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「女性の職場」航空会社のCAにも変化? ANAが新卒男性を初採用
就職や入学で新たなスタートを切った人も多いでしょう。連休ももうすぐ。飛行機で旅行する人も多いと思います。さて、国内最大手の航空会社全日空(ANA)に4月、客室乗務員(CA)職として初めて日本人男性が4人入社しました。折しも男性CAを目指す高校生を描いた漫画「空男」が話題になる中、日本も男性CAの時代に入ったのか、取材しました。(朝日新聞記者・朝倉義統)
海外系の航空会社では創業時から当たり前の男性CAですが、日本ではまだまだ少数。しかし、ラグビーワールドカップや東京五輪・パラリンピック、大阪・関西万博を控え、企業にはダイバーシティー&インクルージョン(多様性の尊重と活用)の意識が高まっています。
ANAは、2001年から海外を拠点とする外国人の男性CAを採用し、その後、総合職(現グローバルスタッフ職)から人事異動としてCAの経験を積む男性社員はいました。
しかし、CA職として日本人男性を採用するは今回が初めて。19年4月に入った新卒のCA職約700人のうち男性は4人。所属するCA約8500人のうち男性は約50人だそうです。
グループ会社のANAウイングスには、一足早く18年度に男性2人が初採用されています。ANA広報部は、「特に男性、女性ということではなく、安全運航を守り、お客様の視点に立った最高のサービスが提供できるようチームとして働ける方を採用した結果です」と話します。
日本航空(JAL)は、創立した1951年にCA採用を始め、2年後の国際線の運航免許を持つ会社になって男性CAを10人採用しました。2005年4月入社までは、主に男性が受けた総合職客室系という職種もあり、創立以来、CA職に男性はずっと応募できたそうです。
18年度はCA職約400人のうち3人、19年度は約500人中3人が男性の採用だそうです。所属CA約6千人のうち約100人が男性。グループ会社の日本トランスオーシャン航空には17年12月に男性1人が初採用され、19年1月に2人目が入社しました。
JALでは毎年3月3日に女性クルーによる「ひなまつりフライト」を実施していましたが、今年からダイバーシティーを考慮し、名称も「ひなまつりイベント」として、女性クルーのみの運航はしなかったそうです。
世界の航空会社はどうでしょう。香港を拠点とするキャセイパシフィック航空はグループのCA約1万3千人のうち約2千人が男性で、シンガポール航空は7千~8千人のうちの約4割、エールフランス航空は1万2500人のうち33%が男性だそうです。
ちなみに日本の政府専用機には航空自衛隊の特別航空輸送隊所属の空中輸送幹部と空中輸送員がCAの役割も務め、男性もいます。
防衛省によると、希望者が選抜試験を受けてなるそうですが、所属人数と男女の内訳は秘密だそうです。3月で引退したボーイング747-400型では、空中輸送員の訓練をJALで行っていたそうですが、4月からボーイング777-300型になったのに伴い訓練をANAで受けているそうです。
利用者はどう思っているのでしょう。伊丹―那覇線をよく使うという会社役員の男性(60)は「男性もいた方がいいわな。安心できるかもな」と言い、那覇空港にいた主婦(31)は「キャリーバッグを持ち込む人が多いから、力の強い男性がいるといいですね」と話しました。
先日乗った機内で男性CAについて聞いたところ、若手の女性CAは「男性CAがいると荷物の上げ下げで助かります。お客様の中には、女性CAには言いづらいことを話せるみたいです。雰囲気もいいです」。ベテランの女性CAも「国際線で不審なかっぷくのいいお客様がいる時などは、男性CAがいてくれると安心感がありますね」と話していました。みんな男性CAを歓迎しているようです。
男性CAにも聞いてみました。JALにCAとして18年春に入社し、全国を飛び回っている長澤薫峰さん(23)は、飛行機が好きで、それに関わる仕事に就きたいと思っていたからCAになったそうです。
ANAの男性CA採用については、「驚きです。私も受けました。今まで採用されていなかったので、いいことだと思います」と述べていました。
CAの仕事については、「いろんな事情のお客様がいて、それぞれの方にあわせた接客が必要です。すごく難しいんですが、こんなにも『ありがとう』といわれる仕事ってあるのかなぁと思いますね。CAになりたいかもと思ったら『なれるかも』と言ってみるといいですよ。機内で声をかけてくれたら経験をお話しします」と、後輩が続くのを願っていました。
航空業界の仕事や採用情報を提供する月刊「エアステージ」の川本多岐子編集部長は「日本の航空会社が男性CAを採用してこなかった理由としては、優秀な女性が多く、その必要性を感じられないという回答が多かったです」と振り返ります。
「ANAの男性CA採用で、CA職の見方もさらに変わっていくと思います。若い人たちは『男性はこうあるべきだ』とか思わなくなってきているので、時代の流れなんじゃないでしょうか。これまでは女性の職場とされてきましたが、これからは男性もそこを突破していけばいいと思います」と話しています。
ANAで15年間CAを務め航空業界を目指す女子学生らを中心に指導している「京都キャビンアテンダントスクール」代表の有清博子さん(50)は「求められるのは、お客様を思うサービスができるかと、保安要員として振る舞えるかです。体力も必要です」。
元JALの国際線チーフパーサーで航空評論家の秀島一生さん(73)は「世界の人たちに先頭を切って日本の心をPRする仕事です。男性にも羽ばたいてもらいたい」とエールを送ります。
ANAもJALも「男性も女性もなりたい方はチャレンジ大歓迎」と話しています。既卒者の募集をしている会社もあります。
今回、新卒の4人の男性CAに取材を申し込みましたが、ANA広報部からは「男性、女性と特別扱いしたくない」との理由で実現しませんでした。しかし、それはそれで、「男性CAを特別扱いしない」という意味でいいのかもしれません。「空男」になりたいと思っている方、目指してみてはいかがですか。
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