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コロナウイルス、羽生結弦ファンが一番心配したこと「観戦は二の次」
年間100万円超の出費「お金の問題ではありません」
新型コロナウイルスの感染拡大で、世界保健機関(WHO)が「パンデミック」を宣言をする中、3月18日開幕予定だったフィギュアスケートの世界選手権の中止が決定した。羽生結弦(ANA)を応援するファンにもショックが広がっている。海外で開かれる大会も現地で観戦しにいく女性は「現役を続けている限りは現地で観戦したい」と、年間100万円以上をかけている。普段から健康に気をつけてきたが、開催の可否を巡りどんな心境だったのか。「観戦できるかは二の次です」。返ってきた答えは、意外なものだった。
カナダ・モントリオールで3月18日開幕予定の世界選手権について開催可否を検討するという報道に、ファンは気が気でなかった。
大会には、五輪2大会連続金メダルの羽生結弦(ANA)や平昌五輪銀メダルの宇野昌磨(トヨタ自動車)らがエントリーし、日本からも多くのファンが観戦する予定だった。
世界選手権は今シーズンで最も大きな大会で注目度も高い。選手たちも大会に合わせて調整を続けていた。
羽生は2月、韓国で行われた四大陸選手権で優勝し、ジュニア、シニアの主要国際大会を全て制し、スーパースラムを達成したばかり。
前人未到の4回転半ジャンプについても言及。「とりあえず、もうちょっとという感じですかね、自分の中では」と明かし、世界選手権に向けて練習するかを問われると、「一応、そのつもりではいます。ちょっと確証はないです。結構、立ちはだかる壁は高いので」と語っていた。(2020年2月9日朝日新聞デジタル「羽生結弦、スーパースラムに「ホッとした」一問一答」より)
欧州以外の国・地域で争うフィギュアスケートの四大陸選手権最終日は9日、韓国・ソウルで男子フリーがあり、ショートプログラム(SP)で世界最高得点を更新した羽生結弦(ANA)が187・60点の合計299…
この大会に力を入れていたのは選手だけではなかった。
神奈川在住の50代女性は羽生が金メダルを獲得した2014年ソチ五輪以来の大ファン。いわゆる「ソチ落ち」だ。羽生のスケートにストイックなところ、ジャンプだけでなく表現と演技と融合しているところが特に好きだといい、「音楽が体からあふれている」と絶賛する。
約5年前から羽生が出場する試合に遠征するようになり、観戦にかける年間費用は100万円以上。「現役を続けている間は行ける限り現地で観戦したい」。最近は観戦費用に目をつむっている。羽生選手ために働いているといっても過言ではない。
今季もグランプリ(GP)シリーズのスケートカナダ、NHK杯(札幌)、GPファイナル(イタリア)、全日本選手権(東京)、四大陸選手権(韓国)とほぼコンプリートしている。
この世界選手権も友人と一緒に観戦予定だった。15日に羽田空港から出発し、8泊10日間の旅程を組み、すでに夏前から航空券、ホテル、チケットを手配し、大会のために備えてきた。
今回は開催地が北米で、公式練習を含め1週間を超える長期滞在、投入する金額は今季で最も多かったという。チケット代も計10万円以上。「全部で45万円くらいかかりました」という。
健康にも気をつけてきた。医療事務の仕事をしていることもあり、日頃から手洗いやうがいは入念にしている。観戦は早朝の練習から始まり、試合が終わる深夜まで続くため体力がいる。普段の仕事で遅くなることもあるが、免疫力をつけるため、十分な睡眠時間を確保するなど心がけている。
ここ数週間は国内外のニュースを気にかけていた。カナダに無事入国できるのか、大会は中止にならないか、無事日本に帰ってこられるのか。米国便の欠航を懸念して予定の変更を考えている友人もいた。
在モントリオール総領事館によると、モントリオール空港において入国に際して特別な追加的措置はとられていなかった(当地10日時点)。在カナダ日本国大使館によると、カナダ政府はカナダ外からの渡航者、帰国者に対し、14日間の自己モニタリングを求めており、各州の保健局もこれにならった案内をしている。自己モニタリングについては何らかの行動制限及び日々の報告を伴うものはないが、発熱、咳、呼吸困難といった症状が生じた場合には滞在先の州もしくは都市の保健局に連絡するよう呼びかけていた。(日本時間12日8時時点)。
Link to travel health notice about the 2019 Novel Coronavirus infection (also called COVID-19 or 2019-nCoV), information for safety and security abroad, for travellers returning to Canada and related links.
今大会は複数の旅行会社が観戦ツアーを組んでいた。旅行大手JTBも5つのコースを用意した。チケットは別売りで8泊10日約40万円から。広報室は「楽しみにしている方が多く残念だがツアーを中止せざるを得ない」としている。
時間とお金そして情熱を注いで遠征に出かけるファン。やはりショックが大きすぎるのはないかと思ったが、心の内は違っていた。
「残念なのが半分、ホッとしたのが半分。一番大事なのは羽生選手が元気かどうか。私たちが観戦できるかどうかは二の次です」ときっぱり。
実は以前にも似たような状況があった。2018年、カナダ・バンクーバーで行われたGPファイナルで羽生が欠場し、申し込んでいたツアーをキャンセルした。キャンセル料は高額だったというが、「羽生選手のいない試合を観るのが辛かった」と、観戦を取りやめた。
今回、ホテルは直前までキャンセルできるようにしていた。航空券についても、全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)は感染拡大に伴い、日本発着の国際線全路線の航空券に関して変更や払い戻しにかかる手数料を無料にすると発表している。
「試合が観られない残念さはありますが、お金の問題ではありません」
開催中止が決まってからはキャンセル作業に追われた。ちなみにお金が戻ってきた場合、どう使うのか尋ねてみると、「来季の観戦に回します。羽生選手の4回転アクセルを楽しみに待つ時間が延長されたと前向き捉えています」と話した。
「この大会のために一生懸命練習してきた選手の事を考えると辛いですが、選手が健康で、思い通りの練習が出来て、その時点で納得いく演技をしてくれることが一番の願いです」
羽生は日本スケート連盟を通じ、「今シーズンの最後まで応援してくださった方々、本当にありがとうございました。来シーズンに向け、今の限界の先へと行けるよう、練習していきます」とコメントした。(朝日新聞デジタル3月12日「羽生結弦「残念でも来季に向け練習」世界フィギュア中止」より)
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