連載
#19 夜廻り猫
裏切り・倒産…精根尽きても笑ってくれた親父 夜廻り猫が描く励まし
「これからは首輪のない犬。なくなったのは、首輪だけだ」。父から継いだ会社を大きくしたつもりが、社員に裏切られてつぶしてしまった。それでも笑ってくれた父ーー。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「父の言葉」を描きました。
「泣く子はいねが~。むっ。涙の匂い…!」
涙の匂いをかぎつける猫の遠藤平蔵は、きょうも夜廻り中、遠くを見つめる男性に声をかけます。
「そこなおまいさん泣いておるな? 心で」
男性は、ぽつぽつと語り始めます。
昔、父の小さな工務店を継いだこと。バブルにのって上り調子だったとき、信頼していた社員に裏切られたこと。損害は億を超え、会社はつぶれてしまったこと。
父に手を突いて謝ると、父は笑いながら「面白かったな」と言ってくれました。
その思い出が、男性の心の中にずっと残っています。「心の中で ありがとうって言ったんだ」
いま、海の向こうに着工しているマンション。男性は照れながら「うちが建ててんの」と言ってほほえむのでした。
誰しも、生きていれば浮き沈みはあり、自分の力では解決出来ない苦境もあるかもしれません。
でも、作者の深谷かほるさんは「つらいときにも、気力を失わない人もいるんですよね」と話します。
そんな「気力や救いが生まれる時」を、描きとめたいと漫画にしたそうです。
「形はないものですが、無限の励ましを誰かに与えられることもあります。人が人に与えうるものは、無限に大きいんだなと感じます」
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。単行本1~3巻(講談社)が発売中。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受けた。黒猫のマリとともに暮らす。
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