連載
#25 AV出演強要問題
AV強要、ピルを使わせ撮影 1通の「告発メール」から露見した実態
政府が対策を進めるAV出演強要問題。出演女優たちに「肌がきれいになる」「胸が大きくなる」などと国内未承認のピル(経口避妊薬)が違法に渡されていた。違法行為が判明したきっかけは、この問題を取材する記者の元に届いた「一通の告発メール」だった。発信者に会って話を聞くうちに、当時未成年だった女性たちがピルを使わされていた実態が明らかになった。(朝日新聞記者・高野真吾)
「告発メール」には、AV出演強要に至るまでの経緯が書かれていた。
関東在住の女子学生(20)に会って話を聞く中で明らかになったのが、撮影現場でピルを使わされていた実態だった。女子学生が紹介してくれた同じ境遇の社会人女性(19)も、ピルを使わされていたと証言した。
ピルは医師の処方箋(せん)が必要な医薬品だ。プロダクションはピルに加え、性病などの治療のために軟膏(なんこう)も女性たちに渡していた。朝日新聞が厚生労働省に確認を求めたところ、女性たちが使わされていたピル、軟膏はともに「未承認医薬品」との回答を得た。同省は「未承認薬の譲渡は医薬品医療機器法(旧薬事法)に違反する行為」としている。
プロダクションの社長は取材に「ピルはネットで個人輸入したもの。欲しいと言われたので渡した。他の女優にも欲しいと言われればあげている」と譲渡を認めた。同じく軟膏も、個人輸入し、女性に譲渡したと話した。
女子学生と社会人の女性は、それぞれ別々にプロダクションと接点をもった。
2人はともに高校3年生だった2016年2月、ツイッターをフォローしていた30代の有名AV男優から、個別にダイレクトメッセージをもらった。その後、LINEでやり取りした末に会うことになり、学生は2016年3月、社会人は4月に都内の主要駅で待ち合わせた。
男優は、女性たちに事前に「マネジャー」と告げていた30代の男性と2人で現れた。2人はごく自然な感じを装い、駅近くの事務所に女性を連れ込んだ。その場には50代のプロダクション社長が待ち構えていた。女性たちは、男性は男優のマネジャーだと考えていたが、実はこのプロダクションでAV女優のマネジャー役をしていた。
女性たちは圧迫感を感じる状況で、AV女優になるように口説かれた。プロダクションへの所属、撮影という流れが強引にできていく中、社長から「肌がきれいになる」「胸が大きくなる」などと言われ、ピルを勧められ、ピルシートを渡されたという。
飲み始めてから数日後、2人とも不正出血を起こした。女子学生がマネジャーにLINEで問い合わせると、「気にせず飲み続けてもらえれば大丈夫!」と返信があった。体調がよくないと訴えても、「慣れたら副作用かなり少ないよ!」と言われた。
女性2人は、出演作品でコンドームをつけていない男性との性行為をさせられた。性感染症であるクラミジアや淋(りん)病、婦人科系感染症のカンジタ膣(ちつ)炎にもなったという。その際、社長から外国産の固形薬と軟膏を渡された。社長から直接、患部への処置をされたこともあった、と取材に証言している。
朝日新聞は2017年6月1日の朝刊紙面で、一連のできごとを報じた。翌6月2日、衆院厚生労働委員会で、当時民進党だった初鹿明博議員(現・立憲民主党)がこの記事を取り上げた。
初鹿議員「(プロダクション社長による女性2人へのピル譲渡は)法に抵触する行為なのか」
厚労省の医薬・生活衛生局長「プロダクションの社長があらかじめ必要な許可を受けることなく、業として医薬品を輸入し、譲り渡している場合には、医薬品医療器機法違反となるというふうに考えられます」「業としてということにつきましては、基本的には反復的、継続的に行われているということを指すもので(中略)営利の目的かは問わない」
女性2人はプロダクションから数カ月間、複数回にわたり、ピルのシートをもらったと証言している。
初鹿議員は薬が未承認だった場合についても質問した。
初鹿議員「業ではないとしても、輸入してきた未承認の薬を他人に譲り渡す行為は法律に抵触しないんでしょうか」
局長「業として行っているかいないかにかかわらず、医薬品医療機器法の第55条におきましては、未承認の医薬品を譲り渡すことについて、医薬品医療器機法違反というような規定になってございます」
厚労省に女性が受け取ったピルと軟膏の画像、軟膏の説明書のコピーを送付し、二つが国内で承認されている薬かどうかの確認を求めた。いずれも「未承認医薬品」との回答を得た。
「撮影の過程において、ものすごく体を傷つけるようなことが当たり前になっているのではないか」
11月30日、東京・永田町の衆院第一議員会館で開かれた「いまも続くAV出演強要被害:被害根絶を目指して」と題した集会。被害者支援をしている国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」(HRN)、人身取引被害者サポートセンター「ライトハウス」、ポルノ被害と性暴力を考える会(PAPS)が主催した。駆けつけた多くの国会議員の前で、ライトハウスの藤原志帆子代表は、相談者の体験を踏まえ上記のように語った。
ライトハウスによると、プロダクションからピルを飲まされたと訴える相談者は10人以上にのぼる。中には未成年もいて、海外のピルと認識していたケースもあり、ピルの譲渡をしているプロダクションは複数に及んでいるという。
藤原代表は集会で、「(低用量ピルや緊急避妊ピルを)飲んだら避妊はできるけれど、性感染症は防げないので、何度も性感染症になってしまう。完治を待たずに、スケジュールが決まれ、体はしんどいのだけれど撮影しなければいけない」事例もあると述べた。
集会の冒頭では、公明党のAV出演強要問題の対策プロジェクトチーム座長をつとめる佐々木さやか参院議員がマイクをにぎった。「AV出演強要は女性に対する重大な人権侵害で犯罪だ。なかなか声を上げにくい被害の方々に、小さな声に、耳を傾けていきたい」と継続的に問題に取り組むとした。
AV出演強要被害に遭った、くるみんアロマさんは、当事者がバッシングにさらされる厳しい現実を話した。「他の女の子が被害にあっていくのなら(それを防ぎたい)と、私は言うことを決意した。(公表後、ネット上で)自業自得だ、馬鹿じゃないかとか、すごいやられた。被害をなかなか言えないというのは、普通の心理なのだなと思う」
HRNの事務局長をつとめる伊藤和子弁護士は、「労働者と同様にブラックに搾取される一方、性搾取された被害が映像といく形でどこまでも広がっていく。現行法の枠組みでは(被害対処が)十分ではないので、特別立法をつくってもらいたい」と強調した。
――(実物を示しながら)こちらのピルは海外からのですか
社長「個人輸入をしたものです。欲しいと言われたので(女性たちに)渡しました」
――ピルを所属女優に飲ませることは、通常にやっていることなのですか?
社長「欲しいと言えば渡しますよ」
――女子学生は、どういう理由で欲しいと言われたのでしょうか
マネジャー「生理不順」
――社会人については?
マネジャー「どうですかね。覚えていません」
――個人輸入した医薬品を第三者に渡すことは医薬品医療器機法(旧薬事法)で禁止されています。法に触れる可能性があるとの認識は?
社長「全然なかったですね。僕はよかれと思って(あげた)」
――ピルは日本では医薬品で、医者にいって処方箋(せん)をもらって出してもらうものです。マネジャーは、そうした専門知識はあるのでしょうか。
マネジャー 「ないです」
――女性たちは、ピルを飲んで不正出血をしたと言っています。体に負担がかかったと思うのですが
マネジャー「本人が欲しいといったから渡しただけです」
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AVに関係する情報を募集しています。出演強要被害に遭った男性、女性、業界の内情を語ってくれるAVメーカー、プロダクション幹部からの連絡をお待ちしています。必要な個人情報は厳守し、取材にあたります。
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