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連載

#33 城崎広告「会社員のモヤモヤ」

ついやってしまう傘の置き忘れ、防ぐには?「ながら置き」は今日まで

サラリーマンの日々をキャラ化した「城崎広告」のメンバーが日頃感じている疑問を、withnews編集部がフカボリ取材する「会社員のモヤモヤ」。32回目は「傘を忘れない方法」についてです。
城崎広告
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今回の登場人物

猫渕渉
42歳の企画部部長。長年の経験で築いた人脈とそつのない仕事ぶりに定評あり。趣味は読書、お酒、料理。

 

倉知蓮
事業推進部所属の26歳。独特のセンスを発揮するビジュアルデザイナー。趣味はネットサーフィンとアイドル。

 

菅原数臣
37歳の事業推進部部長。経理担当として経験豊富なうえ、ソフトウェア分野にも精通。趣味は数学、ミルクパズル、資産運用。

梅雨入りの地域も多くなり、雨の日が増えてきています。傘を持って出掛ける日が一年でも一番多い時期ではないでしょうか? そんなとき気を付けたいのが傘の置き忘れです。

 

猫渕

いやぁ、うっかりしちゃったよ。午後から雨の予報だからと思って、傘を持ってきたんだけどね。

 

菅原

雨が降っていない時は、つい傘のことが意識からこぼれてしまいがちですね。

 

倉知

わかります。だからおれは推しの傘を使うことで、いついかなる時も肌身離さず持つようにしてますけど。

 

猫渕

倉知くんなりのライフハックということだね。傘をそこまで大切なものにできるのはうらやましいなぁ。

 

菅原

傘を忘れないためのライフハックですか。なるほど、では今回はこれについて取材をお願いしましょう。
今回は、傘の置き忘れを防ぐにはどのようにすればいいのかを脳神経科学が専門の早稲田大学教授・枝川義邦さんに聞きました。
枝川 義邦さん
 

記憶は3つの段階で構成

 

猫渕

枝川先生、本日はよろしくお願いします。年のせいかもしれないんですが、傘の忘れ物に困ってまして……

 

枝川

よろしくお願いします。

 

枝川

忘れ物を防止するにあたって、まずは基礎となる「記憶がどう作られるか?」について簡単に解説します。

 

倉知

おお、なんか今回はすごい講義っぽい……さすが大学教授……お手柔らかにお願いします。

 

枝川

外部から取り入れられた情報は次の3つの段階(ステージ)を経て記憶として活用されています。

 

枝川

ステージ1、まずは情報が脳に取り入れられます。記銘と言います。
ステージ2、取り入れられた情報が保存されます。保持と言います。
ステージ3、保持された情報を取り出すことになります。想起と言います。

 

菅原

記銘、保持、想起の3ステージですね。
なるほど、納得のいく構造です。つまり、忘れ物の問題は、これらのいずれかに問題が起きることで生じるのでしょうか?

 

枝川

その通りです!
このステージのどれかがうまくいかなくなることで、物忘れが発生します。

 

猫渕

どこに問題があるかによって、物忘れの種類は違ってくるんでしょうか?

 

枝川

例えば、ステージ2がうまくいっていない状態というのは、脳に保存したはずの情報が無くなってしまっている状態ですし、ステップ3がうまくいっていない時は、いわゆる「ど忘れ」の状態です。

 

倉知

わかる……身に覚えがありすぎる……

 

枝川

もう一つ、時間経過に沿って分類すると、記憶の種類は3種類あるということです。

 

菅原

記憶のメカニズムだけでなく、記憶情報の種類も3分できると。興味深いです。
具体的に教えてください。

 

枝川

一つ目が「過去の記憶」。
昔から覚えていることや、時間的に過去の記憶です。

 

倉知

記憶、といわれて一番最初にイメージするのはこれですね。

 

枝川

二つ目が「現在の記憶」。
身近な例ですと、会話中の質問がこれにあたります。過去の記憶と違い、一時的に覚えてはすぐに忘れられやすい内容です。

 

猫渕

言われてみれば、こうして会話が成立するのも記憶の働きということですね。

 

枝川

会話が脱線して内容が一度それてしまうと、話していた内容がわからなくなるのは、この性質の記憶が原因です。

 

猫渕

あー……わかります、すごく。

 

枝川

そして、三つ目が「未来の記憶」です。
将来やるべきことへの記憶を持ち続けて、然るべきタイミングで思い出すとです。例えば、電車に乗っていて目的の駅で降りることができるのはこのタイプの記憶のおかげです。

 

菅原

予定を正しく把握しておくことも記憶の機能ということですね。

 

枝川

では、今回のテーマである傘を忘れないようにするためにはどうすれば良いと思いますか?

 

倉知

ああ、ほんとに講義になってきた……

 

倉知

えーと……さっき教えてもらった3ステップと3つの機能を応用して答えるんだよね、きっと……

 

猫渕

倉知くん落ち着いて!

 

猫渕

そうだねぇ、ぼくの場合、電車に傘を忘れちゃうのは想起がうまくいかないからなのかな……?

 

猫渕

それとも、思い出せないのは、ちゃんと保持できてないからかな?

 

猫渕

どちらにしても、忘れないように3ステップをうまく使った工夫が必要かも。

 

菅原

「傘を持って電車から降りる」という予定、すなわち未来の記憶を鍛えることで対策できる可能性もあるのではないでしょうか?

 

枝川

二人とも鋭いですね~!

 

枝川

方向性としては、忘れないようにする「予防」と、もし忘れても、ミスにならないように講じる「対策」の二つの方向性があります。

 

倉知

猫さんも菅原さんもさすがです……

 

枝川

まずは、忘れないようにする「予防」についてです。

 

猫渕

あ、ちょっと待ってください。
これを忘れたら意味がないからメモします。

 

枝川

これはもう一言で、「傘の存在を意識し続ける」ということに尽きます。

 

倉知

意外とシンプルですね。

 

枝川

極論を言うと、「傘を注意してずっと見ておく」ということになりますが、現実的ではないでしょう。
そこで、できるだけ意識内に入れておくようにしましょう。

 

菅原

具体的には……もしや、倉知くんの方法論は無意識にこれを実現しているのでは?

 

猫渕

たしかに……!
大事な傘にすることで、いつも意識するようになるというわけか。

 

倉知

いや、先生はそれを言ってるわけじゃないと思いますけど……?

 

枝川

見える位置に置いたり、注意を向けておくだけでも良いでしょう。

 

倉知

ですよね。

 

枝川

また、傘を置く際に何かをやりながらではなく、置いたということをにしっかり注意を向けておきましょう。
そうすることで情報のインプットを強力に行うことができ、意識から外れにくくなります。

 

猫渕

ああ、なるほど。つい手元のスマホに集中していて、適当に扱ってしまいがちなんですけど、それがよくないんですね。
ちゃんと置くことを意識して記銘する、と。

 

枝川

また、荷物の数をできるだけ少なくしておくことも重要です。
人が一度に意識できる数には上限があります。

 

菅原

それは興味深いです。
たしかに体感的には、意識すべき物の数が少ない方が忘れ物やミスを防げる印象でしたが。

 

枝川

できるだけ手持ちを減らすことで、意識が傘以外に向かないようにしましょう。

 

倉知

……イベントの戦利品が多い時は気をつけよう……

 

枝川

続いて、仮に忘れたとしても思い出せるような「対策」についてです。

 

猫渕

続けてお願いします、メモしてます。

 

枝川

古典的な方法としては手に書くなど、目に触れる位置に傘の存在を意識させるような仕組みを用意し、置き忘れを防ぐことです。

 

倉知

学生時代によくやりました、それ。
でも、書いたことすら忘れたり、うっかりにじんで読めなくなったり……

 

枝川

その人それぞれで習慣が違うので、万人にベストな方法というのは難しいですが、自分の記憶以外に頼るのがよいのではないかと思います。

 

菅原

記憶以外に頼るという点では、猫渕さんが取っているメモもその一環ですね。
ただ、メモを読み返さなければ意味がないので、傘については別の対策が必要ですが。

 

枝川

折りたたみ傘であれば傘袋に入れて、カバンに入れるようにする。
電車の降りるタイミングでアラームをセットしておいたり、いつも置く場所や持つ場所を決めておく、カバンにかけられるアイテムなどを活用する、というのも有効な手段の一つです。

 

猫渕

アラームは案外いいかもしれません。
音が気になるならバイブレーションでも、習慣づければ傘の忘れ物を防げそうな気がしてきました。

 

枝川

今回の方法は、傘だけでなく様々な記憶に関する課題を解決するヒントになるのではないかと思います。
ぜひ仕組みを頭の片隅に置いておいていただき、自分に合った方法を実践することで日常生活に役立てていってください。

 

倉知

先生、ありがとうございました。とても勉強になりました……

 

菅原

私もさっそく、実践してみます。
【今回話を聞いた人】

枝川 義邦(えだがわ・よしくに)
 
早稲田大学研究戦略センター教授。東京大学大学院より薬学の博士号、早稲田大学ビジネススクールよりMBAを受ける。
研究分野は脳神経科学、経営学、研究マネジメント。専門性を活かして、脳の仕組みや働き、人間の行動などについての講演や執筆も多い。

2015年度に早稲田大学ティーチングアワード総長賞、2017年度にユーキャン新語・流行語大賞を受賞。
著書に『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣』(明日香出版社)、『記憶のスイッチ、はいってますか』(技術評論社)、『記憶力ドリル』(総合法令出版)など。

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