お金と仕事
コロナが直撃したフリーランスの仕事「茫然自失」ライターたちの本音
「恐ろしいのはうつしてしまうリスク」
新型コロナウイルスで外出自粛が求められる中、あらゆる職業が影響を受けています。中でも、人と会うことが仕事であるフリーランスのライターや編集者は、今までの働き方を変えざるを得なくなっています。「現場に行けなくなり茫然自失となった」「怖いのはうつされるより、うつしてしまうリスク」。ライターや編集者が直面した悩みと、フリーランスの立場で考えた対応から、コロナで変わる働き方、生活の仕方について考えます。
話を聞いたのは、ライターの吉村智樹さん、編集者の矢作ちはるさん、ライターの安倍川モチ子さんの3人です。7月11日にオンラインイベント「現役ライター・編集者と考える『withコロナ時代のウェブメディアの仕事』~withnewsおはなし部~」の中で、語ってもらいました。
まず、ライターにとって大事な取材について。新型コロナウイルス前は、当たり前のように人と会って話を聞いて記事にまとめていたのが、感染防止のため直接、接触することができなくなりました。
吉村さんは「仕事の内容がすっかり変わった」と話します。
「自分のセールスポイントは現場主義と写真を撮ってくることだった。外出自粛を要請されるようになって、その二つができなくなって茫然自失とした」
一方で、それまで会話の「タイムラグ」が気になって使っていなかったZOOMでしたが、アプリの性能が上がったこともあり、少しずつ、自分なりの仕事の仕方を作り出していったそうです。
「今までやっていた仕事をZOOMで代替するのではなく、この状況でできることは何かを考え直した。これまでは現場に足を運んで、そこで見たことや聞いたことを伝えていたが、今は、人物インタビューに切り替えている。ある意味、これまでのポリシーを変えたり捨てたりしていることでもあるので、ライターにとっては、けっこう血が出る作業」
矢作さんも取材はリモートに切り替わりましたが、難しいのが「相手の表情」だといいます。
「気持ちの機微が画面越しだとわかりにくい。本当にちょっとの変化から、『ここはもう少し詳しく聞こう』『ここは触れない方がいい』という空気感を読み取っていた。非言語的な部分を感じるのが難しい」
矢作さんが気をつけているのは準備です。
「いきなり本題に入ると、表面的な部分しか聞けないと思い、事前に質問事項をメールなどで送るようにしている。気になるところがあったら前もって教えてもらうなどして、限られた時間でできることを考えている」
安倍川さんも、質問は細かい部分まで含めて事前に相手に伝えるようにしているそうです。
それでも「臨機応変に聞けなくて…」と反省することもあったといいます。
「やっぱり、対面のほうが好きですね」
フリーランスとして出先での仕事がメインだった場合、外出自粛によってどのような影響を受けるのでしょう?
「1カ月のうち20日間は取材に出ていた」という吉村さん。取材先で宿泊することも多かったそうですが「同じような生活していると感染の可能性が高くなる」と判断。「家族に感染させられないと思うと、一歩も外に出られなくなった」と振り返ります。
また、フリーランスという立場から、仕事先への影響も考えたと打ち明けます。
「誰かが感染すると、その会社やメディアがネガティブな形で注目されてしまう。正直に言うと、自分がかかるかどうかよりも、仕事先を傷つけられないという気持ちが強くあった」
「うつってしまうリスクよりも、うつしてしまうリスクが恐ろしいなと思った」というのは、矢作さんも同じです。
一方で、生活の変化は想像を超えるものだったといいます。
「いざやってみると大変で、子どもは、じっとしているわけではない。でも締め切りはやってくる」
そこで矢作さんは「思うことの3割できればいい」と割り切りました。
「午前中は子どもと遊ぶと決めた。落ち着いてきた午後か、子どもが寝静まった夜に仕事をするという変なサイクルになってしまった。けっこうしんどくて、もうろうとしながらやっていた」
それでも、外出自粛を守ったのは「自分の心の平安を保ちたかったから」。
「どこかで自分がうつってしまって、それが、例えば子どもが通う保育園で広まったらと考えてしまった」
矢作さんは、現在、自宅以外に仕事場を借りています。
「夫もリモートワークになり、オンオフの切り替えがしにくくなった。場所を変えるだけでイライラ度が減る。子どもたちを見ながら仕事ができるようになった」
働く環境の変化は、仕事の方向性にも影響を与えているようです。
吉村さんは「新しいメディアに挑戦していかないといけないと思っている」と話します。
「これまでは、グルメ取材でもお店の紹介が多かったけれど、今は、家庭料理のサイトに変わってきている。メディアがどう変化しようとしているか読まないといけない」
関西在住の吉村さんは「リモートでの取材が広まることに戦々兢々としている」と訴えます。
「東京のメディアが取材できない時、関西在住という立場をいかすことができた。これからは、地方色だけに頼るのは難しい。反対に、関西にいながら全国取材できることを強みにしていかなといけない」
そのために必要なのは「企画力」だという吉村さん。
「誰を取材して、どんな記事を書けるのか、提案することが大事。企画書の力が必要になってくる」
矢作さんが気をつけているのは「依頼された仕事に違和感がある時は、ちゃんと言葉にする」ことです。
「今はこういうのがはやっているとか、こういう切り口は難しいとか。ちょっとした違和感をちゃんと言葉にする。それができると相手も信用してくれて、そこでやっとスタート地点に立てる」
安倍川さんも、依頼してきた編集者には「こういうネタどうですか」と提案することを心がけているそうです。
「仕事をただ受けるのでなく、考えてもっていく。自分の企画がそのまま通ることもあるし、似たようなものがすでにあっても、ブラッシュアップすることもできる」
今後、ライターのようなフリーランスの仕事はどうなっていくのでしょうか?
吉村さんは「なんせ、みんな初めての経験。ライターがどう生きるべきかを知っている人は一人もいないと思う」。
「収入が下がる人もいれば上がる人もいる。上がった理由がいい場合もあるし、便乗してよくない場合もある」
吉村さん自身は、今、起きていることを「とにかく報告する」ことを心がけているそうです。
「記録に残していくことが、今後、ライターになる人のためにも必要になっていく」
矢作さんが大事にするのはライターや編集者仲間とのコミュニティーです。
「フリーランスと会社、半分ずつ属しているような、あちこちにチームみたいなものを持っているような感じが大事になっていく。案件に応じて仕事をしたいメンバーと組み合わせて取り組むスタイルが広まるのではないか」と見ています。
安倍川さんも「フリーランスとして、一人で仕事をもらってまわすのは難しいと思っていた」といいます。
「ウェブデザイナーやカメラマンのように、同業者の中でちょっと違う知り合いを増やしていく。その中でユニットを組んで、自分の得意分野をいかしていくのがいい。 自分のやりたいこともやりつつ、ユニットの仲間のお仕事を増やしていけるような、そういう流れを大事にしていきたい」
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