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30~50代男性を妊婦が避けるワケ 米国「日本に行くな」 風疹の恐怖
通勤電車の中や、仕事場で、「この中の誰かが、かかっていたら……」と、「見えない怖さ」を感じています。恐怖の原因は「風疹」です。今年もまた、流行しました。妊婦以外が、その怖さを意識することは少ないと思います。でももし、自分のとなりにいる乗客や、同僚が妊婦だった場合、自分では気づかないうちに、そのおなかの子どもの将来を大きく左右してしまうかもしれない。そんな危機感を、どうか持ってほしいのです。
今年も、風疹が流行しました。前回の流行は2013年。私はちょうど長男を妊娠していました。当時、印象に残ったのは、風疹について恐怖や焦りを感じていたのは、妊娠している本人以外、周囲にほとんどいなかったことでした。
「妊娠初期に風疹にかかると、おなかの子に影響が出るおそれがある」
2013年に長男を妊娠していたとき、こう書かれたさまざまなサイトをスマホで見て、言いようのない不安を感じました。
風疹は、もし妊娠20週ごろまでの妊婦に感染してしまうと、胎児の目や耳、心臓に障害が残る可能性があります。
風疹の予防にはワクチンが有効ですが、生ワクチンなので、妊娠したあとはうつことができません。
長男の妊娠中に行った血液検査で、「抗体を持っている」と数値で見せられるまでの数カ月間、ちょっとした赤いぽつぽつのようなものが顔や体にできるたびに、もしかしたら……とスマホとにらめっこしながら情報を集める時間が続きました。自分自身の体のことなのに、抗体の有無について今まで一度も考えたことがないことを後悔しました。
その間も、家族や知人には、それとなく予防接種の経験を聞いてみましたが、「風疹? うーん、したかなぁ」という程度。家族には「打って!」と頼めるものの、他の人にそこまでは言えませんでした。毎年流行するインフルエンザの予防接種をする人は多いのに、風疹に危機感を持つ人は多くないことを考えさせられました。
そして今年も、夏の終わりごろから風疹が流行し始めました。またしても風疹が流行し始めたとき、妊娠が分かりました。5年前と社会の意識が変わったとは言えない現状を、肌で感じています。
今年に入ってからの患者数はすでに1600人を超えています。
患者には特徴があります。
30~50代の男性は、抗体の保有率が特に低い年代とされており、少なくとも5人に1人は抗体がないといいます。
風疹はどんな症状が出るのでしょうか。リンパ節の腫れや発熱、発疹がありますが、症状が全く出ない人がいたり、軽い人では風邪との区別が難しかったりします。
インフルエンザよりも感染力が強く、1人がかかると5~7人にうつるとされており、職場や通勤中の電車などにウイルスを持ち込み、周囲へ感染を広げてしまうケースも多いと言います。
その電車の中に、風疹の抗体が低い妊婦が乗っていたら……。
日本での風疹流行を受けて、アメリカ疾病対策センター(CDC)は10月に、風疹のワクチンを打っていなかったり、過去に風疹に罹患したことがなかったりする妊婦に、日本へ渡航しないように勧告を出したほど。状況は深刻です。
今年、千葉県の市民セミナーで、マイクを握り、そう訴える女性に出会いました。妊娠中に風疹にかかったことがきっかけで、生まれてきた娘に難聴や心疾患などの障害が残りました。そして娘は18歳の若さで亡くなりました。
妊娠中に風疹にかかった不安がどれほど大きいか、そして、防げるものなのに、「私のせいで、辛い思いをさせた」と何十年も自分を責める気持ちがどんなものなのか、どうしても知って欲しいと思い、記事に書きました。流行が落ち着けば、当事者以外の人たちは、その重みを忘れてしまうことも多いと思います。でも、当事者の母親や家族たちが、ずっと抱えている思いは、決して当事者だけの責任ではないと感じています。
予防接種へのハードルを下げるため、取り組みは始まっています。東京都など流行している地域や、自治体独自で、抗体検査や予防接種を助成するところもあります。従業員に無料で予防接種を受けさせる企業もあります。
「妊娠・出産を希望するなら、妊娠前に自己責任でワクチンを打っておけばいい」という声も一部であるようです。でも、もしワクチンを打ったとしても、抗体が十分にできない体質の人もいます。こうしたことを考えても、「当事者だけ」の行動でも防ぎきれるものではありません。
社会全体で取り組みが進めば、防げることがあります。
「せめて一度、検査に行って欲しい」という声を、もっと届けたいと思っています。
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