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「したたる汗、見たい」 ジャニオタ・ヅカファンが変えた双眼鏡市場
野鳥や天文ファンの間で支えられてきた双眼鏡市場が、じわじわと盛り上がりを見せています。双眼鏡に注目するのはジャニーズや宝塚歌劇団などが好きな女性たち。それも、5~8万円とお高めの商品が人気だといいます。今や観戦の「必需品」となりつつある双眼鏡。年末年始はイベントも多いだけに、メーカーや販売店の期待も上がっています。(朝日新聞経済部記者・高橋諒子)
「したたる汗も、まつ毛も見えた」「常にブルーレイ画質」。ジャニーズファンたちがSNSなどで情報交換しているのは、双眼鏡の性能について。特に話題を集めているのは、手ぶれ補正のある「防振双眼鏡」です。多くが数万円という価格帯ですが、ドームなど広い会場で開かれるアイドルのコンサートでは「必需品」とも言われています。
長く無風だった双眼鏡市場に吹いた「ジャニオタ」の追い風。このチャンスを逃すまいと、メーカーも製品開発に力を入れています。
キヤノンが11月8日に売り出した防振双眼鏡の新製品は、8~10倍と高い倍率ながら重さは420~430g。これまでの製品は同じ倍率で600gと、「コンサートで使うと重くて肩がバキバキになる、という声があった」と開発担当の篠原玲子さん。長時間、片手でも持ちやすくするため、軽量化にこだわったそうです。
防振機能を使うには、双眼鏡についたボタンを押し続ける必要がありましたがこれも改良。コンサートでの使い勝手を考え、今回は一度ボタンを押せば5分間作動し続けるようになりました。
キヤノンで双眼鏡の売り上げが伸び始めたのは2013年ごろから。開発担当の家塚賢吾さんは「はじめはなぜ売れているのか分からなかった」といいますが、ジャニーズなどアイドルファンの間ではインターネットやSNSやウェブサイトを通じて口コミが広がっていました。キヤノンの防振双眼鏡の販売台数は、5年前から2~3倍に伸びたといいます。
望遠鏡などを手がけるビクセンは、7年ほど前からアイドルファンの需要に目を付け始めました。
女性社員のアイデアで、赤、青、黄などカラフルな色の双眼鏡を販売。ジャニーズのグループメンバーごとに「メンバーカラー」というイメージ色があることから、自分の好きなアイドルに合わせた色を買ってもらおうと考えたそうです。アイドルファン向けの雑誌にも広告を出し、価格も6千円程度に抑えて需要の掘り起こしに乗り出しました。
今ではアイドルファンの定番となった双眼鏡ですが、企画部長の都築泰久さんは「人気は当時予想していなかった方向にいった。ファンの注目は見た目よりスペック、です」。
この5年で年間販売台数が倍以上に伸びているのは、「いかつい見た目の双眼鏡」(都築さん)だそう。倍率8倍、10倍といったアウトドア向けの製品が人気で、価格は2~3万円台、色も黒色。販売台数の9割がアイドルファン需要とみられる機種も出てきました。
17年に出した防振双眼鏡も人気です。片手にうちわやペンライトを持つことも考慮して双眼鏡は422gの軽さに。ベージュ色に加えて、今年10月には定番の黒色も新たに発売しました。
1980年代から防振双眼鏡を手がけてきた富士フイルムによると、「防振双眼鏡はもともと船やヘリコプターでの防衛、監視の目的で使われていた」(広報)といいます。90年代になると、国際ヨットレースで競争相手の船やブイを見るために使われることもあったそうです。
11月29日に発売の新製品では、12倍、16倍と高倍率ながら500g前後と軽量化した商品も用意しました。アイドルファンの需要も意識しつつ、防水機能といった点も押さえ「もちろんホエールウォッチングなどでも使える性能」(同)だそうです。
ビッグカメラ有楽町店で双眼鏡売り場を担当する堀池健太さんは「ここ4、5年で防振双眼鏡のラインナップが増えた」と話します。売り場では東京ドームや横浜アリーナなど近隣の大規模コンサート会場の座席図を貼りだし、座席に合った倍率を紹介しています。「年末年始はイベントも多く、防振双眼鏡の需要は伸びるのではないか」
購買客は、男性より女性ファンが多いそう。ジャニーズファンのみならず、宝塚歌劇団や声優の舞台、漫画やアニメなどを舞台化した「2.5次元ミュージカル」などでも需要が伸びているそうです。メーカー関係者は「アイドルファンなどの市場は星や鳥の愛好家とは比べものにならない大きさ」と期待をかけています。双眼鏡市場のアイドルファン争奪戦はしばらく続きそうです。
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