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ゴールデン街に「人見知り克服養成所」! 自称人見知りが行ってみた
春は人見知りの人間にとって地獄のような季節。どうすれば春を乗り切れるのか。自称人見知りの記者が、新宿・ゴールデン街で見つけた「人見知り克服養成所」に行ってみました。そこで見えたのは、人見知りにも色々なタイプがあるということ。店主の男性は「人見知りの定義って、人によってばらばら」と話します。(朝日新聞統合編集センター編集者・奥令)
人見知り克服養成所に初めて行ったのは半年前のこと。
当時悩みを抱えていて落ち込んでいました。
1人で家にこもっていると根暗が本領発揮してネガティブスパイラルに陥りそうだったので、「誰かと話して気を紛らわせよう」と思ったのです。
まあ、半分はやけ酒でした。
家の近くに有名な飲み屋街・ゴールデン街があるので、ぶらついてみることに。暗くてせまい路地裏のような通りに、たくさんの店の看板が並んでいます。
10人前後が座れるような小さな店が密集していて、どの店をのぞいてみても店内にわちゃわちゃと人が集まっていました。
「誰かと話そう!」と、意気揚々と出かけてきたものの、いざ来てみると店の前で勇気が出なくなりました。
常連でできあがった空気のなかに1人で飛び込んで行くなんて、私にはできない。
なぜなら私は記者だけれど、人見知りなんです。
どうしよう、どうしよう……。
同じ路地をぐるぐると行ったり来たりしているうちに、ある看板が目に入りました。
なんじゃこりゃ。
「人見知りの」「人見知り(の)ための」「人見知りによる」「人見知り克服養成所」
いかにも怪しい。
でも、「ゴールデン街初心者用」の文字もある。
ほかの店と違って一見さん歓迎ってこと?
思い切ってガラスの扉を開けてみました。
店内の広さは5畳程度。真ん中のテーブルを囲むように立っていた20人くらいの人が、一斉にこちらを見ました。
うっ…いや、ひるむな。ひるむな。
「どうぞどうぞ-!」
なんかよくわからない高いテンションで、歓迎してくれている。
この人たち、本当に人見知りなのか?
「なんでゴールデン街で女1人飲み?」
隣の20代男性やら女子大生やらが興味津々な様子で聞いてきます。
私ってこんなに人気者だったのか?と思うくらいの勢いです。
かなり酔ったのでよく覚えていないけど
なんだこれ。なんかすごく楽しかった!
そして悩んでいたことも忘れた!w
私以外の「人見知り」は、一体なにに悩んでいるのでしょう。
なぜ、克服所にやってくるのでしょう。
店に来るお客さんたちに、話を聞いてみることにしました。
この日は、日曜日の夜と言うこともあり、ゴールデン街全体も人がまばら。
店内でお客さんを待ち構えます。
「人見知りなので来ました!」
笑顔で勢いよく入ってきたのは、野村さん(37)。
え、いきなりテンション高くないですか……?
仕事仲間の星さん(32)が人見知りということで、引っ張ってきたそうです。
野村さん自身は、人見知りではないそう。
「仕事の相手とはちゃんと話せるけど、プライベートになると全然話せません。何人かで会うときは、自分が話せる人とばかり話していて、あまり話したことがない人とは全く話さないですね」(星さん)
星さんはがたいが良く、ちょっと強面です。
正直、話しかけるのは怖い感じもします。
ただ、今は初対面の私と難なく話せていますが……
「今日はもう2軒目だから。お酒が入ると、少しはマシになります」
なるほど。
「合コンも苦手です。2回行ったことがありますけど、2回とも人数あわせで頼まれて行っただけ。自ら行きたいと思ったことはないです」
「合コン以外でも初対面の女性は特に無理ですね。友達が飲み屋で女の子に声をかけて盛り上がっても、お酒が入っていなかったら絶対に話さないです」
えええ? せっかく素敵な異性と出会えるかもしれない場で話さないのは、勿体ないですね。
「帰りたい・・・。今すぐ帰りたい。なんなら一気飲みする」
星さんは、チラチラ時計を見ながら落ち着かない様子です。
なんかすみません。私も帰りたくなってきます。
「仕事や飲み会は、早く行きます。8時集合でも7時に行きます。一番に行ってみんなを出迎えないと、気を遣わなくてはならなくなるじゃないですか」(星さん)
ん? どういうことですか?
「たとえば先に2人来ていたら、遅れてきた人がその2人に気を遣って何か話しかけなきゃならないですよね。それがいやなんです。だから誰よりも先に到着しておきます。そうすれば遅れてきた人から話すはずで、自分が気を遣わなくても済むので」
え、そこが気になるんですね。
同じ「人見知り」でもツボが違うんでしょうか。
早く行っても遅く行っても気を遣うのは変わらないような・・・むしろ誰とも話したくなかったらぎりぎりに行く方が有効な気さえします。
ちなみに私は合コンなどは若干緊張する程度ですが、立食パーティーが本当に苦手です。
友達の結婚式の二次会でも、仕事の付き合いでも、どこにいていいのかわからなくなります。
特にトイレとかで一度抜けると、戻るのに苦労します。
いっそのこと終わるまでトイレにこもっていたいくらいです。
お酒を持ってどこかの集団に入っていけば良いんでしょうけど、「入っていったら迷惑かも」と、よくわからない不安にさいなまれて勇気がでないんです。
この話は星さん以外のほかのお客さんから「意味がわからない」「行きたいところにサッと入ればいいのに」などとブーイングをくらいました。
え?わかってもらえませんか…?
星さんは「気遣い苦手タイプ」、私は「できあがった輪が苦手タイプ」というかんじでしょうか。
こんなに意見が違うと、そもそも私って、本当に人見知りなんでしょうか。
なんだか自信がなくなってきました。
他の人見知りのお客さんにも、10人程度ですが、話を聞いてみました。
一番多かったのは電車などで人に会ったときに困るという話。
「電車に乗っていて、先輩に会ってしまった。とっさに寝たふりをしたら、隣に座ってきたので、うっすら目を開けて相手が降りるのを確認。その後に電車を降りた」(24歳会社員男性)
「帰り道で仕事関係の人に会ったら逃げる」(32歳男性)
「電車で会ったら気づかないふり」(36歳会社員男性)
「そもそもいやなものは見えない」(37歳男性)
なるほど、逃走か気づかないふりか、対応は分かれますね。
私は観念して話すことが結構多いかもしれません。なんか気づかないふりを察されるとより気まずいので…。
「基本的に初めて会う人に対しては心の壁がある。今日は社交的なバージョンで話している。本当はもっと言葉も汚くて話し方も違う」「仲いい人以外、言いたいことが全く言えない」(35歳会社員男性)
心の壁系ですね。
「仕事など、話題やテーマがあれば話せる。会釈するくらいの社交性はある」(35歳会社員男性)
雑談力がない系。これもよくわかります。
テーマがあれば話せるんですけどね・・・。
「若いときは人見知りした。というか、黙っていることがかっこいいと思っていたから」(45歳男性)
ファッション系もいました。
「究極の人見知りは、こんなところにこない」(36歳会社員男性)
それもそうかもしれません…。
同じ人見知りでも、色々なバリエーションがあるようです。
人見知りに詳しいであろう、店主の林大輔さん(41)に聞いてみました。
「人は誰でも人見知りだよ」
え?どういうことでしょうか。
「人見知りの定義って、人によってばらばら。ほとんどの人が自分のことを人見知りだと言う。『自分は人見知りじゃない』と言う人の方が少ない」
「はじめは『人見知り克服5箇条』みたいものを店内に貼りだそうと思っていたけれど、いざオープンしたら客同士が勝手に話していた。人見知りを本当に克服するために必要なことは、もうすでに目の前で起きていることだと思って、5箇条は結局貼りませんでした」
この店には人見知りを克服するための工夫はほとんどありません。
唯一特徴といえるのは、店内は真ん中にテーブルがあり、そのテーブルをみんなで囲むように立ち飲みするかたちになっていることでしょうか。
ほかの客と向き合うので、知らない人と話さざるを得ない構造になっています。
みんな人見知りを名乗って来店するけれど、テーブルを囲めば普通に楽しそうに話しています。
うーん、本当はみんな人見知りじゃないのでは?
コミュニケーションをとるなかで自分が苦手だと思っていることを「人見知り」と思っているのではないでしょうか。
そうすると、次の疑問が湧いてきます。
人見知りって、けして「良いこと」ではないですよね。
なのに、どうしてみんな人見知りを自称したいのでしょうか?
「テレビの影響が大きい。芸人の面白いトークを見ているせいで『自分はそんなに面白い話ができない』と自信を失っている人が多いと思う」
そう話してくれたのは会社員の中村さん(36)。
たしかに、自分が何か言うことによって場がしらけるのではないかと考えると、話をするのって結構勇気がいる。
誰も期待していないのに、「面白い話ができないからどうしよう」とか、「すべるかも」とか。無駄に悪い方向に考えて、何を話して良いかわからなくなります。
自意識過剰なんですかねぇ・・・。
「どこに行っても大丈夫だという自信がないから、自分のことを人見知りだと言っているんですよ」
なるほど。自分の期待値をあらかじめ下げておけば、うまく話ができなくても「仕方ない」と思ってもらえる。
うまく話ができなかったときのために「人見知り」を自称することで予防線を張るということでしょうか。
「自分の話に笑ってもらえる場が大事。意外と笑ってもらえたという自信があれば人見知りから脱することができる。話を聞く側の人間、大きく言えば社会全体の空気感というのもあるのではないか」
たしかに私も、みんなが笑ってくれたら、もっと積極的に話ができるかも。
人があまり面白くないことを言ったときに注がれる冷ややかな目線が、人見知りを生み出しているのかもしれません。
どんな場でも温かい空気って大事ですよね。
この日会った人見知りさんは色々なタイプがいました。
ただ、共通していたのは、「人と仲良くなりたい」という気持ちはあるということ。
「本当は心の中では『人と話したい、仲良くなりたい』と思っている。でもそれは理想で、現実はそれができない。初対面だとうまく話ができない自分がいるんです。やっぱり人と仲良くなりたい気持ちがあるから、こうやって連れてこられると断れないし、来ちゃうんですよね」(星さん)
うんうん。人見知りと言いつつも、やっぱり誰かと話したいんですよね。
なんかさみしがり屋の面倒くさいやつ感が満載ですが。
だから、みんな笑いのハードルを下げて温かく見守ってください。
克服養成所なので、一応、克服のための極意を林さんにご教授いただきました。
1、 まず、相手に興味を持って、質問をする
2、 答えが返ってきたら、オーバーなリアクションをする
3、 話しながら共通点を探す
オーバーリアクションで相手に気持ちよく話してもらい、共通点を見つけて意気投合すれば会話が盛り上がると言うことのようです。
うん、たしかに。自分が話さなきゃ、何か面白いことを言わなきゃ、と思うから怖いんでした。
この日は日曜日ということもあり、ゴールデン街初心者の方が多かったです。
でも普段はそうでもありません。
私も何度か通っているうちにすっかり常連になりましたが、一見さん6割、常連さん4割くらいだそうです。
人見知りを克服したい人は是非足を運んでみてください。お店の正式な名前は「bar PHO」といいます。
最後に、半年通って私の人見知りは克服できたのか?ということですが・・・
だいぶ克服できたと思います。
「どうしよう…」と、うじうじしながら同じ路地を行ったり来たりすることもありませんし、常連ばかりの店に1人で飛び込むことできるようになりました。
なにより、初めて会った人に対して、以前より緊張せず自然体で話せるようになったと思います。
ただ、やっぱり立食パーティーだけは苦手です。
というか、冷ややかな視線が注がれたときのために、苦手ということにしておきます。
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