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加山雄三さん、借金・脳梗塞からの復活 健康の秘訣は「教えない!」
今年、芸能生活60周年を迎える加山雄三さんが、2月に新曲を発表しました。共演したのは森山良子さん、谷村新司さん、南こうせつさん、さだまさしさん、THE ALFEEというレジェンドたち。加山さんは過去には多額の借金を抱え、船の全焼に見舞われ、昨年は脳梗塞から復活しました。80歳を超えて新しいことに挑戦する原動力は何か? 「秘訣は教えない」と笑う大御所の胸の内に迫りました。(朝日新聞文化くらし報道部記者・坂本真子)
「加山雄三&The Rock Chippers」として「Forever with you~永遠の愛の歌~」を発表した加山さん。「The Rock Chippers」という名前は、レジェンドたちが60代、70代、そして加山さんが80代という「6、7、8」(ロクチッパー)に由来しています。
「プロデューサーが決めたから。『なんでよ? 親父バンドでもいいじゃないか?』『いや、ロックチッパーズがいい』『なんでよ?』『60代、70代、80代だから』『80代って俺のことか?』『当然だろ』って」
参加した7人は、2010年に「加山雄三とザ・ヤンチャーズ」名義で「座・ロンリーハーツ親父バンド」という曲をリリースしたときと同じメンバーです。10年ぶりの新曲は、さだまさしさんが作詞、THE ALFEEの高見沢俊彦さんが作曲しました。
「ちょうど10年ぶりですね。あるディレクターが集合をかけたんですけど、これだけの顔ぶれがそろったというのは、エキサイティングなことだと思ってね。それと、できあがった曲が非常にカインドだな、と。親切だと思うような曲でしたね。最年長の私を、かなりリスペクトというか、持ち上げてくれている。それがカインドです」
60周年の実感はないという加山さん。今回のレコーディングで、加山さんから注文したことは特になかったそうですが、歌の最後には「君といつまでも」という歌詞があり、加山さんが朗々と歌い上げます。1960年代のあの名曲へのオマージュです。
「『Forever with you』というタイトル、詞そのものが、君といつまでも、という意味なんだよ。それを詞の中に入れているというのは、永遠の愛を表現しようとしてくれたんだと思うんだよね。歌を歌う人間が心に感じていることを全て、さだが表現しているよね。そこでカインドということを感じたわけ」
CDの後半には、スタジオでレコーディング中の面々の楽しそうなやりとりが記録されています。
「なんか息が合ってるというか、一瞬にしてまとまるんだよね。不思議なことに」
実は、8人全員がそろったのは、写真撮影の日だけ。それぞれが仕事の合間に出入りしてレコーディングをし、曲を完成させました。加山さんのライブにレジェンドたちが参加するかどうかは、まだ決まっていないそうです。
加山さんは昨年11月、脳梗塞で倒れて入院し、ファンを驚かせました。幸いにも症状が軽く、後遺症などは残らなかったそうです。
現在82歳で、4月に83歳の誕生日を迎えます。健康と若さを保つ秘訣はありますか、と尋ねると――。
「秘訣は教えない」。そう言って豪快に笑いました。
「年と共に、それ相応の食べ物ってあってね。昔は肉をたくさん食べたけど、今は肉より全体のバランスを考えて。パワフルな行動をしようとしたら肉は役に立つんだよね。でも肉ばっかり食っても体には良くないっていうのはわかるじゃない? 動物性蛋白は体に必要なエネルギー源だと思うけど、バランスを取らないとね。それと、好きなことしかやらないことかな。歩くことも心がけていますよ。昨日歩かなかったわね、と言われると、じゃあ歩かなきゃ、と」
のどは今も強く、コンサート当日、本番前のリハーサルで1時間ぐらい歌っても大丈夫だそうです。
「のどを鍛えるのは風呂の中で歌うんだよ。風呂の中でも聴けるカラオケを買ってきてさ、CDをかけて、風呂の中で大声張り上げて歌う。そうすると、湿気の中で声を張り上げるのはものすごくいいことだし、声帯も筋肉だから鍛えなきゃいけないんだよね。コンサートの1週間ぐらい前からかなり張り上げるよね。前の日はおとなしくして、休ませる。筋トレもほどほどにしないと。もともと歌は好きなんだよね。だから、好きなことだけやっていればいい。歌は好きだからさ、ほんとに」
ここ10年余りの活動を振り返り、「THE King ALL STARS」というバンドを2014年に結成したことが印象深いと言います。
メンバーは、キヨサク(MONGOL800)、佐藤タイジ(シアターブルック)、名越由貴夫(Co/SS/gZ)、古市コータロー(THE COLLECTORS)、ウエノコウジ(the HIATUS)、武藤昭平(勝手にしやがれ)、タブゾンビ(SOIL&"PIMP"SESSIONS)、スチャダラパー、山本健太、高野勲……と、こちらも豪華な顔ぶれです。
「かなり年齢に差があって、最大で38歳年下かな? だから、かなり俺も年を感じざるを得ないんだけど、といっても自分ではあまり自覚がないんだけど、1つの出来事として、うれしかったね。ステージもフェスが多いんだよね。何万人も集まるようなところでやる。オーディエンスが若いんだよね。そうすると気持ちが違うんだよね。俺のコンサートのファンは、だんだん年齢が上がってくるわけだよ。しかもだんだん減ってくるわけだよ。でも、キングオールスターズのファンはどんどん増えてくるわけだよ。年齢ってものを、自分ではあまり意識しないでいたんだけど、感じざるを得ない環境だったな。だから、出来事としてはやっぱり大きいと思うんだよね」
今年4月にはアラバキロックフェスに出演する予定です。「Dedicated by KEYTALK」という形で、若手ロックバンドのKEYTALKの演奏で加山さんが歌います。
「フェスは楽しいね。音楽っていうのは共通の言葉っていうか、年代関係なく、その内容によっては若いのも、年をとっているのも相手にすることができる。関係ないじゃん。音楽は全ての共通語みたいなところがあるから、音楽を愛するということはすごくありがたいことだと思うね。好きでやっているから」
今年は、東京オリンピックの聖火ランナーとして、神奈川県内を走ることが発表されています。
「ランナーだけど、走らないでくれって言われてるの。ゆっくり歩いてくれって。オリンピックは2度目だからね。見るといってもテレビでしか見ないけど、同じ空の下でやってるっていうのを2回体験するっていうのはなかなかないよね。だからこそ60周年になるわけで」
加山さんの60年は、いいときばかりではなかったと言います。多額の借金を背負ったこともありました。2018年春には愛船の「光進丸」が全焼するという悲劇にも見舞われました。
思い通りにならないことに遭遇したとき、加山さんはどうやって乗り越えてきたのでしょうか。
「我慢強さだね。何でも、我慢することを知っていればいい。その先に何が見えるかということだよね。ここは我慢しなきゃいけないんだ、という我慢強さがあれば、事は乗り越えられる。そのきっかけになる。だけど、何でもダメだからと否定的になる必要もない。人間は否定的になると、思いが伝わっていっちゃうから、思いを伝えないようにするためには、我慢するしかないんだよね。我慢強さというものは、大事だという気がするね」
もう1つ、大事にしているのは「感謝」だそうです。
「いつも念頭の一番トップにあるのが感謝の心。報恩感謝と言ってね。恩に報いるようにしなきゃいけない。そうしていただけたんだから、って感謝する気持ちがあると、つらいことがあっても乗り越えられると思うんだよね。我慢強さと感謝の心、この2つがすごく大事で重要なことですよ」
音楽をやる上でも、感謝の思いを一番大事にしているそうです。
「ここまで長生きしてきたら、感謝しかないですね。みんなに支えられて生きているわけだから。計り知れないみんなの助けがあって、初めて自分が生きていられる。仕事もできるし、安全も確保できる。周りのみんなによって支えられているという気持ちが大きくなると、感謝の心も強くなりまですね」
コンサートでは、観客に感謝を伝えたい、と言います。
「感謝でいっぱい。来てくれるだけでありがたいと思う。いっぱい入っていると、よく足を運んでくれたなぁ、と思いますね」
これからめざすものは何でしょうか。
「先のことは考えない。区切らない。あと10年とかさ、そんなこと考えたことないよ、俺。昔から、還暦になったら還暦、喜寿になったら喜寿、というだけ。それで終わりだよ。90歳は卒寿、99歳は白寿。言葉では知ってるけど、いってみなきゃわかんない。時って不思議だと思うよね。絶対止まらない。水の流れも一緒でずっと流れていくだけ。戻らない」
昨年6月から「START」と題したライブツアーで全国各地を回っています。今回のツアーは4月11日、83歳の誕生日まで続く予定です。
「だからといって終わっちゃうわけじゃないよ。その先を考えているよ」
◇
レジェンドたちからリスペクトされる加山さん。若いミュージシャンたちとの共演で、さらにパワーを増しているように感じます。
年齢を重ねて、新しいことを受け入れがたくなる人が多い中で、加山さんはとても柔軟に、若い人たちの思いを受け止め、若いファンとの交流も楽しんでいます。1年半前にインタビューしたときは、前日に入手したという新しいiPhoneを使いこなしていました。
80代で、第一線で歌い続ける加山さんの存在は、後に続くミュージシャンたちの目標であり、素晴らしいお手本になっています。卒寿、白寿までも歌い続けていただきたい、と願ってやみません。
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