連載
#22 「きょうも回してる?」
ゴミ箱に捨てられたカプセルトイ…思い出した「にゃんこシリーズ」
「私たちの子どもです」
カプセルトイは毎月200タイトル以上の新商品が誕生します。目まぐるしく商品の回転が早い業界は他には見たことがありません。しかも、メーカーの新商品にベンダー(カプセルトイの機械を設置する会社)が目を留めなければ、世の中に存在しない商品となってしまいます。
仮に目に留まっても発注が少なかったり、売り場でお客さんの目に留まらなければ、これまた誰にも知られずに商品は消えていきます。商品の宣伝もなかなかできないカプセルトイ業界の厳しい現実です。
さらに、自分が欲しいものが必ずしも「出る」とは限らない販売の特性上、たまに売り場のゴミ箱に商品が捨てられているケースもあります。捨てられてしまったカプセルトイを見たとき、私は作り手の想いを知っている手前、思わずそっと拾ってあげたい衝動にかられてしまいます。
高級フィギュアと違って、ただただ消費されて終わってしまう場合もあるのがカプセルトイかもしれません。
そんなカプセルトイ業界ですが、企画を考えているのは比較的、男性よりも女性が多いのが特徴です。その一人に、ターリン・インターナショナルの開発担当者、Sさんがいます。
ターリン・インターナショナルは、カプセルトイ事業を展開するメーカーです。
開発担当者のSさんは、カプセルトイに携わって18年になります。「小さいときに面白いと感じたおもちゃのギミックが、今でも頭の中にあります。その頃の楽しかったイメージを新しい形に変えて商品化してきました」「流行に左右されないような商品を作ってきたつもりです」と話します。
そんな熱意を持ったSさんでしたが、ある時、会社の数字を追い、大量の商品を作り続ける中「私、ゴミを作っているのかな…」と、カプセルトイを作ることが、しんどいと思った時期があったそうです。
しかし、小さい頃の楽しかった記憶を大事にしているSさんは、カプセルトイを作ることは止めませんでした。
そんなSさんが担当し、ヒットした商品に「にゃんこキッチンシリーズ」があります。
企画のきっかけは、シルバニアファミリーで知られるエポック社からのおままごとをカプセルトイにしたいというアイデアから始まり、そこに猫のキャラクターを追加。ギミックはSさんが小さい頃に好きだったおもちゃのイメージをいかしたそうです。
にゃんこキッチンシリーズには必ず、ひとつひとつの商品にSさんの想いがつまっています。
今回紹介するのは、にゃんこキッチンシリーズの新商品「にゃんこキッチンデラックス5」です。4月末に発売されました。
今回の全4種類のうちの「はかりセット」では、Sさんは「小さいおもちゃのはかりで可動するものが世の中になく、動くものを作りたかったので」と話してくれ、本物のはかりの機構を研究して、小さくても動くように仕上げたそうです。
はかりが動かなくても、気にするお客様は少ないのかもしれません。それでも、はかりが動くことにこだわりを持てるのは、Sさんがお客様に、はかりを少しでもリアルに再現することで喜んでもらいたいという気持ちを大切にしているからではないでしょうか。
Sさんは、にゃんこシリーズを紹介するときに、「私たちの子どもです」と紹介してくれました。たった300円のカプセルトイに対して、これほど強い思い入れがある人はなかなかいません。ものづくりが本当に好きなんだなとSさんのカプセルトイ愛を感じました。
カプセルトイの魅力に対して、Sさんは「子どもの頃に感動したことは記憶に残るので、『あれ、よかったんだよねー』と思ってもらえるものを作っていきたい」と話してくれました。
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にゃんこキッチンデラックス5ーあったかスープ編ーは、アイランドテーブルセット、コンロセット、はかりセット、おなべセットの全4種類。1回300円。
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