話題
猥談バー訪ねてみたら「多様性の塊」だった 25歳店長の大きな野望
「恋人とする時は、メガネ外す派?外さない派?」
ゴールデンウィーク連休中。神楽坂にある、ワンルームほどの広さの店内。20ほどのカウンター席とテーブル席は、ほぼ満席です。内装はごく普通のバーですが、交わされるのは猥談ばかり。あけっぴろげな性癖の話からクスッと笑える下ネタまで、バラエティー豊かです。
お客さん同士で猥談を話しつつ、途中、誰かが猥談を発表したり、お題を投げかけたりします。大半が初来店の会員ですが、緊張感はなく、なごやかな雰囲気です。
猥談バー、今夜のベスト猥談です☺️👏 pic.twitter.com/7e4Zh67NmZ
— ポインティ🍑猥談バー店長 (@waidanbar) 2019年5月6日
相槌を打ちつつ進行するのは、25歳の店長、佐伯ポインティさん。漫画の編集者を経て、昨年9月から猥談バーの運営をスタート。その後、株式会社ポインティを設立して、 CEO(チーフ・エロデュース・オフィサー)を務めています。
猥談を純粋に楽しむための大前提として、 連絡先を聞くことや、ボディタッチ、泥酔などが禁じられています。違反した場合は強制的に退店となり、会員権も失います。
女性スタッフにも可能な範囲で会話に参加してもらい、話しやすい環境を心がけています。ある女性会員は「女性が下ネタを話すと、誰とでもそういうことをする女性だと誤解されがち。ここは、猥談だけを純粋に楽しめるのがいい」と話します。
この日、男女比は3:2くらい。20~30代くらいの年齢層が中心でしたが、40~50代くらいの人たちもいました。ちなみに、猥談バーでは、実名ではなく、自ら決めたニックネーム(猥談ネーム)で互いを呼び合います。
記者が最初に会話したのは、初来店の「あっちゃん」さん(30代会社員男性)。エロを耳で楽しむのが好きで、電話でHな会話をしたり、バイト先の内線で、彼女とイチャイチャしていたりしたそうです。
他にも、仕事の関係で九州から東京に来たばかりの「セレス」さん(34歳男性)は、「刺激のある体験をしたい」と、ネット上の募集を見て会員に。「普段は聞けない話がたくさん聞けて最高に楽しかったです」と満足そうでした。
全体を通して感じたのは、見ず知らずの他人同士でも共鳴し合う、心地よさ。初対面だと、共通の話題に困るものですが、その点、エロに壁はありません。記者も、「学生の時に拾ったエロ本」について力説しましたが、すぐに共感してもらえました。
閉店時間までの2時間半はあっという間でした。ノンストップコメディーを見た後のような爽快感と、色々な人に話を聞いてもらったことでマラソンを完走したような達成感も味わえ、店をあとにしました。
ただ、ポインティさんは、既存のアダルト業界に転職する気はなかったと言います。AVやエロ漫画の多くは見る人の性欲の解消がメインなので、ポインティさんは「性欲の処理じゃなくて、エロくて面白いコンテンツがつくりたい」と感じていました。
「エロと言うと、アンダーグラウンドなイメージがあったり、性差別的なコンテンツも多い。でも性愛って本来は身近にある娯楽じゃないですか。エロだから全部NGとするんじゃなくて、親しい関係性の中の、性愛だったらもっと面白がっていいじゃん!と思ってます」
そんな思いから、「エロデューサー」という肩書で活動を始めたところ、さっそくチャンスが舞い込んできました。
2017年11月、友人から三軒茶屋のバーを一晩任せてもらえることになり、一晩限定で「猥談バー」を開きました。告知はSNSのみでしたが、6席に40人近くが来店。それ以上は店内に入りきれなかったので、断ったほどでした。口コミで評判になり、以降は月1回のペースで猥談バーを開くようになりました。
【猥談バーの店長、やります!】
— 佐伯ポインティ(エロデューサー) (@boogie_go) 2017年11月6日
エロス×バーで、猥談バーやっちゃいます。大人が楽しく猥談しないで、誰がするんですか!
ルールは、他人の猥談や性癖を否定しないこと!ルールを守って、楽しく猥談しようね〜11月19日の夜、待ってます♡https://t.co/IOLhydkbuf
佐伯さんは昨年9月、猥談バーの実店舗を立ち上げようと、クラウドファンディングサイト「キャンプファイヤー」で 資金を募りました。
支援へのお礼を猥談バーの会員権にしたところ、週内に200万円を達成し、2カ月足らずで669人から計700万円超の支援金が届きました。バーのキャパシティが限界に達したため、途中で募集を打ち切りました。
そして友人から東京のJR阿佐ケ谷駅近くのバーを買い取り、第1号店開店にこぎ着けました。同時に株式会社として法人登記も完了。共同創業者のほか、数人のアルバイトスタッフとともに、猥談バーを運営しています。
今後は、全国の地方都市にも店舗を広げていく予定で、アルバイトの店長も採用するそうです。
アダルト関連の会社は、一般的に上場できないとされていますが、ポインティさんは「公序良俗に反さないエロをやる」とあえて上場を目指し、「エロ」のイメージを塗り替えていきたいと考えているそう。
猥談バーのルールに「相手の性癖・性体験を否定しない」という文言があります。ポインティさんは、猥談の魅力について、こう語ってくれました。
「猥談バーやりながら実感したのは、性愛にはお手本や物差しがないし、優劣もない。『こうあるべき』という価値観の押しつけがあまりないんです。だから、みんなが楽しく語り合えるし、性癖も性体験も『多様性の塊』で面白い。エロをもっと気軽に楽しめる事業をやっていって、ハッピーなバイブス(雰囲気)を増やしていきたいですね」
誰もが、エロを好きなように楽しめる日も遠くはない――。猥談バーで一晩過ごして、確信しました。
1/13枚