていう。人に対する忠誠心はあるんだけど、「自分で考えてよ」って言われると何もできなくて微動だにしなくなっちゃう。
見浦:(苦笑しながらうつむき加減で)……思考停止状態になってしまうんですよ。
田島:相方は本能的に引っ張ってくれる人を選んでるんだと思います。前に組んでたコンビを解散させてまでオレと組もうってきたのは本能だって気がして仕方ないんですよね。
――見浦さんのキャラクターって出会った当初から変わらないんですか?
田島:僕らの通っていた東京アナウンス学院って、入学してすぐに合宿があって。そこで最初に先生から今後についての説明を受けるんです。それが「まずはコンビを組め。モタモタしてると先に組んだヤツらに後れを取るぞ」って生徒に発破をかけるような内容だった。
とはいえ、コンビを組むって大事なことじゃないですか。僕は「そうは言ってもマイペースに行こう」と思って部屋に戻ったんです。そしたら、「オレはボケやりたいんだけど、みんなはどっち?」みたいな感じで、生徒全員に聞いて回ってる集団がいて。面白いと思われたかったのか、みんなメモ帳を持ちながらパンイチ姿のほぼ全裸状態(笑)。その集団の先頭を切ってたのが見浦だったんです。
見浦:本当に「ヤバい、ヤバい」と思って(笑)。本当は地元・広島の友だちと組んでやりたかったんですけど、周りに誰もいなかったんですよ。だから、学校に行くにあたって「本当に組めるのかな」って不安もあって。いざ学校に行ったら1クラスしかないし、もうコンビを組んで入ってきてる人たちもいる。「残りのメンバーから探さないと」って焦って、合宿初日に1人ずつ聞いて回ったんですよね。
田島:「こんなに自分を持ってない連中がいるんだ」って驚きました。しかも、見浦はその中のリーダー格。「コイツとは組まない」って本気で思ってましたね。
――コンビ名の「アイデンティティ」って、見浦さんが一番求めてるものかもしれないですね(笑)。
田島:どこにアイデンティティがあるのかわかんない(笑)。どんどんなくなってるんじゃないかって。
見浦:アイデンティティって単語自体は知ってましたけど、最初は意味もよくわかってなかったですからね。後日、名前の意味を知ってめちゃくちゃ後悔したというか。
田島:2年生の頃にコンビを組んで間もなく、講師の先生から「今日のネタ見せまでにコンビ名を決めろ」って言われたんです。それでいくつか候補を出したんですけど、悩んでるうちにネタ見せの時間がきちゃって。先生から「田島と見浦、決まったか?」と聞かれて何か言わなきゃって考えてたら、突然見浦が「アイデンティティで!」って。もうビックリしましたよ、ボツになったコンビ名言うから(笑)。
見浦:候補の中から消してたヤツだったんですよ(笑)。なぜかパッと出ちゃったのがアイデンティティで。結局、そのままコンビ名として定着しちゃったんです。
――見浦さんは、田島さんのものまねキャラが脚光を浴びていく過程をどんなふうに見守っていたんですか?
見浦:野沢雅子さんの容姿で悟空をやるってインパクトもありますし、世間とか周りからの評価もすごかったですからね。2017年の「R-1ぐらんぷり」にしても、「おー、これ行くんじゃない!?」ってワクワクして見てました。そんな中で、相方とか周りから「お前は大丈夫か?」って心配されたんですけど、僕って本当に何も考えてないんですよ(苦笑)。
田島:シンプルに「今は田島についていけばいい」と思ってるみたいで(笑)、僕のほうが不安を感じてます。今みたいな仕事がなくなった時に次の一手をどうしようって。常に僕は不安なんですよね、「絶対にこのまま調子がいいわけじゃない」と思ってますから。
見浦って、子どもの時から自分の意見を人にぶつけたことがないらしくて。見浦の奥さんも姉さん女房というか、強いタイプなんですよ。プロポーズも嫁さんからだし、たぶんそれがなかったら結婚もしてないと思いますよ。
見浦:今思えば、高校生の時に空手部を3年やったのもおかしな話で。一応小学校2年生から6年生まで道場に通ってたんですけど、練習が嫌だったのもあって中学生の時は一切やってない。なぜ入ろうとしたかというと、小学校時代に一緒に空手をやっていた友だちが誘ってきたからなんです。
「体験入部だけでもきなよ」と言われて仕方なく行ったんですけど、練習がめちゃめちゃハードで。後で知ったんですけど、その空手部がインターハイの常連校だったんですよね。「あー、無理むり。こんなのできるわけない」と思って翌日普通に帰ろうとしたら、先輩の主将が僕を見つけるなり、「おい見浦、帰るんか!?」って呼び止めたんです。そこから結局3年間通うことになったんですよね。
――感情の導線が途切れてるというか……。もはや、「意思を消す能力」と言ってもいいぐらいのエピソードですね。
田島:その代わりに自分の意思で何かを続けたことがほぼないんですよ。お笑いを始めたのが唯一じゃないですかね。
見浦:そこは自分でも不思議というか……。よく1人で広島から上京したなって。
田島:東京でお笑いやるってまぁまぁな決断じゃないですか。よくこんな人間が踏み切ったなって思いますね。
見浦:本当は友だちと上京したかったんですけど、周りを誘っても「無理むり」って感じだったんですよ。普通に考えたら、やっぱり夢の中の話ですからね。
田島:見浦がこんな感じだから、一家全員が薄っぺらいのかなって思ってたんですけど、ご両親とお姉さんはすごく熱心な(広島東洋)カープのファンみたいで。見浦家で唯一、相方だけは興味がなかったらしいんですよ。
見浦:親父がすごい野球好きだったから、最初は強制的にやらされたんです。でも、どうしても嫌で早いうちにやめちゃいましたね。お笑いに行ったのは、本当にバラエティーがすごく好きで。それこそ『爆笑オンエアバトル』(NHK総合)も中学校の頃から見ていて、「こういう世界に行きたいな」ってだけで上京したんです。
――バラエティーにだけは強い感情が湧いたと。田島さんがコンビを解散しないのは、どこかでそんな見浦さんに期待してるってことですよね?
田島:やっぱり1人でやるよりは心強いですからね。何だかんだでツッコミが必要ですし。そこは普通にこなせるタイプというか、プレーヤーとして不器用ではないんです。それだけに、どっかで期待しちゃうのかもしれない。
野沢雅子さんをやってた芸人が、またぜんぜん別のキャラをやるのってしんどいじゃないですか。だから、今はまったくイメージのついてない相方が次のトリガーになってくれると僕としても助かるんです。ただ、この感じだとやっぱりこっちがどうにかしないとなって(笑)。もしくは僕が見浦の何かを考えるとか。いずれにしろ、今後も大変でしょうが頑張りたいと思います。
アイデンティティの意味を調べてみると、「同一性の確立の拠り所となる要素のこと」とある。奇しくも見浦さんは、元来これを持ち合わせていなかった。しかも、当人が名付け親なのだから妙におかしい。ある意味でよくできたコンビ名だと思う。
10年以上前から“じゃない方芸人” というキャッチフレーズはあるが、それは目立つ相方に対する何らかの感情を含めて番組企画が成立し、世間に浸透していったものだ。見浦さんにはそれがない。恐らく、“じゃない方”という概念さえピンとこないのではないかと思う。
だからこそ異様で、ますます魅力的に感じてしまうから不思議だ。今後、そんな見浦さんが世間に見つかり、爆笑を巻き起こす芸人になっていることを心から期待している。
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