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中国版「紅白歌合戦」500億円で買い占めた企業「いったいどこが?」
コロナウィルスの影響はあったものの、2020年の旧正月の大晦日である1月24日、中国では、日本の「紅白歌合戦」とも言える国民的総合バラエティ番組『春晩』が予定どおり放送されました。番組で注目を集めたのは、視聴者にプレゼントされた総額10億元(約160億円)のお年玉(紅包)。スポンサーは「快手」(クアイシュ)という企業です。ネット上ではさっっそく「快手は一体、何もの?」という声があふれました。現地の視聴者も驚いた出来事の背景には、IT企業同士の覇権を争う熾烈な戦いがありました。
中国では、百度(Baidu=バイドゥ)、阿里巴巴(Alibaba=アリババ)、騰訊(Tencent=テンセント)がBATと呼ばれる巨大IT企業として知られています。
そして、BATに追いつこうとしている企業に、TikTokを運営している字節跳動(Bytedance=バイトダンス)があります。「バイトダンス」は、中国最大のニュースアプリ「今日頭条」を運営しているほか、ショート動画アプリ「抖音」(海外版はTikTok)などを運営しています。
『春晩』のスポンサーになった「クアイシュ」はショート動画の世界で「バイトダンス」を猛追するライバル会社です。
2019年12月に、「クアイシュ」が公表したデータによると、MAU(1カ月の間にアプリを使うユーザー)は4億を超え、DAU(1日にアプリを使うユーザー)は2億を超えています。「クアイシュ」にあるショート動画の数は200億本を超えおり、毎日1億人以上の人が「クアイシュ」の「ライブ」を見ており、1900万人がアプリを通じて収入も得ています。
一方、「バイトダンス」が運営する「TikTok(中国では抖音)」は、2019年のデータでMAUは5億を超え、DAUは4億を超えており、ショート動画の世界で首位を保っています。
調査会社Quest Mobileのレポートによると、「TikTok」と「クアイシュ」の両方を利用しているユーザーが1億5881万人いることから、両者の争いは、このユーザーたちを相手側に引っ張られないようにすることが課題になっています。
そんな中で生まれたのが、「クアイシュ」による『春晩』へのスポンサーでした。
中国の視聴率調査会社「CCTV索福瑞(CSM)」の調査によると、2001年から2017年に、『春晩』は平均30%の視聴率を保っています。地方のテレビ局やネット経由で視聴した人も入れると70%以上とされており、海外分も合わせると11億人以上の人が視聴するという巨大な番組になっています。
『春晩』には、あらゆる企業が注目しており、BATに連なる企業は全てスポンサーになっています。テンセントが運営する中国版LINEの微信も、2015年の『春晩』に登場したことで急速に普及したと言われています。
「ショート動画産業網」の報道によると、2020年の『春晩』では、「クアイシュ」が多くのライバルを振り落とし、最終的に30億元(約500億円)の価格で、『春晩』の「単独連携パートナー」になったと伝えられています。
「クアイシュ」の創業者、宿華(スーホア-)氏は2019年の6月、「DAUを3億に引き上げる」という目標を発表しています。
クアイシュ・ビッグデータ研究院が2月21日に公開した『2019快手内容報告』で、DAUはすでに3億に達成し、「いいね」数も累計で3500億突破したと発表しました。数字の積み上げからは、『春晩』で知名度を上げた効果が見て取れます。
一方、ライバルの「TikTok」は、インド、東南アジア、そして日本でもユーザー数を伸ばしています。また運営元の「バイトダンス」は米国の音楽アプリ「Musical.ly」を買収するなど国際化をさらに進めています。
「クアイシュ」が『春晩』で国内の知名度を上げる中、ライバルの「TikTok」は一足先に世界に挑戦する格好になっています。ショート動画の覇権を争う2社。次の舞台は、国内から一気に世界へとなりそうです。
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