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「経口補水液」コンビニに置いていない理由 実は家で簡単に作れる?
熱中症予防に経口補水液を買う光景は、すっかりおなじみになりました。ところが意外にも、多くのコンビニやスーパーでは買えません。実は手作りもできるという経口補水液。そもそも、なんで生まれたのか? なんでコンビニで買えないのか? 調べてみました。(薬剤師ライター・高垣育)
経口補水液は、脱水症のときに不足する水と電解質を口から補給する「経口補水療法」という治療に用いられる飲み物です。
日本では消費者庁が許可した食品にだけ表示が認められる「特別用途食品」のうち「病者用食品」として販売されています。
でも、暑い日に脱水症を予防しようと経口補水液を求めてコンビニエンスストアに行ってみたら、置いてなかったということはありませんか?
自宅に何本かストックしておこうとスーパーマーケットで探したけど見つからなかったという経験は?
コンビニエンスストアやスーパーマーケットに経口補水液が見当たらない理由、それは、この「病者用食品」という点にありました。
経口補水液「オーエスワン」を作っている大塚製薬工場に聞きました。
オーエスワンは「病者用食品」です。病者用というと、治療に用いるのかと勘違いしそうですが、医薬品ではなく、あくまでも「食品」。だから、本当は薬局やドラッグストアに限らず、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどでも販売することが可能です。
しかし、食品とはいえ、オーエスワンは、年齢や持病に合わせて飲み方に注意が必要な食品でもあります。
同社は「そのため、消費者の方が、医師、薬剤師、看護師、管理栄養士などの専門家のアドバイスを必要なときにいつでも受けられる場所に売り場が限定されているのです」と説明します。
現在、オーエスワンを手に入れることができるのは、病院内の売店・コンビニエンスストアや自動販売機、調剤薬局、ドラッグストアなど、登録販売者ら専門家がいるところに限られます。
経口補水液が日本で活用されるようになってきたのは2000年代ですが、その誕生は19世紀から始まったコレラ研究だったと言われています。
脱水症の治療法として確立されたのは1970年ごろのこと。
開発途上国の子どもたちの感染症に伴う下痢や嘔吐(おうと)による脱水症状に用いられ、点滴に匹敵する治療効果が示されて以来、世界中で注目を集めるようになりました。
熱中症の発症には三つの要因が絡み合っています。
気温や湿度が高いなどの「環境」、暑い屋外でスポーツをするなどの「行動」、年齢、持病や、体が脱水を起こしているなど、その人の「体」の状態という3要因です。
予防には、日陰を利用したり、風通しの良い服装を心がけて暑さを避ける、暑いのをガマンしたり無理をしないといったことのほか、こまめに水分補給をすることが挙げられます。
でも、熱中症の水分補給には、なぜ水やスポーツドリンクではなく、経口補水液なのでしょうか。
タカノ薬局湘南秋谷の薬剤師・長谷川聰さんによると、その秘密は、経口補水液がもつ「水分、塩分、糖分」のバランスにあるようです。
熱中症になると、水分といっしょにNa(ナトリウム)などの電解質が失われて、これらの体内のバランスが崩れることが知られています。そのため、水だけではなく、塩分も一緒に補給することが大切です。
では、残りの糖分は何なのでしょうか。
甘く味付けをしておいしくするため? 飲みやすくするため?
そうではありません。実は、水分の吸収を担っている小腸で、もっとも効率的に水分が吸収されるには、塩分に加えて糖分も一緒に取ったほうが良いことが研究によって分かったからなのです。
もちろん、適当な配合で水分、塩分、糖分を混ぜ合わせたのではダメです。
黄金比は、水1Lに対し、Na:ブドウ糖=1:1~2の濃度比(モル/L)です。これは、現在、日本で広く普及している市販の経口補水液とも一致するバランス比です。
ふつうの水だと、塩分や糖分は含まれず、スポーツドリンクは糖分が多くて塩分は少なく、両者とも黄金バランスから外れています。
小腸からグングンと水分を吸収してくれる絶妙なバランスをもつ飲み物、それが経口補水液で、熱中症予防の水分補給に適している理由なのです。
長谷川さんは、暑い時期の熱中症予防や、下痢・嘔吐などの脱水症状予防のため、患者さんに手作りの経口補水液の作り方を伝えています。
「経口補水液のつくりかた」というシールをお薬手帳に貼ってもらい、市販の経口補水液がすぐに手に入らないときに活用するよう呼びかけています。
「塩3グラムとか、砂糖40グラムと書いているので、ご覧になった患者さんのなかには〝いちいち量るのが大変そう〟という方がいます。でも、きっちり厳密に量らなくても良いんです。経口補水液の自作は、あくまでも家庭でできる熱中症予防の応急処置。お水やお茶を飲むより、上手に水分を補給するために活用するのだ、という風に考えてください」
長谷川さんは、計量カップやスプーンがなくても経口補水液を作れる簡単な方法を教えてくれました。
◇
【コップ1杯およそ200mLの経口補水液の作り方】
食塩は0.6グラム、砂糖は8グラム。食塩を量るために用意するのは割り箸です。2つに割ってください。そして、割った片方の割り箸の太い方を塩にくぐらせましょう。
割り箸の側面に乗った食塩の重さはどのくらいかというと、0.2~0.3グラムくらい。だから、コップ1杯分の経口補水液を作るには、割り箸で食塩を2回すくい取ってください。それで約0.6グラムになります。
砂糖は、角砂糖が1個約3~4グラム、スティックシュガーが1本3~6グラムくらいなので、これを目安にします。
水に食塩と砂糖を加えたら、あとは、底に沈んでいる食塩と砂糖が見えなくなるまで、しっかり溶かしましょう。
作った経口補水液は、雑菌が混ざって傷むおそれがあるので、その日のうちに飲み切ります。
このように、脱水症状予防対策に経口補水液は非常に役立つことが分かりましたが、活用するうえで、気をつけてほしいことがあります。
それは、経口補水液には塩分と糖分が含まれているので、高血圧、糖尿病などの治療中で食事療法をしている人は飲みすぎに注意が必要だということです。
年齢によっても、1日当たりに適した飲み水量の目安があるので、一度確認してみてください。
暑いのにのどの渇きを感じず、水分補給をしなかったために、気づかないうちに体の中から水分が失われていることがあります。
このように、自覚症状がない脱水症状の前段階ともいえる状態を3秒で見極める方法が二つあります。
まず一つ目。手の親指の爪をぎゅっと押してみてください。ピンク色から白に変わりますよね。では、押していた手を放してみてください。徐々に白色からピンク色に戻ってくると思います。
その戻るまでの時間を計っておいてください。何秒かかりましたか?
3秒以上かかった人は、いますぐ水分補給をしましょう。脱水状態に陥っているおそれがあります。
もう一つの脱水症チェックは、手の甲の皮膚をつまみ上げるというもの。
皮膚をつまみあげたら、指を離してください。普通ならすぐに戻ります。
でも、皮膚がなかなか元の状態に戻らないときには要注意。この場合も脱水状態のおそれがあります。すぐに水分補給しましょう。
ご紹介した二つの方法は、セルフチェックはもちろん、自分でのどの渇きを伝えられない方の水分不足をいち早く見つけるためにも活用できます。
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