連載
#22 夜廻り猫
「長生きしてね」父に言えなくて… 夜廻り猫が描く介護の眠れぬ日々
「おじいちゃん、長生きしてね」。そう言って父の誕生日を祝う息子を見て、いたたまれない気持ちになった女性。「大好きだった父なのに……」。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「介護の眠れぬ日々」を描きました。
「泣く子はいねが~」「むっ 涙の匂い…!」
きょうも夜の街を夜周りする猫の遠藤平蔵は、疲れ切った女性の心の涙に気づきます。
年老いた父の誕生日。息子はベッドそばで無邪気に「おじいちゃん今日誕生日じゃん! 長生きしてね」と笑います。
女性は「それを聞いて、長生きしてほしいの!? って…驚いたの…私」とつぶやきます。
大好きだったはずの父。いつの間にか「早く死んでほしい」と思うようになってしまった。
毎晩毎晩、1時間ごとに起こされ、トイレに失敗し、外に出て行こうとするお父さん。
遠藤は「無理もない 眠れないと人は 死んでほしくなるか死にたくなるものだ」と語りかけます。
せめて少しでも長くお父さんが眠って、女性が休めるように。ベッドのそばで寄り添うのでした。
作者の深谷かほるさんは、介護に疲れ切ったら「愛情すら枯れると思います」と話します。
どんなに大切な家族でも、寝ずに介護していて疲れない人はいません。
「睡眠不足で疲れたまま暮らすと、いいことはないですよね。判断は間違うし病気にもなる。生きていけなくもなってしまう」と心配します。
ゆっくり休む時間がとれるよう、SOSが出せる社会であってほしいという思いが込められています。
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。単行本1~3巻(講談社)が発売中。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受けた。黒猫のマリとともに暮らす。
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