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連載

#7 Key Issue

推し活の今、僕たちが時間とお金を注ぐ理由 オンライン化の功罪

好きでも応援でもない…アイドルとファン

AKB総選挙の開場前、武道館の前で盛り上がるファン=2011年6月9日、東京都千代田区、金子淳撮影
AKB総選挙の開場前、武道館の前で盛り上がるファン=2011年6月9日、東京都千代田区、金子淳撮影 出典: 朝日新聞

目次

推しという言葉自体を広めたのが「AKB48」です。かつて注目された曲のランキングではなく、グループ内の個人の順位をファンがおしあげる。時代が移り変わる中で、ファンは何のために自分の時間をお金を推しにつぎ込んできたのでしょうか。「推しに会うため新聞社に入社した」「推しから記者として足りないものを教えてもらった」。朝日新聞きってのアイドルオタクである2人が語り合いました。

 

〈Key Issue(キーイシュー)〉アニメからアイドルまで、今では一つの市場として無視できなくなったのが「推し」の世界です。「オタク」と言われた時代から様変わりした現代において、生きづらさを抱える人たちを癒す役割も担っています。価値観の多様化やSNSによるコミュニケーションは「推し」をどのような姿に変えようとしているのでしょうか。「Z世代」「メディア」「子育て」「健康」など記者の専門テーマから切り込みます。

 

生活文化部長の桝井政則さん

松田聖子さんと同期の河合奈保子さんに小学校6年の時、一目ぼれをして、それからいろんな方を推し続けて40数年になります。

「モーニング娘。」の安倍なつみさんを推し、「AKB48」では大島優子さん推し。大島さんが卒業された後は、同じ「AKB48」の大西桃香さんを推しています。基本的にはずっと「単推し(アイドルグループの中で一人のメンバーだけに絞る)」です。

 

コンテンツ編成本部次長の阪本輝昭さん

2010年5月ごろまでは、まったくアイドルに興味がありませんでした。2009年ごろ、桝井さんが地方総局デスクの時、自席のまわりに大島優子さんののぼりを飾っていて「理解できない世界」と思っていたんです。ところが、翌年に発表された「AKB48」の「ポニーテールとシュシュ」の前後くらいから「いいですねえ」と思いはじめました。

その年の秋に、「AKB48」の姉妹グループが勤務している大阪にもできて。「NMB48」の発足のタイミングで連載を担当するようになり、今に至ります。仕事とオタ活を相互に補完しながら、読者やファンと過ごしてきました。

「推す」の発祥と発展

<推しの歴史はアイドルの歴史に重なります。「AKB48」以前と以降で何が変わったのか。推しという言葉の誕生から話は始まりました>
 

 

生活文化部長の桝井政則さん

「推す」っていう言葉そのものは「AKB48」の結成前、2000年のはじめのころからありました。「ハロプロ(ハロー!プロジェクト)」、「モーニング娘。」のファン周辺で使われていた記憶があります。

でも、決定的に世の中に浸透したのは「AKB48」グループの総選挙です。第3回目くらいから、ワイドショーが大々的に取り上げるようになり、推す行為が可視化されたと思います。

推すという言葉は、アイドルの応援の変化と結びついています。「AKB48」以前のファンの活動は、その時に発売されている曲をヒットさせることだった。私は、河合奈保子さんのファンクラブに入っていましたが、10円玉がファンクラブから封書で送られてきて、その10円玉を使って公衆電話から有線のリクエストをしていました。

「AKB48」グループの総選挙は、曲ではなくてアイドル個人のランキングを上げることが、ファンのミッションになりました。曲ではなくて個人の名前と応援するという行為が密接にリンクして、その距離感に変化が起きました。

総選挙で投票するためにCDを買うので、売り上げは伸びますが、曲をヒットさせるために買うんじゃなくて、推している子のランキングを上げるために買っている。曲ってほとんど意識していない。より近い、個人に接触するような、直接的行為が推しという言葉とぴったりはまったのかなと思っています。

悩みや迷いと一緒にファンも成長

<今、アイドルたちはSNSによって直接発信するようになりました。推しの言葉をファンはどのように受け止めているのか。SNSが推しに与えた影響とは?>
 

 

生活文化部長の桝井政則さん

ある程度、事務所のコントロールがあるとはいえ、SNSからダイレクトにファンにメッセージを出せるのは大きいと思います。今、映像配信サービスの「SHOWROOM」でアイドルが自宅からファンに語りかけています。こういう投げかけは、昔はありませんでした。

SNSや配信によって、アイドルが偶像じゃなくて、生っぽい存在になっていきました。それが、ネットで生まれるアイドル像なのかなと考えています。

「AKB選抜総選挙」で優勝した指原莉乃さん(中央)と、2位の渡辺麻友さん(左)、3位の松井珠理奈さん=2017年6月17日、沖縄県の豊見城市立中央公民館
「AKB選抜総選挙」で優勝した指原莉乃さん(中央)と、2位の渡辺麻友さん(左)、3位の松井珠理奈さん=2017年6月17日、沖縄県の豊見城市立中央公民館

エネルギーにもなるアンチの存在

<推しと同時に生まれた特定のメンバーを否定するアンチという言葉があります。それは時に、推しのエネルギーにもなるようです>

 

生活文化部長の桝井政則さん

象徴的だったのが、2011年の総選挙で前田敦子さんが訴えた「私のことは嫌いでも、AKBのことは嫌いにならないでください」という言葉です。あれって不思議じゃないですか。グループと個人が切り離されているというか。それまでは考えられなかった表現です。

個人とグループの存在が切り離されて、個人が前面に出てきました。逆に「AKB48」は嫌いだけど、前田敦子さんは好きという応援すら生まれました。

それと相通じるところで、「DD」と呼ばれる「誰でも大好き」という応援の仕方もあります。以前は、特定のメンバーを応援すると決めたら、他のメンバーに浮気しちゃいけない、という倫理観のようなものがあった。1980年代のアイドルの時は、ファン同士もかなり仲が悪かったんです。

松田聖子さんのファンは、河合奈保子さんも好きとは言えない。そんなこと絶対言っちゃいけない。自分はこの子だけじゃないといけない。小泉今日子さんのファンが堀ちえみさんのライブには行けない。倫理的に許されませんでした。

ところが、「AKB48」グループはメンバーたくさんいるので、一番好きな子、二番目に好きな子、というのが必然的に出てきます。別のメンバーの名前が書かれたTシャツを着て握手会の列に並ぶこともある。そういう「DD」が広く許される、受け止められるようになりました。

ただ、私は「単推し」しかできなくて、「DD」になれない。それは80年代気質みたいなのがあると思っています。「単推しです」というと、「都市伝説だと思っていました」という反応をする人もいます。今は、「DD」が主流なのでしょう。

 

コンテンツ編成本部次長の阪本輝昭さん

2011年の総選挙の時、私は桝井さんと一緒に日本武道館にいました。前田敦子さんのあいさつを会場で聞いていたんです。自分は、まだ新米だったので聞き流していたら、前田さんが「AKBのことは嫌いにならないでください」と叫んだ瞬間、武道館の屋根がびりびり震えるような雰囲気があって、何かが前田さんに乗り移ったように感じました。すさまじい迫力でした。同時に、一瞬で場の空気を変えてしまうアイドルのすごみを感じました。

こうした大人数のグループのひとつの特徴として、(前田さんの言葉の背景にもあった)「アンチ」の存在を抜きに語れないと思っています。グループ内には「序列」のようなものがあって、自分が推しているメンバーがいつも上の位置とは限りません。メンバーどうしの競争、せめぎ合いが、「推し」と同時に「アンチ」も生んできた面があると思います。そのものずばり、「AKB48」には、「アンチ」という曲があります。歌詞には、アンチが生まれてスターが育つ……とつづられています。メンバー自身もその環境にさらされている。ある意味、独特のアイドルなんだろうと思います。

「アンチ」の言動は、度を超すと活動しているメンバーさんにとって酷です。守るべき線があると思います。そうした中、アンチの存在をある種、巻き込んで、バネにして飛躍していったメンバーがいることも事実です。10年前の前田敦子さんの叫びも、「アンチ」の存在がベースにあったから、さまざまな感情がここぞという局面で昇華し、一世一代の場面になったのだと思います。
AKB総選挙会場の武道館近くにあるポスター掲示場に集まるファンたち=2011年6月9日、東京都千代田区、竹谷俊之撮影
AKB総選挙会場の武道館近くにあるポスター掲示場に集まるファンたち=2011年6月9日、東京都千代田区、竹谷俊之撮影 出典: 朝日新聞

頑張っているところ教えてあげる

<推しとはどんな活動を指すのか。たくさんのお金を使うのは何のため? 最近ではネット課金も広がっているようです>
 

 

生活文化部長の桝井政則さん

今は「SHOWROOM」をやっているアイドルがけっこういて、何人視聴しているのかが分かってしまいます。ファンとしては、その数字を延ばすために、投げ銭をして応援をします。

「生誕祭」と呼ばれる誕生日の配信には、タワーと呼ばれるアイテムが現れて 1万円単位で課金できてしまいます。東京タワーみたいな塔の数が課金の金額によって変わっていきます。何本タワーが立ったかがファンの間では語り継がれる。「あのアイドルの生誕祭にはタワー150本立った」「うちも負けてらんないな」みたいに。

以前は、イベントに合わせて駆けつける感じでしたが、今はネットの発信に対して、なにがしかのアクションを起こすというのが日常の中に組み込まれるようになっています。

月いくらぐらい使ってる? 言えるわけないじゃないですか! 家庭を持つ身として言えないくらいは使っています。総選挙も、コロナで中止になっていますけど、まったくないとも限らないわけですよ。だから、みんな積み立ててますよ。

 

コンテンツ編成本部次長の阪本輝昭さん

私は、金額的には桝井さんの10分の1、20分の1レベルです。

「NMB48」の連載を担当している関係で、誰を推しているかということは以前から公言しないようにしているのですが、一般論として、私は「推す」ということは、本人にいいところを教えてあげるっていうのが本質だと思っています。

人から自分のいいところってなかなか教えてもらえないじゃないですか。だめ出しはするのに……。推し活動の最たるところは、いいところ、頑張っているところを直接伝えられることにあります。
AKB総選挙で急きょ設けられたパブリックビューイング会場=2017年6月17日、沖縄県豊見城市、滝沢文那撮影
AKB総選挙で急きょ設けられたパブリックビューイング会場=2017年6月17日、沖縄県豊見城市、滝沢文那撮影 出典: 朝日新聞

推しに会うため会社に入りました

<もはや2人とって切っても切り離せない推し。アイドルの存在は、仕事にとどまらず、人生そのものに多大な影響を与えていました>
 

 

生活文化部長の桝井政則さん

朝日新聞社には、河合奈保子さんに会うために入りました。入社の動機が推し活動の一環だったんです。ちなみに、冒頭にあげた4人(河合奈保子さん、安倍なつみさん、大島優子さん、大西桃香さん)には、仕事として取材をさせてもらい、全員記事にしています。

推しがなかった時期が小学校5年生以前しかないんです。あらゆる思考の出発点になっています。記事の企画を考えるときも、自分の推しが楽しい企画になるか考えます。自分の推しと新聞をどうつなぐかを考えています。

 

コンテンツ編成本部次長の阪本輝昭さん

新聞記者としてのキャリアでいうと、社会部を中心に仕事をしてきました。世間の人が想像するような事件・事故なども取材する、いわゆる新聞記者の仕事をしていました。

推しがある時代と、なかった時代を考えると、物の考え方が変わりました。新聞記者は取材先から情報をもらい、協力してもらわないと仕事ができません。そう考えると、取材先から私が推してもらわないといけない。朝日新聞のこの記者は頑張っているから協力してやろうと思ってもらわないといけない。

自分の推しはどうやっているのか。推しの姿を通じて、自分の足りないものについて考えるようになりました。推しが日々努力して積み重ねているものから、自分の人間関係を作っていく上で深い気づきをもらっています。

推しができるまでは、結果主義というか、割と乾いた感じの仕事観だったんです。でも、アイドルの世界って、努力を積み重ねてもつかめないものがあったり、運に左右されたりする。そこから勇気をもらうというか、学んだり、示唆を得たり……そういう意味では日々を豊かにしてもらったなと思っています。
好きな候補者のポスターをカメラに収めるファン=2015年6月6日、福岡市博多区のJR博多駅
好きな候補者のポスターをカメラに収めるファン=2015年6月6日、福岡市博多区のJR博多駅 出典: 朝日新聞

家族旅行中に「オンラインお話し会」

<エンタメ業界に深刻な影響を与えたコロナは推しも揺さぶりました。会えなくなった推しとファンはどのように過ごしているのでしょうか>

 

生活文化部長の桝井政則さん

リアルにその空間を共有するのが好きなのに、空間を共有することが難しくなって、本当につらくなりました。「SHOWROOM」はチェックしますし、メッセージも当然、投げますけど、手応えがないんです。

そんな中でも、「AKB48」グループが始めたスマホ画面を通してやりとりできる「オンラインお話し会」は、なかなかいいんですよ。握手会だと当然、リアルなんで、その日、その時間に会場まで行かなきゃ行けない。都合が悪いと行けないし、日程調整もあって難しい。でも、オンラインだとどこからでも参加できるんですね。機動力があって便利なんです。

去年の夏休み、家族旅行に行ったのですが、泊まっていた温泉宿で「お風呂にいってくるわ」と言って、誰も来なさそうなところで「オンラインお話し会」に参加しました。推しからは「早く家族のところへ帰りなさい」と怒られちゃいましたが(笑)。

コロナがおさまっても、リアルとは別にオンラインも定着していくんじゃないかな、と思っています。

 

コンテンツ編成本部次長の阪本輝昭さん

例えば「NMB48」の7期生は、入った時からコロナ禍でした。まだ実際の握手会を経験していないんです。先輩たちはファンとのリアルのふれあいの中で成長してきたけど、自分たちはファンの人たちと会っていない……という不安があるみたいです。

一方で、これまでの握手会を経験した先輩メンバーは、オンライン交流の利点として、これまで遠い位置にあったファンの部屋の様子など、その暮らしぶりなどが見えるようになって距離が縮まってよかったと言っています。さすがに、温泉宿からの参加というのはレアと思いますが……ともかくそのことで、近しく感じられるようになった。けっこう前向きに受け止めているようです。

私自身は、ファンとアイドルは会わずにいても、お互いを考え、思っていることで励ましを得られるというのが理想だと思っています。「AKB48」の「遠距離ポスター」という曲には「どこかで君も今頑張っているのだろう」という歌詞があります。会えなくても、きっと、頑張っているに違いない。そう思い合えるのが推しとファンの理想的な関係なんだと思います。会えない距離と時間が絆を深める面がある、と思っています。

 

生活文化部長の桝井政則さん

でも、会いたいけどね~~~。

AKB総選挙の開票結果発表前コンサートで「選挙カー」に乗って登場した渡辺麻友さん=2016年6月18日、ハードオフ・エコスタジアム新潟、佐々木洋輔撮影
AKB総選挙の開票結果発表前コンサートで「選挙カー」に乗って登場した渡辺麻友さん=2016年6月18日、ハードオフ・エコスタジアム新潟、佐々木洋輔撮影 出典: 朝日新聞

つまり、推しがいると楽しいよ

<細分化され、かつてほどの盛り上がりが見えにくくなったアイドルの世界。これからの推しはどのようになるのか。変わっていくこと、変わらないことを語り合いしました>

 

生活文化部長の桝井政則さん

推しが個人単位に細分化されてきて、アイドルという存在が社会の中で沈滞しているような、そんな感じがしています。アイドル全体を押し上げる熱みたいなのが、もう1回訪れるといいんですけど。

「NiziU」は、オーディションでメンバーを決めるという最初の仕掛けから面白く、世の中を席巻しました。でも、「AKB48」の第2回から第4回くらいまでの総選挙は「NiziU」の比じゃないくらい、今、考えても異様な盛り上がりでした。それまでアイドルに無関心だった新聞社が世の中でわき起こった熱気におされてAKB48の総選挙を取り上げざるを得なくなった。それくらいの熱がもう一度巻き起こってほしいと思っています。

 

コンテンツ編成本部次長の阪本輝昭さん

最近、元「NMB48」メンバーでタレントの三田麻央さんが「恋愛対象としてのAIロボット」が登場する小説を書かれました。ARやVRの発達を考えたときに、将来、「AIアイドル」みたいな存在が現れて、本物にとってかわることがあるのかどうか考えさせられました。

2011年の前田敦子さんの言葉をテレビのニュースでも見ましたが、あの場の迫力は画面越しでは伝わりにくいのではないかと思います。現場にいると、必ずしもそれまでの詳しい経緯や文脈を知らなくても、直感で理解できるところがあります。現場にいたからこそ感じられる空気感、震えみたいなのもあると思います。

コロナ禍は、オンラインでの人同士の交流を活発にしましたが、「オンライン疲れ」という言葉もあるように、微妙なタイムラグが生じたり、ときに空気感やニュアンスを読み取りづらいことがあったりと、逆にストレスになる場合もあります。

同じ空間にあって、お互いに制約のある「時間」をお互いに差し出す。握手会に限らず、ライブやコンサートなども私はそういう場だと思います。「あのとき、同じ場所にいたなあ」と思い返し、時間がたっても心に残り続けるものがある。

技術が進化しても、人と人との関わりが「推し・推され」の本質であるという部分は今後も変わらないと思います。

 

生活文化部長の桝井政則さん

つまり、推しがいると楽しいよということです。

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