お金と仕事
東京ガス「火ぐまのパッチョ」、会社案内で「大人の恋」を演じた理由
東京ガスのキャラクター、火ぐまのパッチョ。子どもから大人まで親しまれ、登場から11年目を迎えた人気ぐまです。ですが、彼は「ゆるキャラらしからぬ」一面が。その姿を、会社のパンフレットで発見してしまいました!
読み聞かせをしようとして、私は固まってしまいました……。バー? これ、本当に業務案内のパンフレット? 子どもにどう説明しよう?
読み進めると、バーのシーンは一部だけ。パッチョが会社の施設を訪れて、ガスを家庭に届ける仕組みや社員の姿をイタズラっぽく紹介する場面が軸になっていますが、そもそもこんな脱力路線の業務案内は見たことがありません。
硬そうなイメージのガス会社の業務案内がなぜ? 東京ガスの広報部を訪問してみました。
この冊子、もともとは「エネルギー会社とは」というような硬派なものだったそうです。
「でも、せっかくお客様に渡しても、なかなか読んでもらえずゴミ箱に捨てられてしまっていました」と広報部の桑名朝子さん。
家庭に当たり前のように届くガス。どうしても「公益事業者」の硬いイメージがつきまとってしまうそうです。身近すぎて見えにくいけれど、安全を支える社員の顔やガスの良さをもっと知って欲しい。本当の姿をみなさんに届けたいのに、読んでもらえない。
「どうすれば読んでもらえるのか」
「捨てられずに引き込めるか」
従来のイメージを守りつつも、もっと身近に「ここにいるよ」と親しみをもってほしい。「姿が見えすぎちゃうぐらいのきっかけが欲しい」と考えた末に、3分でわかるような「読むのではなく見る冊子」を作ってみることにしたそうです。
「硬派」から「脱力」への大転換。反応はどうだったのでしょうか。
「裏表紙がいきなりパッチョのおしり。みんな、びっくりされました。いわゆる会社案内が、これでいいのだろうかという声は、確かに社内外からありました」
でも、あんまり真面目すぎたら読んでもらえないのは、過去に痛いほど分かっていた広報部。とにかくチャームポイントを強く出してみようという挑戦だったそうです。
「イベントや学校教育で配ってみたところ、『わかりやすい、親しみがわいた』との声が多くあがり、冊子にパッチョと登場する社員からも『誇らしい』と好評で、安心しました」と桑名さん。完成から3年、既に2度ほど増刷したそうです。
パッチョがバーで美しい女性を口説く……。ゆるキャラのイメージを壊すという心配はなかったのでしょうか。
「いえ、物語を作るために、バーは欠かせない場面でした。好奇心旺盛、でも冷めたところもある。そんな姿の一つです」。
パッチョが業務案内するだけでは、「ゆるキャラ」「かわいい」と子ども向け冊子に思われかねません。決して子ども向きでは無く、大人が手に取っても「何だろう」となるような仕掛けを作ることで、ビジネスシーンにも生かせるような面も作り出せたとのことです。
「実は『女性好き!』なパッチョが、ふられて悲しくて悔しくて、じぶんさガスに出て、ゆる~く探求するきっかけがバーなのです」
ちなみにパッチョ、バーにいますが年齢はナイショ、火曜日に生まれ、顔は漢字の「火」とのことです。「火の国」の王子なのに体が青いのはなぜでしょう?
「燃焼状態の良い、いい炎の色だからです。印刷時にはグラデーションの表現を大事にしています」
そんなパッチョに昨年10月、友達の「電パッチョ」が登場しました。体は電球の色だそうです。
電力自由化の中、総合エネルギー企業としての顔も見せています。
東京ガスの今年のカレンダーでは、二人がツーショットで盛り上げています。
「ゆるキャラだけど、大志を抱いている。電気も、水素も作る総合エネルギー企業という社内外への意識を形にしました」と桑名さん。
カレンダーの12月では、海の彼方を眺めています。
「海外での事業も展開していることをイメージした写真です。2人は『撮影で海外に行きたかったな~』という大いなる野望を、胸に抱いています」
実は、2017年は同社にとって大きな意味のある年であるため、カレンダーを作ったのだそうです。
「4月に都市ガスの自由化が実施されます。今までのお客様との薄かった関係ではなく、選ばれる存在になるために伝える活動が大切です。『ガスをやっている会社』ではなく、総合エネルギー企業であることを伝えて信頼され、そばにいる会社を目指しています」
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