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「ユニクロにメールしてみよう」から始まった原価「ほぼゼロ円」商品
「ユニクロにメールしてみよう」。何気ないひらめきから生まれた材料費「ほぼゼロ」の商品があります。裾上げなどで裁断される布地を再利用。デザインはファッションの専門学校生が考案したバッグです。グローバル企業を動かしたプロジェクトには「福祉の世界も稼げる」ことを目指したメンバーの思いがありました。
大阪市住吉区で、障害者が手作りした雑貨を扱うセレクトショップ「らふら」(社会福祉法人ライフサポート協会)では、ファーストリテイリングや繊維メーカーのクラボウ、ファスナーを手がけるYKK、デザイナーなどを育成する大阪モード学園、ミシンを扱うブラザー販売の協力を得ながら、3月からミニトートバッグを販売しています。
3月時点での制作者は、同法人が運営する生活訓練「つみき」の利用者で、軽度知的障害のある20代女性1人。もともと手芸が趣味で、「楽しい」と言いながら製作しているといいます。現在は少しずつ作り手を増やしながら商品作りをしています。
このバッグ、何がすごいかというと、材料費をほぼかけずに製作できているという点です。
バッグのデザインは大阪モード学園ファッションデザイン学科の学生が授業で考え、布地はユニクロの店舗で発生するハギレ、クラボウのサンプル反を無償提供してもらっています。また、YKKからはファスナーを、ブラザー販売からは縫製に使うミシン3台の無償提供を受けました。
なぜ大手企業などの協力を得た商品ができたのか、プロジェクトの中心になった法人職員で「らふら」店員の米田麻希さんに聞きました。
米田さんは学生時代、ユニクロでアルバイトをした経験があります。裾上げ後のハギレが廃棄されていることを知り、生かすことはできないかと考えていました。社会人になり、ライフサポート協会の法人職員となってからは、法人の独自商品を開発し、売り上げを伸ばすことで、法人内の作業所で働く利用者の工賃を上げることにつなげられるのではないかと考えるようになったといいます。
2017年5月、米田さんの経験と思いを法人内で共有すると、「ユニクロにメールしてみよう」と、ユニクロを運営するファーストリテイリングに早速連絡することになりました。実はファーストリテイリング、これまでも海外でハギレを使ったプロジェクトを展開してたこともあり、日本でも実施したいと考えていました。
両者の思いが合致し、その年の11月には東京のファーストリテイリング本社でプレゼンし、「プロジェクトへの想いだけでなく、目的や販売拠点を持ち、計画を立てている。是非協力させていただきたい」(ファーストリテイリング)と、とんとん拍子で事は進み、同社が以前からCSR活動に関する意見交換を定期的に行っていたブラザー販売やYKKと、らふらをつなぎ、プロジェクトの輪が広がっていきました。
ここで出てきた課題が「ものはそろったけど、デザインや縫製はどうしよう」。
「ユニクロは全国で展開しているし、福祉作業所も全国にある……。そうだ!全国展開をしている服飾系の専門学校に声をかければ、このプロジェクトがいつか全国的な広がりをみせるかもしれない!」
プロジェクトに関わっている人たちの総意が固まり、2018年4月にはモード学園に話を持ち込みました。ファッションデザイン学科の学生およそ40人の前で話をすると、デザイン案がなんと90近くあがってきました。
法人職員の間では、「全部いい!」となったのですが、コスト面などでファーストリテイリングからのアドバイスを受け、一次審査で13案まで絞られました。その後、法人職員や、「らふら」とゆかりのある子育て世代の意見を聞きながら5案にまで絞り、その後二次審査を経て3案を採用することになりました。
現在販売しているミニトートは、3案うちの1つで、残り2案はYKKから提供を受けているファスナーを使う予定だといいます。
今後は商品作りの担い手を増やすべく、法人内にある障害者活動センター「オガリ作業所」(生活介護・就労継続支援B型)の利用者にも関わってもらう予定です。
ファーストリテイリングの担当者は、「ユニクロの店舗から直接地域の施設の方にハギレをお届けする事で地域に貢献できれば、という思いで参加し、障害者工賃アップに今回の活動が良い影響を与えることができるのであれば、嬉しく思います」と話しています。
米田さんは「大阪は商売の町なのに障害者の工賃は低いまま。すぐに効果がでなくても、売り上げが積み上がった結果、工賃アップに繫げたい」と期待しています。
試着室でジーンズの裾を合わせ、「あーあ。こんなに余っちゃった……」と落ち込んだ経験を持つ人が少なくないはずです。。
私は「裾上げお願いします」と店員さんにお願いするたびに、裁断される布地の多さにため息をつく一人です。
でも、余ったそれが、形を変えて障害者工賃アップにつながる可能性のある商品になっていることを知り「きれいごと」ではない、お金に向き合おうとするプロジェクトの真面目さを感じました。
写真を一目見て「かわいい!」と思い、購入させていただいたバッグは今、お弁当入れとして活躍しています。
福祉施設発で販売される商品は様々ありますが、デザインにこだわった商品は、正直、あまり多く知りません。でも、福祉のためという前提がなくても、単純に可愛いと思ってもらえるかを考えることは、福祉の現場で働く人のためになることを、あらためて感じました。
施設内で完結してしまっていたかもしれない「物作り」を、市場に引っ張り上げたこと。企業のCSR活動と結びつけるなど外に開けた動きにしたことが、デザイン性に優れた、材料費ほぼ「ゼロ」の商品を生んだのだと思います。
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