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猥談バー訪ねてみたら「多様性の塊」だった 25歳店長の大きな野望

「猥談バー」創設者で店長の佐伯ポインティさん
「猥談バー」創設者で店長の佐伯ポインティさん

目次

 猥談だけを思う存分、楽しみたい――。そんな欲求に応えた会員制の「猥談バー」が人気です。 クラウドファンディングで資金を集め、昨年秋にオープン。現在は都内に3店舗あり、会員数は1000人に迫る勢いで増えています。正直、いかがわしいバーを想像してしまいますが、一体どんな場所なのでしょうか。男子高時代、同級生たちと無邪気に猥談をした過去もある記者(27)が、バーを訪問。「多様性の塊」とも言える空間で、大きな野望をもつ25歳店長に出会いました。(朝日新聞記者・小川尭洋)
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猥談バーで猥談を語り合う人たち=株式会社ポインティ提供
猥談バーで猥談を語り合う人たち=株式会社ポインティ提供

ルールを守って、あけっぴろげに

 「恋人とする時は、メガネ外す派?外さない派?」

 ゴールデンウィーク連休中。神楽坂にある、ワンルームほどの広さの店内。20ほどのカウンター席とテーブル席は、ほぼ満席です。内装はごく普通のバーですが、交わされるのは猥談ばかり。あけっぴろげな性癖の話からクスッと笑える下ネタまで、バラエティー豊かです。

 お客さん同士で猥談を話しつつ、途中、誰かが猥談を発表したり、お題を投げかけたりします。大半が初来店の会員ですが、緊張感はなく、なごやかな雰囲気です。



 相槌を打ちつつ進行するのは、25歳の店長、佐伯ポインティさん。漫画の編集者を経て、昨年9月から猥談バーの運営をスタート。その後、株式会社ポインティを設立して、 CEO(チーフ・エロデュース・オフィサー)を務めています。

猥談バー店長の佐伯ポインティさん(右)とスタッフたち=株式会社ポインティ提供
猥談バー店長の佐伯ポインティさん(右)とスタッフたち=株式会社ポインティ提供

 猥談を純粋に楽しむための大前提として、 連絡先を聞くことや、ボディタッチ、泥酔などが禁じられています。違反した場合は強制的に退店となり、会員権も失います。

 女性スタッフにも可能な範囲で会話に参加してもらい、話しやすい環境を心がけています。ある女性会員は「女性が下ネタを話すと、誰とでもそういうことをする女性だと誤解されがち。ここは、猥談だけを純粋に楽しめるのがいい」と話します。

猥談バーのルール=株式会社ポインティ提供
猥談バーのルール=株式会社ポインティ提供

会話はニックネーム

 この日、男女比は3:2くらい。20~30代くらいの年齢層が中心でしたが、40~50代くらいの人たちもいました。ちなみに、猥談バーでは、実名ではなく、自ら決めたニックネーム(猥談ネーム)で互いを呼び合います。

 記者が最初に会話したのは、初来店の「あっちゃん」さん(30代会社員男性)。エロを耳で楽しむのが好きで、電話でHな会話をしたり、バイト先の内線で、彼女とイチャイチャしていたりしたそうです。

 他にも、仕事の関係で九州から東京に来たばかりの「セレス」さん(34歳男性)は、「刺激のある体験をしたい」と、ネット上の募集を見て会員に。「普段は聞けない話がたくさん聞けて最高に楽しかったです」と満足そうでした。

1日限定の「猥談バー」の様子=株式会社ポインティ提供
1日限定の「猥談バー」の様子=株式会社ポインティ提供

見ず知らず同士でも響き合う猥談

 全体を通して感じたのは、見ず知らずの他人同士でも共鳴し合う、心地よさ。初対面だと、共通の話題に困るものですが、その点、エロに壁はありません。記者も、「学生の時に拾ったエロ本」について力説しましたが、すぐに共感してもらえました。

 閉店時間までの2時間半はあっという間でした。ノンストップコメディーを見た後のような爽快感と、色々な人に話を聞いてもらったことでマラソンを完走したような達成感も味わえ、店をあとにしました。

「エロは最高級のエンターテイメント」と話す佐伯ポインティさん
「エロは最高級のエンターテイメント」と話す佐伯ポインティさん

性愛は身近にある娯楽

 猥談バーの会員(年会費1万円)は、4月末からの再募集で800人を突破。5月11日現在、募集はいったんストップしていますが、公式ページから登録することで募集再開のお知らせを受け取ることができます。

 店長の佐伯ポインティさんも、ここまでの盛況は予想外だったそうです。「イベントで始めた時はしっぽりと少人数で語り合うイメージでした。でも、こうやって猥談好きな人が800人も会員になってくれて、面白い猥談がいっぱい聞けるのはハッピーですね」。ポインティさんは、1年半前までクリエイターのエージェント業を担う会社「コルク」で働いていました。

  大学生の時にインターン生として働き始め、卒業後の2015年にそのまま正社員として入社。ところが、入社3年目の秋に「『エロ』を仕事にしたい」と思い立ち、独立しました。

 小学2年生の時にフランスのヌーディスト島へ旅行するなど、小さいころから未知の世界への好奇心が強かったそうです。その中で「自分の心が最も動かされるのが、エロだったんです」と言います。
昨年秋ごろの佐伯ポインティさん=株式会社ポインティ提供
昨年秋ごろの佐伯ポインティさん=株式会社ポインティ提供

 ただ、ポインティさんは、既存のアダルト業界に転職する気はなかったと言います。AVやエロ漫画の多くは見る人の性欲の解消がメインなので、ポインティさんは「性欲の処理じゃなくて、エロくて面白いコンテンツがつくりたい」と感じていました。

 「エロと言うと、アンダーグラウンドなイメージがあったり、性差別的なコンテンツも多い。でも性愛って本来は身近にある娯楽じゃないですか。エロだから全部NGとするんじゃなくて、親しい関係性の中の、性愛だったらもっと面白がっていいじゃん!と思ってます」

三軒茶屋で一晩限りの猥談バー

 そんな思いから、「エロデューサー」という肩書で活動を始めたところ、さっそくチャンスが舞い込んできました。

 2017年11月、友人から三軒茶屋のバーを一晩任せてもらえることになり、一晩限定で「猥談バー」を開きました。告知はSNSのみでしたが、6席に40人近くが来店。それ以上は店内に入りきれなかったので、断ったほどでした。口コミで評判になり、以降は月1回のペースで猥談バーを開くようになりました。



クラウドファンディングは支援殺到で打ち切り

 佐伯さんは昨年9月、猥談バーの実店舗を立ち上げようと、クラウドファンディングサイト「キャンプファイヤー」で 資金を募りました。

 支援へのお礼を猥談バーの会員権にしたところ、週内に200万円を達成し、2カ月足らずで669人から計700万円超の支援金が届きました。バーのキャパシティが限界に達したため、途中で募集を打ち切りました。

 そして友人から東京のJR阿佐ケ谷駅近くのバーを買い取り、第1号店開店にこぎ着けました。同時に株式会社として法人登記も完了。共同創業者のほか、数人のアルバイトスタッフとともに、猥談バーを運営しています。

目標額を大きく上回る700万円超を達成した=クラウドファンディングサイトのキャンプファイヤーから
目標額を大きく上回る700万円超を達成した=クラウドファンディングサイトのキャンプファイヤーから
 今年4月末から、東京の阿佐谷に加え、代々木と神楽坂でも、それぞれ週1回、店の場所を借りて猥談バーを開くようになりました。
猥談バーの会員募集ページ=株式会社ポインティ提供
猥談バーの会員募集ページ=株式会社ポインティ提供

エロは多様性の塊

 今後は、全国の地方都市にも店舗を広げていく予定で、アルバイトの店長も採用するそうです。

 アダルト関連の会社は、一般的に上場できないとされていますが、ポインティさんは「公序良俗に反さないエロをやる」とあえて上場を目指し、「エロ」のイメージを塗り替えていきたいと考えているそう。

 猥談バーのルールに「相手の性癖・性体験を否定しない」という文言があります。ポインティさんは、猥談の魅力について、こう語ってくれました。

 「猥談バーやりながら実感したのは、性愛にはお手本や物差しがないし、優劣もない。『こうあるべき』という価値観の押しつけがあまりないんです。だから、みんなが楽しく語り合えるし、性癖も性体験も『多様性の塊』で面白い。エロをもっと気軽に楽しめる事業をやっていって、ハッピーなバイブス(雰囲気)を増やしていきたいですね」

 誰もが、エロを好きなように楽しめる日も遠くはない――。猥談バーで一晩過ごして、確信しました。

「エロは人生の希少部位」と語る佐伯ポインティさん
「エロは人生の希少部位」と語る佐伯ポインティさん

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