連載
#29 ○○の世論
検察庁法改正「ツイッターは民意?」世論調査から見えたもの
「急ぐべきではない」への圧倒的な答え
検察幹部を退く年齢に達しても、政府の判断でポストにとどまれる特例を新設する検察庁法の改正案。改正案に対する有権者の厳しいまなざしが、朝日新聞社の緊急世論調査で明らかになりました。「人事介入はありえない」という安倍首相の説明への信用度も低い結果でした。「この法改正案、なんだかおかしいぞ」と思っているのは、ツイッターなどで意見を投稿している人だけではないようです。(朝日新聞記者・植木映子)
この問題の発端は、1月31日に安倍内閣が、東京高検検事長の黒川弘務氏の定年を半年延長する閣議決定をしたことにさかのぼります。
黒川氏は今年2月に63歳で定年退職を迎えるため、従来通りなら検察トップの検事総長就任は難しい状況でした。しかし、法解釈を変えて黒川氏の定年延長を閣議決定したことで、「黒川検事総長」の道が開けたことになります。
その後に提出された検察庁法改正案。政府の判断で検察の要職にとどまれる特例規定について、野党は、「検察人事への政治介入」「黒川氏の定年延長を後付けで正当化するための改正だ」と批判しています。
安倍首相は今の国会での成立をめざし、5月8日には、与党が衆院内閣委員会で実質的な審議開始を強行しました。ツイッター上では5月9日夜以降、「#検察庁法改正案に抗議します」という投稿が相次ぎました。俳優の小泉今日子さんら多くの芸能人も反対の声を上げました。
もう一度言っておきます!#検察庁法改正案に抗議します
— 株式会社明後日 (@asatte2015) May 9, 2020
ネット上では、組織的な大量投稿も可能なため、こうしたネット世論は「民意ではない」(政府高官)との見方もあります。
では「民意」はどこにあるのか。ツイッターなどで声を上げている人にも、まったく声を上げていない人にも無作為に電話でアクセスして意見を聞く緊急世論調査を5月16、17日に行い、探ってみました。
全体として反対は64%にのぼりました。内閣支持層でも5割近くが反対で、賛成は27%。自民支持層でも、反対49%が賛成24%を大きく上回りました。
この法案に反対する人は、「政権の疑惑追及に手心を加えてくれそうな人物を検察の要職に残すのでは?」などという不安を訴えています。
安倍首相はこの点について、「恣意(しい)的な人事はしない」「検察の人事に政治的な意図を持って介入することはあり得ない」などと、繰り返し説明しています。
では、安倍首相のこの言葉は、どれほど信用されているのでしょうか。
安倍首相の「言葉」を、全体では7割近くが「信用できない」と考えています。内閣支持層でも41%、自民支持層でも48%が不信感を抱いており、いずれも「信用できる」よりも多い結果となりました。
この改正法案の成立を急ぐべきかどうか尋ねると、「急ぐべきではない」80%が「急ぐべきだ」5%を上回りました。
「検察庁法の改正案をめぐり、芸能人をはじめ多くの人がツイッターなどで発言しています。こうした発言にどの程度関心がありますか」。調査ではこんな質問もしてみました。
「関心がある」は「大いに」14%、「ある程度」39%を合わせて53%、「関心はない」は「あまり」31%、「全く」14%を合わせて45%。結果は割れました。
年代が上がるほど関心が高まる傾向がみられ、「関心がある」は30代、40代で4割超、50代は6割近く、60代以上は6割にのぼっています。
ツイッター発言への関心が高いほど、今回の法改正に批判的な傾向が強いことも分かりました。
ツイッター発言に「関心がある」層では、改正案賛成は10%(全体15%)、反対80%(同64%)。首相の言葉の信頼度については、「関心がある」層は「信用できる」11%(全体16%)、「信用できない」80%(全体68%)でした。
ツイッターなどで反対する投稿数が多いから、それが「民意」だとは言い切れません。ただ、今回の検察庁法改正案に関して言えば、相次ぐ意見の投稿と、世論調査の結果で現れた安倍政権への冷ややかなまなざしとの関係は、「ない」とは言えなさそうです。
今回の調査では、内閣支持率は33%に下がりました(前回4月調査は41%)。「民意」はどこにあるのか。安倍政権は、改正案の成立を次の国会以降に先送りしましたが、今後もしっかりウォッチしていきたいと思います。
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