お金と仕事
オーバーブッキング問題、日本で起きない理由 切られない乗り方は?
米国で問題になっている飛行機のオーバーブッキング問題。実は、日本でもたびたび起きていますが「乗客が無理やり下ろされた」という話は聞きません。緻密な予約システムと、事前に航空会社が「危険な便」を把握する対策。日本で「引きずり事件」が起きない理由を探りました。
「ユナイテッドのようなことは、日本では起こりません」。日本の大手航空会社で空港勤務の経験がある40歳代の元社員は断言します。
ユナイテッドのようなこと、とは、今月9日に米シカゴ国際空港で起きた一件です。米ユナイテッド航空が自社の便に職員を乗せるため、搭乗していた乗客を機内から引きずり下ろす映像が交流サイトで拡散し、ユナイテッド航空は強い批判を受けました。
日本の航空会社でも、オーバーブッキングは日常的に起きています。予約だけして実際には来ない人がいることを、ある程度想定しているからです。では、オーバーブッキングが起きた時、どう対応しているのでしょうか。
「オーバーブッキングの便は、会社は1、2週間前にわかります。だから、あらゆる対策を取ります。まず、会社関係の人は、たとえ出張でも乗せません。これは航空会社の暗黙の了解です。そして、当日は早めに有人チェックインカウンターに来られた変更可能な運賃のお客様、とりわけ真ん中の席の方に、『予約便より前の便なら通路側に座れますよ』などと話をして、誘導します」と元社員は話します。
それでもオーバーする場合はあります。次の手段は、「搭乗30分前に、後続便などへの振り替えに、協力金を支払うことで手を挙げてくれる方を募ります」。協力金は、後続便の場合は1万円、翌日便の場合は宿泊代と2万円と決まっているそうです。
「日本人のお客様は優しい人が多いので、基本的にはここで解決します。学生さんや帰宅するだけの多頻度のお客様が手を挙げてくれることが多い」
それでも解決しないこともあります。「その場合は、出発15分前までに保安検査場を通っていないお客様を切ります」。これで、少なくとも飛行機に席数以上の乗客が乗ることはなくなります。
国土交通省の資料によると、昨年4月から6月のゴールデンウイークを含む3カ月間のオーバーブッキング数は、全日空(ANA)が958席、日本航空(JAL)は238席でした。そのうち、自主的に振り替えに協力してくれたのは、ANAが793人でJALは201人。
最後に「切られた」人は、ANAだと165人、JALだと37人でした。乗客1万人あたりにすると、ANAは0.19人、JALは0.06人と、かなりのレアケースだと言えます。
特に混雑が予想される便の前後には、あえてぎりぎりまで空席を持っておく、という対応もしているそうです。
一連の流れで、乗客から文句を言われるケースはないのでしょうか。「実はあります」と元社員は話します。
「例えば、搭乗ゲートで後続便への振り替えに協力してくれるお客様を3人募って、3人手を挙げてくれたとします。しかし、15分前までに保安検査場を通らなかったお客様が1人でると、不足数が2席になり、手を挙げて下さったお客様の中から1人乗って頂くことになります。その時に『何で乗らなきゃいけないんだ』とクレームを言う方が時にいらっしゃいます」
つまり、もらえると思った協力金をもらえず、予定通りに乗れる人が、文句を言うのだそうだ。
「もうひたすら『ごめんなさい』と言うしかありません。ほとんどはスムーズに乗って頂けるのですが、そういう方がいて、1、2分、出発が遅延することがあるんですよ」
ユナイテッド航空は今回の一件を受け、定員を超えた場合に席を譲る乗客に支払う補償金の上限を今の1350ドル(約15万円)から1万ドル(約110万円)に引き上げると、27日に発表しました。
日本でもごねると、協力金が上がる可能性はあるのでしょうか。「それはありません。1万円か2万円が、ルールですから」
オーバーブッキングについて各社に問い合わせたところ、格安運賃が魅力のローコストキャリア(LCC)のバニラエアからは驚きの答えが返ってきました。
「これまでにオーバーブッキングは一度もありません」
先ほどの元社員は「今の予約システムは、かなり精度が高く、複雑な料金体系を加味した収益を最大化できるようになっています。だから、GWなどの大型連休やお盆、年末年始などは、オーバーブッキングにならないよう綿密に対策を打っています」と話します。
「むしろ、普通の週末の方が、大型機や中型機を使っている沖縄や大阪(伊丹)、札幌(新千歳)、福岡の便でオーバーブッキングが出やすいんです」
どんなに混雑した時でも確実に乗るためには、「15分前までに必ず保安検査場を通過した方がいいですよ」とアドバイスしてくれました。
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