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ゴールキーパーは「競えないポジション」代表の一枠、高め合う醍醐味
日本代表の権田修一、シュミット・ダニエルが対談
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日本代表の権田修一、シュミット・ダニエルが対談
シュミット
「僕はプロになって2年目。熊本にいって、J2で試合にではじめてから。それまでは海外にいきたいとか、そんな余裕もなかった。自分がプロで試合に出れるか、出られないか、というのをまずはそこだけを考えた」
「試合に出るようになったくらいから、モチベーションを上げるために、海外のキーパーのプレーを見るようになって。いいプレーを見続けて、試合に入っていく、というのをやっているうちに、なんか、自分もいけるんじゃないか、と。やっぱりチャレンジすることってすごい楽しいことだとおもう。行けるところまでいってみたい、と思うようになりました」
権田
「僕は節目、節目で。中学生のとき、ナイキカップで世界大会に出たときに、いろんな国の優勝チームと試合をして、どこのキーパーもすごくて。ローマの下部組織のGKはアントニオーリに似ていたり、シンプルにかっこいいな、って。僕は昔からブッフォンが好きだったんで、俺もユベントスに入ればブッフォンみたいなプレーヤーになれるのかなって思って、そのころから、いつか海外でやってみたい、という思いはありました」
シュミット
「どうなんですかね……。それがわかっていないから、ベルギーでたぶん、俺、苦戦しているんですよね。難しいな。どうですか、ゴンちゃん」
権田
「ヨーロッパに行って、日本に戻って、というのを繰り返している俺がシンプルに思うのは、スペイン、英、独、伊の4大リーグはだいたい80チーム。世界のトップ80人のキーパーがそこでプレーしていると思うんです」
「僕の場合は、オーストリアで1年、いいプレーもできて、その先、ヨーロッパで未来が開けていくだろうと思ったんですけど、なにもなかった。そこで、需要がなかった。僕という存在をほしがるチームがなかったので、戻ってくることになった」
「外国人枠や労働ビザという問題はあるにせよ、本当に良い選手だったら、そこの枠をあけて、日本人だろうが、何人だろうが、ほしがるとおもう。そう考えたときに、自分が世界のトップ80に入ることができないと、そこにはいけない。チャンピオンズリーグにいくなら、世界のトップ4のキーパーが立つ舞台。そこは、シンプルに高みを目指してやっていくしかないのかな」
シュミット
「そうですね。良いキーパーであることが最低条件。そうならない限りはほしがられない」
権田
「シントトロイデンが開幕から20試合無失点で、ダンが毎試合8本ずつシュート止めてたら、すぐにオファーがくる。ヨーロッパって、そういうところ。弱肉強食じゃないけれど、いいGKはどんどん上にいく」
「日本人だから難しい、とか、年齢が、とか。俺もいろんな言い訳はできるけど、ヨーロッパで需要がなかったから日本に戻ってくることになったというのは理解している。俺の場合はもう、プライドもあんまりない。今、自分がいるところで頑張るしかないと思うから」
「逆にダン(シュミット)は、俺よりも世界の4大リーグの近い場所にいる。そこは頑張ってほしいと心から思う。開幕から15試合無失点で、冬にマンチェスターユナイテッドにデヘアとトレードでいくのが俺の希望です」
シュミット
「それは実現したら、おもしろいな。でもたしかに、そういうのはありえる世界。やらないとな、とは思っている」
シュミット
「経験したことがないくらい、大きな責任が伴うと思う。そこへの覚悟、耐えうる気持ちの強さ、日本のサッカーファンのみんなの期待を背負っている気持ちもくんで、フィールドのうえで表現しなければいけない。日本のゴールマウスを守るためには、それを達成する強い気持ち、重圧に勝つのが大事だと思っています」
権田
「(川島)永嗣さんは最終予選を経験したことはあるけど、僕もダンもピッチに立ったことはない。僕自身は、ダンや永嗣さんのようにヨーロッパでプレーしている選手を常に追いかける存在であり続けなければいけない」
権田
「どうですかね。でも、競えないポジションなんですよ。キーパーって。なにかをしたから出られる、というポジションじゃない」
「たとえば、ゲーム形式の練習で得点王が出られます、とか失点が少なかったほうが出られます、とか、そういうものではない。僕は普通にダンにもっとこうしたほうがいいんじゃない?って話はするし、逆にダンにも聞く。お互いで高めあえる関係性なのかな」
シュミット
「僕も同じ。代表のGKはそういう刺激を与え合える関係であるべきだと思う。どっちかが試合に出たら、それをサポートする側に回るのもチームスポーツである以上、大事。俺は、純粋にそういう気持ちになる。ライバル視という気持ちよりも、常になにかを学ぶ。学びを与えてくれる人、そういう認識です」
権田
「僕は、ダンが出ているときは本気で、良いプレーをしてほしい。自分はそれを超えないといけない、とさらに頑張れるから」
「足の引っ張り合いをする競争も世の中ではたぶん、あると思う。でも、それは自分にとって、結果マイナスになると思うので。ダンがいいプレーをしたら、自分もいいプレーができるように。その緊張感を常に持ち続けています」
シュミット 「今、ヨーロッパでプレーさせてもらっている。さらに上のリーグで結果を出せるように、日本人選手として少しでも上のリーグでプレーできれば、日本のGKの価値をあげられると思う。そこを目指したい」
権田
「僕は今、Jリーグで日本のたくさんの方に見てもらっているので、自分のプレーをしっかりと表現して。ゴールキーパーがかっこいいと思ってもらえるような存在であり続ける。それも一つ、普及には大事。僕は今、その部分を全力でやる」
「日本でプレーしていても、僕自身はチャンピオンズリーグとか、常に目指している。子どもたちにも言えると思うけど、目標は常に高くもってやることが大事。僕がその見本になれるように、頑張っていこうと思います。今日はありがとう、ダン!」
一枠を目指して高め合う――取材を終えて
「ゴールキーパーって、競えないポジションなんですよ」。権田選手の一言に、ハッとさせられた。
たった1試合で評価が変わるポジションではない。試合に出られないGKは控えとなっても、それを受け入れ、準備を続ける。
足を引っ張り合っても、自分にとってマイナスでしかない――。権田選手はきっぱりいった。
仕事でもそうだ。新人記者だったとき、同期や他社と比べられるのが嫌だった。誰かと比べて褒められても、自分が成長している気がしなかったからだ。ライバルを認め、お互いが高め合う。シンプルだけど、自分が働くうえでも、今も大事にしている考え方だ。
川口と楢崎、ドイツのカーンとレーマン……。W杯での実力者同士のポジションを巡る物語は、今も記憶に残る。共通するのは、試合に出られなかった選手のふるまい。その姿がリスペクトできるからこそ、人々の共感を呼ぶのだと思う。
次のW杯、たった一枠しかない代表のゴールマウスは誰がになうのか。対談した2人を中心に、「高め合う」ポジションになることが、GK人気にもつながると感じている。
【対談の前編】日本のゴールキーパー、世界との差は? 代表の守護神が本音で語る
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