ネットの話題
「大広間で同人即売会とか…」 旅館のツイッターでたちまち作戦会議
中の人は「必ずやります」。初体験のコスプレにも意欲
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中の人は「必ずやります」。初体験のコスプレにも意欲
福島・いわき湯本温泉の老舗旅館が、ツイッターで探りさぐりつぶやきました。「温泉旅館で同人即売会とかどうだろう?」 すると、全国のコスプレイヤーたちから賛同と助言のコメントが殺到。一晩で200超の引用RTが集まりました。コロナ禍の苦境にありながら思いきって投稿した「中の人」も感激しています。投稿に込めた思いと反響への感想を聞きました。(北林慎也)
福島・いわき湯本温泉にある「旅館こいと」。由緒ある源泉かけ流しが自慢の、1949年創業の老舗です。
一方で、公式ツイッターのプロフィル欄はとても異色。
“コスプレ撮影大歓迎! ロードバイク乗り大歓迎! お部屋に自転車持っていける 音楽人大歓迎!”とうたい、集客の間口を広げようと工夫を凝らします。
そんな旅館こいとの公式アカウントが、ふと28日の夜につぶやきました。
すると、投稿を見た同人サークルやコスプレイヤーたちがすぐさま反応。30日未明の時点で、たちまち200超の引用RTが集まりました。
……寄せられた声の大半は、意欲的な発案への賛同や期待でした。
その他、密集の懸念を指摘する意見や、それを踏まえた解決策の提言までさまざまです。
これらの反響を受けて中の人は「たくさんの有益な情報、ありがとうございます。これからじっくり読んで(知らない単語もたくさん)構築していきます」と、本格的な検討開始を宣言。
さっそく「痛車会・もっとロケ地開拓・カメラマン付きプラン……」といった備忘メモを投稿し、さながらフォロワーを巻き込んだ企画会議の様相となっています。
何げない投稿をきっかけに、にわかに盛り上がる旅館こいとの同人即売会計画。そもそもの投稿のきっかけは何だったのか? 「中の人」こと宗像達應さんに聞きました。
いわき市出身の宗像さんは、高校卒業後に上京。作曲やバンド活動を続けていましたが、4年前に地元に戻り、家業である旅館こいとで働き始めました。
「(音楽で)花開かず、精神的に参ってふらふらしているところを呼び戻されたという感じ」だったそうです。
「人手が少なくなっていた旅館への恩返しのつもりで」宗像さんが奮闘する集客の企画は、いずれも老舗らしからぬ大胆なもの。
地域活性化プロジェクト「温泉むすめ」の萌えキャラ一色の部屋や、旅館の内外で撮影が楽しめる「コスプレイヤー応援プラン」、部屋に自転車を持ち込めるサイクリスト向けプランといった、コアなファンにアプローチする多彩な仕掛けを用意しています。
ただ、宗像さん自身は、当初から「オタク文化」に精通していたわけではありませんでした。
関心を持ったきっかけは、2年ほど前のこと。
「(旅館の建物がおしゃれなので)館内や近隣でコスプレ撮影をしてもいいですか?」という問い合わせでした。
「その方がご来館されて、いろいろとお話をうかがいつつ、様子をツイッターに投稿したところ、かなり拡散して、コスプレイヤーが頻繁に来る流れができました」
そしていつしか、「たくさんのコスプレイヤーと出会ううち、自分自身も『コスプレ』『オタク文化』に興味津々となり、好きになりました」。
一方で、いまだ出口が見えないコロナ禍の影響で、同様の催しは各地で延期や中止が相次いでいます。
5月の大型連休中に開催予定だった国内最大規模の同人誌即売会「コミックマーケット」も、早々に中止を決定。熱心なファンが路頭に迷う事態となっていました。
そんなファンの嘆きを、宗像さんも馴染み客らとの交流の中で耳にしました。
そこで、「行き場を失っている皆さんに使っていただけないかな? という思いつき」と「小・中規模で密を避け、楽しめるのではないか」という発案から、「温泉旅館で同人即売会とかどうだろう?」と投稿したそうです。
それはまた、自身と旅館の世界を広げてくれたカルチャーへの、宗像さんなりの恩返しでもありました。
実際の会場に想定しているのは、建物2階の風情ある大広間。
宗像さんが子どもの頃は宴会場でしたが、東日本大震災後は業態の転換もあり宴会が無くなりました。現在では会議スペースや音楽ライブ、落語の寄席などに用いられています。
音響設備もそろっていて、机やイスもたくさんあり、同人即売会はけっして夢物語ではないとのことです。
コロナ禍で苦境にあえぐ観光業界。
旅館こいともまた、これまでに数カ月単位の休業を余儀なくされるなど厳しい経営が続いています。
そして福島県浜通りは、震災復興もまだまだ途上です。
そんな中で寄せられた全国からの温かい反響に、宗像さん自身も励まされました。
「てんで素人なのでどういった反応があるか不安ではありましたが、皆さんから好意なコメントをいただいたり、応援してくれたり、盲点だった有益な情報を提供してくれる方もいらっしゃったりと、感謝感激です」
この大型連休の間も、旅館こいとは入念に感染対策をしながら営業を続けています。
最後に、いわき湯本と周辺エリアのアピールポイントを宗像さんに聞きました。
「海も山も近くて、冬は暖かく夏は涼しい。関東圏からも行き来しやすい温泉地」。そして、「大きい水族館(アクアマリンふくしま)もあり、おいしい海鮮もあり、とても広くてサイクリングにもぴったりです」
そんないわき湯本の新たな名物になるかもしれない? 旅館こいとプロデュースの同人即売会構想。
宗像さんは「必ずやります。その時には、(未経験ですが)自分もコスプレで参加するかもしれません」と、アグレッシブな決意をあらたにしています。
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