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発売前の本、webで無料公開 新潮社が2週間限定で 担当編集者に聞く

新潮社が発売前の本をネット上で無料公開したことが話題になっています。

これが「ルビンの壺」。向き合った2人の顔にも大型の壺にも見える
これが「ルビンの壺」。向き合った2人の顔にも大型の壺にも見える 出典: 新潮社のホームページより

目次

【ネットの話題、ファクトチェック】

 「この小説、すごすぎて、いまだコピーをつけられずにいます。恐縮ですが皆様のお力をお借りしたく、発売前に異例の全文公開に踏み切ることにしました」。新潮社が発売前の本をネット上で無料公開したことが話題になっています。2週間限定で公開されているのは、覆面作家「宿野かほる」のデビュー作「ルビンの壺が割れた」です。異例のプロモーションの狙いについて、担当編集者に話を聞きました。

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「結末は絶対に明かさないでください」


 新潮社が14日に公開した特設ページ。「《担当編集者からお願い》「すごい小説」刊行します。キャッチコピーを代わりに書いてください!」というタイトルの下に、こんな説明書きがあります。

 ここに公開するのは、ある日突然送られてきた、まったく名前の知られていない著者による、刊行前の小説です。

 ものすごく面白く、そして、ものすごく奇怪な小説でした。

 あまりにすごいので、私はいまだ、この作品にふさわしいコピーを書けずにいます。

 よろしければ、この小説をお読みいただき、すごいコピーを書いていただけませんか。

 (ただし結末は絶対に明かさないでください)

 なお、以下からお読みいただける〈キャンペーン版〉は、2017年8月22日に刊行予定の本を2週間限定で事前公開するものです。

 よって、まだ修正途中の原稿であり、2週間が経つと消えてしまうものであることをご了承ください。

 詳しいキャンペーン案内はこの小説本文の後に付しました。

 まずは、この稀有な小説を、ぜひお楽しみください。

 そして、みなさまのご応募を、心よりお待ちしております。

 担当編集者 拝
「ルビンの壺が割れた」の特設ページ
「ルビンの壺が割れた」の特設ページ 出典: 新潮社のホームページより

担当編集者に聞きました


 無料公開されている小説は、覆面作家「宿野かほる」のデビュー作「ルビンの壺が割れた」です。

 すでに「何をいってもネタバレになりそう」と話題になっており、新潮社の文芸書編集部のツイッター投稿はリツイートが1万を超えています。

 ツイッター上では「すごいという感想があふれているので、半信半疑で読んだら、ほんとにすごかった」「結末を知ればまた冒頭から読みたくなる」「申し訳ないけど、何が面白いのかさっぱり」といったコメントが寄せられています。

 どんな狙いで発売前の本を無料公開することに決めたのか? この本の担当編集者である、文芸第二編集部の西山奈々子さんに話を聞きました。

 ――覆面作家とありますが、本当に新人作家なんですか

 「著者の意向により、経歴も含め、プロフィールなどは一切非公開での出版となりました」

 ――発売に至った経緯は

 「ある日突然、原稿が送られてきました。読んだらとても面白かったので、上司にもすぐに読んでもらい、発売を決めてもらいました」

 ――2週間限定とはいえ、発売前に無料でweb公開を決めた理由は

 「無名作家のデビュー作をいきなり発売し、書店店頭で手に取ってもらうことはとても難しいので、発売前にどうにかして話題を作ることができないかと考えました」

 「『読んでもらえたら絶対誰かと話したくなる作品』だと思ったので、とにかくまずは読んでもらえる場を作ろうと。そのときに冒頭の試し読み等では作品の面白さが全く伝わらないと考え、異例の全文公開となりました」

 「また、著者から『完全覆面でご迷惑をおかけするかもしれないので、プロモーションなどについてはすべてお任せいたします』と言ってもらえたことも決め手となりました」

新潮社内で「ルビンの壺が割れた」を読んだ人の反応
新潮社内で「ルビンの壺が割れた」を読んだ人の反応 出典: 新潮社のホームページより

作品の魅力とは


 ――なぜ2週間だったのでしょうか

 「webには面白い無料コンテンツがたくさんありますし、無料で遊べる面白いゲームアプリもたくさん出ています。それらがライバルにもなりえると考えれば、いくら無料で面白いものが読めるとはいっても、公開してすぐに読んでくれる人は少ないだろうと考えました」

 「とはいえ『読んだら必ず誰かと話したくなる』作品なので、口コミでだんだんと広がるはず、だとしたらこれくらいの時間が必要ではないか……と。ふたを開けてみたら、初日から反響が大きく、キャンペーンサイトは三日間で50万近いアクセスがあったので、正直驚いています」

 ――キャッチコピーを募集した狙いは

 「2つあります。1つは、本当にコピーをつけるのが難しい作品だったため。ツイッターで『何を言ってもネタバレになる』という意見が寄せられましたが、まさにその通りです」

 「とはいえ、それでもなんとか考えるのが編集者の仕事なわけですが、もう1つあった課題、『無名作家のデビュー作を読んでもらう動機づけ』のために、その状況を逆手にとろうと思いました」

 「つまり、何か目的があったほうが、読んでもらいやすいのでは、と……。それで、今まさに悩んでいるコピーを一緒に考えてもらえませんか、というお願いをすることにしました」

 ――単行本にしてはページ数が少ないのではといった声も上がっています。書籍は大幅加筆するのでしょうか? 現時点で決まっている主な変更点を教えてください

 「まだ著者と相談中です」

 ――どんな反響が寄せられていますか

 「本当にすごい作品で驚愕した、という声から、期待して読んだのにがっかりした、という正反対の声まで、様々なご意見をいただいています」

 「ミステリーとして読んだ、という方もいて、もちろんそう読んでいただいても構わないのですが、私個人としては、既存のカテゴリーにはくくれない作品だと思っています」

 「いずれにせよ、たくさんの方に読んでいただき、多くの感想をいただけているのが本当にありがたいです。キャッチコピーも、すでに3500通以上の応募がありました」

 ――改めて、作品の魅力を教えてください

 「先ほどもお伝えした通り、何か言おうとするとネタバレになってしまいそうで難しいのですが、とにかく読みやすく、圧倒的に面白い! そして短いので、すぐに読めます。私は初めてこの原稿を読んだとき、そのリーダビリティーとあまりの展開に大興奮しました。そのすごさは、ぜひ作品を読んでご自身で確かめてみてください」

 ◇ ◇ ◇

 キャッチコピー案の募集は7月27日23時59分まで。Twitterまたはフォームから受け付けており、優秀作品に選ばれた5人に、5千円の図書カードと、自分のキャッチコピーが帯になった特装本をプレゼントするそうです。

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