感動
今日のおばあちゃんの目標は? 認知症の曽祖母へ、毎日1枚の贈り物
大好きなおばあちゃんが認知症になった――。小学6年生の男の子が、日付を忘れてしまうおばあちゃんのために、日めくりカレンダーを書くことを日課にしています。大阪市の小学6年生・宮城凜太朗君(12)と、凜太朗君が「おばあちゃん」と呼ぶ曽祖母の宮内房さん(98)は、どちらかがどちらかを支えるのではない、「補い合う関係」を続けているといいます。
おばあちゃんの一日は、ひ孫の凜太朗君手書きの日めくりカレンダーを受け取ることから始まります。
「おばあちゃん、おはよう」。午前8時、凜太朗君はおばあちゃんの部屋を訪ねます。手には日付と曜日、六曜、そして「おばあちゃんの目標」が色鉛筆でカラフルに書かれた一枚の紙。
凜太朗君は昨年12月からほぼ毎日、この紙をおばあちゃんのために書いています。朝ごはんを食べたあと、登校までの時間を使ったり、前日の夜に書いたり。「夜に書いたときは時間に余裕があるから、手が込んでるんですよ」と母の優希さん(39)が見せてくれた2月17日のものには、おばあちゃんのイラストやお花が描かれています。
凜太朗君のおばあちゃんは、昨年11月ごろから認知症の症状が出始めて、いまは要介護3の介護認定を受けています。症状に波はあるそうですが、一時は持ち物が見つからないときに「誰かに盗られた」と訴えたり、夜中にジュースを買いに行こうとしたりすることもあったそうです。
そんなとき、凜太朗君は「不思議なことが起こるなあ」とのんびりと構えていたそう。優希さんは「色んなことができなくなっていくおばあちゃんを見て、私が不安に思っていたのが、凜太朗の言葉で、気が楽になりました」。
そんな凜太朗君が始めた日付のカレンダー。きっかけは、長年購読を続け、毎日の日付確認にもなっていた新聞の購読をやめてしまったことでした。「読むのがしんどい」と新聞を止めると、おばあちゃんの日付・時間感覚がぼんやりとしてきてしまったそうです。そんなときに思いついたといいます。
凜太朗君、目標はどうやって決めてるの?
「そのときのおばあちゃんの様子を見て決めてる」。口数の少ない凜太朗君ですが、はにかみながら答えてくれました。
凜太朗君と2つ年上のお姉ちゃん、お父さんお母さんは、凜太朗君が1年生の頃からおばあちゃんと同居していて、凜太朗君とは一緒にスーパーに買い物に行ったり、2人でお留守番をしたりしていました。凜太朗君は「買い物に一緒に行くと、おばあちゃんお菓子買ってくれた」と、優希さんの耳元で小さな声で嬉しそうに話します。
優希さんが不在の土日のお昼ごはんは、「昔はおばあちゃんがチャーハン作ってくれたりしてた」(凜太朗君)。でもいまは、おばあちゃん用のお弁当を温めるのは凜太朗君の担当です。「そこは逆転したな」。優希さんは、ふふっと笑います。
最近では、二人で留守番をしているときは、凜太朗君がおばあちゃんの部屋に遊びに行って、一緒にテレビアニメを見たり、つつきあってじゃれ合ったりしているそうです。「寂しくなるとおばあちゃんの部屋に行っているんでしょうね」と優希さん。凜太朗君は、おばあちゃんとゆっくり過ごす時間が、好きだと話してくれました。
優希さんは、「二人は昔からお互いに補い合っているんです。その比率が少しずつ変わっている感じかな」と話します。
そうしておばあちゃんとの日々を過ごしてきた凜太朗君だからこそ、おばあちゃんの変化にも気づくことができ、日々の目標を立てることができます。
おばあちゃんが廊下でバランスを崩し倒れてしまった翌日の目標は「つえをつかう」。年末の大掃除をする日も、「たくさんするとおばあちゃんが大変だから」と「すこしそうじをする」。日付を間違えたり同じことを繰り返して言ったりする傾向があるときには「気持ちをしっかり」。
おばあちゃんはそんな凜太朗君のことを「この子は柔らかい。柔軟な気持ちで接してくれる」と話してくれました。
凜太朗君、少しずつ物忘れをしたりするおばあちゃんのことどう思ってる?
「心配な気持ちはあるけど、おばあちゃんは昔と別に変わらない」。
ただ、おばあちゃんは「(優希さんに)負担をかけたくない」という本人の希望などから、特別養護老人ホームに入居する予定です。申請が通り、2月に入居することもできたのですが、春に中学生になる凜太朗君の学ラン姿を見るのを楽しみにしているので、入居を延期しました。
凜太朗君の学ランの採寸は終わっていて、優希さんが「(制服は)3月4日に届くんやで」とおばあちゃんに伝えると、毎日「3月4日やな」と確認しているそうです。
はじめはおばあちゃんと離れることを「そんなん寂しいやん…」と泣いていやがった凜太朗君でしたが、いまは気持ちに折り合いをつけ「ずっと一緒がいいけど、おばあちゃんが幸せなんやったらいい」と話しているそうです。
優希さんは「言葉では納得はしてくれるけど、たぶん本当はずっと一緒に居たいんだと思います。難しいところです」と胸の内を明かしてくれました。
毎日のカレンダーはこれからも続け、凜太朗君と優希さんは、「入居が決まったら書きためしような」と話しています。
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