ネットの話題
「飲むキムワイプ完成」公式のツイートに歓喜「のどごしザラザラ」
「公式」の素敵すぎる悪ノリ
毛羽立ちにくく、実験用具の拭き取りなどに使われる紙製品「キムワイプ」。理系の学生や研究職員を中心に、根強い人気を誇っています。その製造元企業が、4月1日に投稿した「報告ツイート」が、大いに話題をさらいました。ファン心理を熟知し、見事くすぐることに成功した企画について、背景事情を取材しました。(withnews編集部・神戸郁人)
製造元の日本製紙クレシア(東京都千代田区)によると、キムワイプは、工場や医療機関で使われる「産業用ワイパー」の一種です。米国企業が開発し、日本では1969年に製造・販売が始まり、現在に至ります。
その商品について、同社の公式ツイッターアカウントが1日、こう投稿しました。「『飲むキムワイプ』の開発に成功しました!」
文面では、次のような調子で、商品について説明しています。「キムワイプから抽出した、キムワイプエキスをふんだんに使った」「本日限定の販売となります」
添付の画像には、1リットル入り牛乳パックの写真が。主力商品「S-1000」の箱にあしらわれている緑色のラインや、「キムワイプ」の文字が表面に見えます。
それだけではありません。「のどごしザラザラ!」「拭き取り能力無し!」など、何とも味わい深い言葉が、画像の中で踊っているのです。キムワイプの特徴である、ざらついた感触と、拭き取り機能を踏まえているのでしょうか。
この春、日本製紙クレシアは
— キムワイプ【公式】 (@kimwipes_crecia) March 31, 2021
キムワイプから抽出した
キムワイプエキスをふんだんに使った
『飲むキムワイプ』の開発に成功しました!
本日限定の販売となりますので
この機会にぜひお試しください!#エイプリルフール#飲むキムワイプ#キムワイプ pic.twitter.com/XehuBMWoTx
後続のツイートは、更に意外な内容でした。「飲むキムワイプ」を使ったスイーツ「キムワイプリン」のレシピを、惜しげもなく披露しているのです。
完成時のイメージ写真は、その名の通り、牛乳を固めたプリンのような見た目。てっぺんから下方に向かい、濃さが異なるグリーンの層が同心円状に広がり、キムワイプの箱を思わせる色合いです。
そして材料欄を読むと、グラニュー糖やゼラチンなどの名前が目に入り、いかにも本格的に思えます。しかし、併載されている手順書が、何だか奇妙なのです。
ボウルに注いだ液状キムワイプを、実験器具の「ピペット」でかき混ぜたり、なぜか紙のキムワイプをひとつまみ加えたり……。違和感を抱いたであろう、多くの読者を尻目に、「プリンカップに入れ冷やす」工程に触れ、説明は淡々と終わってしまいます。
「飲めるなんて、最高の進化」「どういうことだろう」。一連のツイートを見た人々からは、戸惑いと称賛のコメントが相次ぎました。「1リットルの液体をピペッティングする(混ぜる)のはつらい」など、化学の現場を知る人物の感想も届いています。
今回の投稿内容は、もちろん「うそ」です。商品化の予定もありませんが、1万以上の「いいね」を集め、リツイート回数も同等に上りました。投稿には、どういった狙いがあったのか? 日本製紙クレシアの担当者に聞きました。
キムワイプを巡っては、日々使用する中で、並々ならぬ思いを注ぐ人々が少なくありません。食べたいほど愛している、または実際に食べてしまうことを指す、「キムワイプおいしい」というネットミームまであるほどです。
同社もこうした事情を把握し、昨年のエイプリルフールには「食用キムワイプ発売」と銘打ち、商品をかたどったケーキの写真をツイートしました。冗談であるにせよ、愛用者に楽しんでもらえるものにしたい。そんな気持ちから発案したのです。
担当者は、今年の4月1日にも、ユーザー本位の企画を打つべく検討を進めました。その結果、「ファンが『飲むキムワイプ』を求めているのでは」と思い至ったといいます。
「弊社には、紙パックの製造や研究を行っているグループ会社があります。たまたまご縁をいただく機会があり、ピンときました。他社の協力を得ることで、オリジナルのキムワイプパッケージを作りたいと考えたんです」
デザインを決めると、特殊な機器を使い、本物の牛乳パックに直接プリントしました。ちなみに組み立て作業は、担当者が手ずから進めたそうです。
日本製紙クレシアは『食用キムワイプ』の生産・発売に成功したことを報告いたします。
— キムワイプ【公式】 (@kimwipes_crecia) April 1, 2020
商品説明や食用上の注意をよく読み、ご納得いただいたうえで購入をお願いします!
キムワイプ愛は、キムワイプ公式ツイートに対し【1いいね♡=1キムワイプ愛】となります。
商品レビューはリプにお願いします♪ pic.twitter.com/1F7e90nVeg
ツイートした画像にも、商品への愛着を持つ人々に響く表現を、ふんだんに盛り込みました。
商品説明にある、「のどごしザラザラ」といった言葉選びは、とりわけ象徴的です。「その方がファンがクスッとなってくれると信じた」と担当者。そして同じ画像に配した「818円(税込み)キムワイプ愛!」という一文にも、特別な感情を込めています。
「『818』は『ワイパー』、つまりキムワイプを含む、産業用ワイパーの語呂合わせです。キムワイプ愛さえあれば手に入るよ、というメッセージを表現しました。ただ、値段表記とするとわかりづらいため、『円(税込み)』に二重線を引き消しています」
加えて文章のフォントや、画像を囲む枠線のデザインを工夫し、あえて「チープさ」を演出しました。それは、キムワイプの箱を始めとした関連デザインが、手作り感あふれる素朴なものだから。商品の特性を全面に打ち出したい、という思いの結晶と言えるでしょう。
ところで「キムワイプリン」の調理手順書には、飲むキムワイプとおぼしき液体の写真が登場します。もしや原料にも、隠された秘密があるのでは?
担当者に疑問をぶつけてみると「キムワイプエキスであること以上は、申し訳ありませんが企業秘密です!」
今回の企画を通じ、キムワイプのファンはもちろん、商品を知らなかったという人も好反応を示しました。こうした状況について、担当者は次のように話しています。
「エイプリルフールをきっかけに、キムワイプのことを思って頂けるだけでもうれしいですね。想像以上の反響があったので、グループ会社と一緒に、ワクワクするような企画を検討中です」
「そして一連のツイートを見た、プリン屋さんやお菓子屋さんから、キムワイプリン商品化のオファーが来ないかな……と、ひそかに期待しています」
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