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仕事が無くなって「ホッ…」山田ルイ53世の〝特番アレルギー〟

収録中に起きた来世でも忘れない出来事

せっかくのメディア露出なのに…ドタキャンされて安堵した髭男爵・山田ルイ53世さん。その理由は……=本人提供
せっかくのメディア露出なのに…ドタキャンされて安堵した髭男爵・山田ルイ53世さん。その理由は……=本人提供

目次

2,3年前のこと。
マネージャー氏から送られてきた、
「今週○曜日に(仮)で入ってたヤツ、無くなりました」
とのメールに、ため息を吐いた筆者。
いや、我々の業界で‶仮押さえ〟のスケジュールが急遽キャンセルになるのは特段珍しいことでもない。
このとき珍しかったのは、
「はぁ~……」
と吐き出した呼気の成分、その内訳である。
落胆4の安堵が6……貴重なメディア露出を逃したにもかかわらず、筆者はホッとしていたのだ。(髭男爵・山田ルイ53世)

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とにかく単純に居心地が悪い

ちなみにこのふいになった仕事、大勢の芸能人が一堂に会し、クイズやゲームに興じるという華やかなもの。
いわゆる‶特番〟というヤツで、しがない一発屋にとっては有難いオファーである。
その点では、勿論がっかりしていたのだが、一方で、収録当日の一連の流れを想像し、
(これは、しんどそうだな……)
と気が重くなっていたのも、その華やかさゆえだった。

筆者は社交に疎い。
実際、もうかれこれ10年近くの間、
「すみません、今日はちょっと……」
とありとあらゆるお誘いを断り続け、今では人付き合いはほぼゼロ。
大袈裟ではなく、絶滅が危惧されていたひと昔前の朱鷺(トキ)よりつるむ相手がいない。
(何故、そんな風に……)
と不可解に思う方もいるだろうが、あくまで、自ら望んだこと。
お気遣いは無用である。
‶つまらない暮らし〟、‶謳歌しない生き様〟が性に合う人間もいるのだ。
そんなわけで、何の不満も後悔もないが、やはり弊害はあった。

誰とも親しくしていないので、バラエティー番組でお馴染みの、
「○○とよく飯に行くんですけどー……」
といった‶共演者の素顔を暴く〟ようなエピソードは一切披露できない。
当然、此方のプライベートを知る人間もいないので、
「ちょっと、なんでそれ言っちゃうの!?」
と筆者が慌てふためく、といった見せ場がやって来ることもない。

冒頭の‶無くなった特番〟のようなお祭り現場では、状況は更に深刻。
廊下やエレベーター、トイレにメイク室等々、そこかしこで芸能人と出くわし、四六時中‶転校初日〟のような心細さと緊張感を味わう羽目になる。
ここまでくると、もはや‶特番アレルギー〟とでも命名すべき立派な症状だが、とにかく単純に居心地が悪いのだ。


先輩方にご挨拶をと楽屋へ赴けば、そこには順番待ちの列。
「おー!見たよー、あの番組!」
「先日のロケ、有難うございましたー!」
……おそらく、仕事以外でも懇意にしているのだろう。
楽しげなやり取りが漏れ聞こえてくる。
対して、筆者の場合、
「今日は、よろしくお願いします!」
と頭を下げると、
「はい!よろしくー!」
の‶1ラリー〟であっさり終了。
自業自得なのは重々承知だが、正直みっともないし恥ずかしい。
とは言え、
「喋ることないのかな?」
「あれ?なんか肩身狭そうだな?」
などと周囲に気取られるのも癪(しゃく)なので、数時間にも及ぶ長丁場の収録を、終始ニコニコして乗り切らねばならない。
結果、帰宅するときには、口角でバーベルでも持ち上げたのかと思うほど、頬の辺りが激しい筋肉痛に襲われることになる。

講演に呼ばれることも多い髭男爵・山田ルイ53世さん。「つかみとれ未来!」という講演会で話しはじめたのは「僕達にはキラキラする義務などない」という話だった=本人提供
講演に呼ばれることも多い髭男爵・山田ルイ53世さん。「つかみとれ未来!」という講演会で話しはじめたのは「僕達にはキラキラする義務などない」という話だった=本人提供

霊能企画、まさかの‶丸投げ〟?

……とまあ、一事が万事この調子なので、仕事が‶トンだ〟と告げられたのに、
(良かったー……)
と解放感が上回ってしまったという次第。
芸歴20数年を越え今更だが、つくづくこの業界に向いていない。

10年と少し前、筆者がまだ‶旬の芸人〟と呼ばれていた頃、「前世を見通せる力を持つ」という触れ込みの女性とご一緒したことがあった。
ゴールデン帯の全国放送のテレビ番組……‶特番〟である。
最近では、この手の企画を目にする機会はめっきり減ったが、「催眠術や霊視のターゲットになる」のは、少なくとも当時の若手にとって、
(俺、ちょっと売れてきたな……)
と実感できる指標、ステータスの1つだったと思う。
「ドッキリ企画」でも同じことが言えるが、誰もが知る売れっ子、著名人の、普段とは違うあたふたとした姿にこそ視聴者は興味があるのであって、無名のもののそれには、価値などないからだ。

ワイングラスの持ちネタ「ルネッサ~ンス!」で‶旬の芸人〟と呼ばれていた頃もあった髭男爵・山田ルイ53世さん=本人提供
ワイングラスの持ちネタ「ルネッサ~ンス!」で‶旬の芸人〟と呼ばれていた頃もあった髭男爵・山田ルイ53世さん=本人提供

話を戻そう。
薄暗い部屋で、ベッドに横たわり目を瞑っていると、
「さあ、どんどん遡っていきますよ……」
と筆者を前世へと誘うべく、霊能者女史が耳元で囁きかけてくる。
どうやら、既に催眠下に置かれている……ということらしい。
(……こういうものなのか?)
と戸惑いつつも、だんだんその気になってきたのは、テレビ的に‶おいしい〟というだけでなく、小学生時分に触れた心霊写真ブームの影響。
お陰で、オカルト方面への興味や知識もそれなりにあった。
よってこのときも、
(一体、自分の身にどんな不思議なことが……)
とワクワクしていたのだ。

ところが彼女からは、
「男ですか?女ですか?」
「どこにいますか?」
「今……あなたは何をしていますか?」
といった質問が投げ掛けられるだけ。
こちらとしては、もう大喜利と変わらない。
(せめて、もうちょっと具体的に誘って!?)
と思わず覚醒してツッコみかけたが、いかんせん催眠中である。
まさかの‶丸投げ〟、全ては芸人のアドリブ任せというやり口に、
(ちょっと!!何これ!?)
とパニックに陥りそうになった。
それでも、しばらくの間は、
「うぅぅぅ……う~ん……」
などと呻き声を上げ、霊的な力の作用が訪れるまで時間を稼ごうと足掻いてみたが、
「今……あなたは何をしていますか?」
と先方は一向に段取りを進める様子もない。
……最初に痺れを切らしたのはディレクターである。
儀式の一部始終を撮影していた彼が、
「……よっ!」
とビデオカメラを持ち替えるか、担ぎ直すかしたのが、気配で分かった。
(これはマズいな……)
全く理不尽な話だが、今追い詰められているのは、間違いなく筆者。


結局、
「魚を……魚を拾っています……」
となんとか一言捻り出すと、
(俺は貧しい女性の生まれ変わりなのだ……)
と腹を括って、前世への旅を自力でやり遂げたが……あの恨みは来世でも忘れることはないだろう。
もしかすると、苦肉のコメントさえも、心霊パワーのお導きによるものだったのかもしれぬ。
いや、きっとそうなのだろうが、何分当方社交が苦手。
初対面の霊能者をとっ捕まえて真相を聞き出せるほど、人懐っこくもない。

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