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連載

#22 金曜日の永田町

「謝罪もされずに逆切れ…」官邸での「菅派」会合が問う公私の区別

デジタル法案でも不安な政府の公正・公平性

首相官邸で記者の質問に答える菅義偉首相=2021年4月1日午後7時15分、上田幸一撮影
首相官邸で記者の質問に答える菅義偉首相=2021年4月1日午後7時15分、上田幸一撮影 出典: 朝日新聞

目次

【金曜日の永田町(No.21) 2021.04.04】
菅義偉首相肝いりの「デジタル庁」創設や個人情報保護ルールの見直しを盛り込んだ「デジタル改革関連法案」が4月2日の衆院内閣委員会で可決されました。個人情報保護の課題など28項目の付帯決議がつきましたが、「監視社会」などの副作用に歯止めをかけるためには——。朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

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#金曜日の永田町
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官邸での「派閥」会合

木曜日の国会周辺では、自民党の各派閥が昼食時にあわせて、定例の会合(例会)が開かれます。派閥幹部のあいさつから、首相との距離感や、政権が置かれている状況、今後の政局の行方などが浮かび上がることがあります。

4月1日の木曜日も、派閥事務所や自民党本部、議員会館の会議室などで開かれました。そうしたなか、思わぬ形で政権中枢の体質をさらけ出す会合がありました。坂井学官房副長官が菅さんに近い自民党の当選4回以下の無派閥有志でつくる「ガネーシャの会」の議員を集めて首相官邸内で開いた会合です。「ガネーシャの会」は昨年の自民党総裁選で菅さんの立候補を求めるなど、事実上の「菅派」と言われています。

13人もの国会議員が参加して、官邸で白昼堂々と行われていた会合の存在は瞬く間に広がりました。

「今まで官邸でやったなんていう話、私の政治生活で聞いたことがない」

自民党総務会長の佐藤勉さんは翌2日の記者会見で「猛省を促したい」と批判。公明党幹事長の石井啓一さんも「役所内において政務の会合を行うことは控えるべきだ」と苦言を呈し、官房長官を経験した立憲民主党代表の枝野幸男さんは「責任をとって辞任するのが当然」と迫りました。政府の仕事である「公務」と、政治活動である「政務」の線引きについて、使用する場所やスタッフ、お金などの区別を意識しているからです。

こうした与野党からの批判を受け、官房長官の加藤勝信さんも記者会見で「官邸は公の場所で、使うにあたって配慮する必要がある」と指摘。坂井さんに注意したことを明らかにしました。

会合が開かれた4月1日は、新型コロナウイルスの感染再拡大(リバウンド)が進み、政府が大阪府、兵庫県、宮城県に対し、緊急事態宣言に準じた「まん延防止等重点措置」を初めて適用することを決めた日でした。

4月2日の衆院内閣委員会では、坂井さんが記者との質疑のなかで「何が問題なのか」と発言したことが取り上げられました。

「(総務省などの)接待問題も含めて、『国会議員や官僚は宣言中であっても、銀座で豪遊、接待パラダイス。他方で一般国民は時短・自粛』と言われている。なぜ、謝罪もされずに、逆切れして『何が問題なのか』とおっしゃったのか」

立憲の柚木道義さんから問われた坂井さんは「私が『問題ではない』と言っているのではなくて、質問の趣旨が不明瞭であったため、逆に『何が問題と考えですか』と聞いた」と釈明。「議員同士の集まり、しかも特定の議員同士の集まりを官邸で開催したことについて、いろいろなご批判いただいておりますので、今後はしっかり控えたい」と述べました。ただ、柚木さんから求められた謝罪はしませんでした。

衆院内閣委で立憲民主党の柚木道義氏の質問に答弁する坂井学官房副長官=2021年4月2日午前10時35分、恵原弘太郎撮影
衆院内閣委で立憲民主党の柚木道義氏の質問に答弁する坂井学官房副長官=2021年4月2日午前10時35分、恵原弘太郎撮影 出典: 朝日新聞

緩い公私の区別

坂井さんによると、この会合は、メンバーから、官邸でやってみたいとの意見もあって開催されたと説明しました。

この説明で思い出すのが、安倍政権時代に参加者がふくれあがった「桜を見る会」です。税金を使った行事にもかかわらず、安倍晋三前首相の地元後援会のメンバーなどが大量に招かれていました。前夜祭の費用を安倍前首相側が補塡していた問題で、政治資金収支報告書への不記載が立件されましたが、「桜を見る会」の招待者増加にも「税金を使った買収」という指摘が国会でも出ました。内閣人事局の創設などによって、官邸主導の政治の仕組みにする一方で、公私の区別が緩いままでは、政府の公正性・公平性を保つことはできません。

このことは、現在、国会で審議されている「デジタル改革関連法案」でも重要な論点になっています。3月31日の衆院内閣委員会では、内閣情報調査室(内調)の情報収集活動のあり方が問われました。

内調をめぐっては、安倍政権時代に首相の政治的なライバルの発言を集めたり、自民党総裁として首相が演説に盛り込む「ご当地ネタ」を集めたりするなど、「全体の奉仕者」という憲法15条が定める公務員の性格を逸脱するような活動が発覚しています。そうした活動とデジタル技術が結びつくと、監視社会につながりかねないからです。

「国会議員や各府省の幹部官僚の行動について、例えば携帯電話の通話を盗聴というか何らかの形で聞いたり、あるいはメールや位置情報の情報収集を、委託も含めて、政府がやっているということはありませんね」

立憲の後藤祐一さんに問われた菅さんは「政府において、情報収集しているのは、法令にのっとって適法のやつについては適切に情報収集していますけども、それを超えるようなことは一切やっていません」と答弁。含みを持たせるような答弁が続き、後藤さんが「やっているんですか。やめてくださいよ」と言って何度か確認しました。

最終的に、菅さんは「与野党の方のメールとか通信というのは、これは大変なことになるんじゃないですか。そういうことをやったら、法令に基づかないことは一切やってないっちゅうことです」と述べました。ただ、疑念が払拭しきれなかったため、後藤さんは、内閣情報調査室で個人情報保護法に沿って情報が取り扱われているかについても確認をしました。

「内調から私への説明に含まれる個人情報は内調が収集した情報、また、他の行政機関が収集した個人情報が含まれる場合に行政機関の保有する個人情報保護法第8条に基づいて提供されたそうした情報に関係省庁の分析した情報集約をしており、いずれにしろ行政機関個人情報保護法など関係法令にのっとって適正に行われていると承知しています」

菅さんはこのように答弁しましたが、後藤さんは「8条に基づけば、『利用目的外利用』の場合、他の機関に提供する場合は、全部ホームページに出ているが、内調はその中に出てこない」と追及。答弁に立った内閣情報調査室の次長は「関係省庁がどのような法的根拠で内閣情報調査室に情報提供しているかについては内閣情報調査室としては最終的にお答えする立場にはない」「本日お答えすることは差し控えたい」と明らかにしませんでした。

主催した「桜を見る会」であいさつする安倍晋三首相(中央)=2019年4月13日、東京都新宿区の新宿御苑(代表撮影)
主催した「桜を見る会」であいさつする安倍晋三首相(中央)=2019年4月13日、東京都新宿区の新宿御苑(代表撮影)

「形だけ」の民主主義にしないため

政府は今回の法改正によって、公的機関に対しても、個人情報保護委員会の監視機能を高めると説明しています。ただ、個人情報保護委員会は約150人の体制で、LINE問題でも対応が後手に回っていると国会で指摘が続いています。法改正後に体制を拡充するといいますが、業務の範囲も全国1700以上の地方自治体も含まれるので、どこまで手が回るのかは不透明です。

NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の理事長で、自治体の個人情報保護審査会の委員などを務めている三木由希子さんは、インタビューのなかでこう指摘しました。

「この間の政府の議論で欠落しているのは、公安警察などに対するチェックのあり方です。『監視社会』を懸念する人たちが心配しているところですが、犯罪捜査や外交安全保障に関する個人情報ファイルは個人情報委員会に通知しなくていい仕組みになっています。どのような個人情報を扱っているのかがそもそもわからないので、監視のしようがないのではないでしょうか」

【関連リンク】デジタル法案が変える個人情報 利便性と監視社会の表裏:朝日新聞デジタル

計63本も束ねて審議された法案は、4月2日の衆院内閣委員会で可決されました。

「デジタル庁設置法案には賛成、個人情報保護法改正などには反対」という対応をした立憲民主党が、自民党と協議してまとめた付帯決議には、28項目が並んでいます。

これらの内容を含んだ付帯決議は、政府に対応を求めると同時に、これから審議を行う参院に引き継がれる宿題でもあります。

内閣情報調査室を舞台にし、日本アカデミー賞を受賞した映画『新聞記者』では、情報のコントロールをはかる内閣情報調査室の幹部が「この国の民主主義は形だけでいいんだ」と語る場面がありました。この国の民主主義を形だけにしないために、参院審議でも徹底的に議論をしていく必要があると考えています。

 

朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

《今週の永田町》
4月5日(月)菅首相が出席した参院決算委員会の質疑
4月6日(火)デジタル改革関連法案を衆院本会議で可決(予定)

     ◇

南彰(みなみ・あきら)1979年生まれ。2002年、朝日新聞社に入社。仙台、千葉総局などを経て、08年から東京政治部・大阪社会部で政治取材を担当している。18年9月から20年9月まで全国の新聞・通信社の労働組合でつくる新聞労連の委員長を務めた。現在、政治部に復帰し、国会担当キャップを務める。著書に『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったのか』『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)、共著に『安倍政治100のファクトチェック』『ルポ橋下徹』『権力の「背信」「森友・加計学園問題」スクープの現場』など。

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